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魔王総統 ~最強の独裁者が異世界で戦争国家を生み出した~  作者: 結城 からく


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第7話 独裁者は盗賊を蹂躙する

 やがてゴブリン達は盗賊国の砦に辿り着く。

 遠距離攻撃や罠などで犠牲は出たものの、全体で考えると少数と言える。

 この程度は想定内であった。

 戦局は私の思い描く通りに進行している。


 ゴブリン達は外壁をよじ登って侵入を試みる。

 すぐさま火球や弓矢で撃ち落とされるが関係ない。

 生き残った個体が次々と押し寄せており、絶え間なく脅威となっている。

 そのような状態では、当然ながら王国軍に手出しする余裕もなかった。

 遠からず迎撃が間に合わなくなるだろう。


 外壁の上に立つ盗賊達は、必死にゴブリンを叩き落としていた。

 思わぬペースで攻め切られたことに驚いているようだ。

 耳を澄ませば増援の要請をしているのが聞こえた。

 果たして仲間が来るまで守りを維持できるのか。


 次の瞬間、外壁の上で爆発が起きた。

 血飛沫に混ざって肉片が散る。

 衝撃で近くのゴブリンと盗賊が転落していた。

 数秒後には新たな爆発が炸裂し、またもや双方に被害が出る。


 一部のゴブリンに持たせていたプラスチック爆弾の仕業だ。

 起爆のタイミングは丸投げしていたが、なかなかに良い具合である。

 及第点は超えたと評してもいいだろう。

 マインドコントロールで洗脳されたゴブリン達は、己の死すら恐れずに爆弾を使用する。

 この時点で十分すぎる働きをしてくれていた。


 間もなく私達のもとに伝令兵がやってきた。

 伝令兵は敬礼をして報告を述べる。


「ゴブリンが門を突破しました。散開して盗賊を襲っています」


「よろしい。混乱に乗じて門を制圧し、都市内部の敵を攻め滅ぼせ。ゴブリンごと撃ち殺しても構わない」


 私が追加の指示を出すと、伝令兵はすぐさま立ち去った。

 これで司令官としての仕事は実質的に終了だ。

 ゴブリンが門が潰れた段階で、我々のやることは一つに絞られた。


 すなわち蹂躙である。

 持参した鉛玉をひたすら敵に浴びせるのだ。

 そうして華々しい勝利を心ゆくまで堪能する。


 細かな指示は不要だろう。

 兵士達にはそれぞれの判断で動いてもらう。

 実戦での対応力も見せてもらわねばならない。


 私は拳銃を撫でながらシェイラに言う。


「じきに一方的な虐殺が始まる。我々の侵略を知らしめる良い戦いになりそうだ」


「素晴らしい作戦です、閣下。冷酷非情に徹してこそ、偉大なる勝利を掴み取れます。そこに倫理や躊躇は不要です」


「君の言う通りだ。反対意見はマインドコントロールで封殺できる。元の世界のように、面倒な穏健派に邪魔されることもない」


 かつての苦労を思い起こしていると、無数の銃声が響き渡った。

 見れば王国軍の戦闘が砦に達している。

 ゴブリンのこじ開けた門を抜けて、盗賊との戦いが始まったようだ。


 銃声は鳴り止まない。

 同時に兵士の怒声も上がっていた。

 彼らもしっかりと洗脳している。

 死の可能性にも怯えず、私の望む通りの戦果を示すはずだ。


 馬車は少しずつ前進する。

 着々と砦に近付きつつあるが、どうしようもなく遅い。


 もっと速度を上げられないのか。

 違う。

 私が急いているだけである。

 落ち着かなければいや無理だ。

 戦場が、私を、待っているのだから。


「血と硝煙の香りだ。死が芽生えてきた。いいぞ、もっとだ。まだ足りない。今だ、戦禍を撒き散らせ。骨の髄まで楽しませろ」


 底無しの昂揚感が沸いてくる。

 もはや止めようがなかった。

 私は戦争中毒なのだ。


 馬車の進みが、遅すぎる。

 何をやっているのか。

 握り締めた拳は小刻みに震えていた。

 気分を落ち着けるために浅い呼吸を繰り返す。


「私は戦争を取り戻した。誰にも渡さないぞ。すべて私のものだ」


「世界は余さず閣下のためにあります。さあ、殺しましょう。滅ぼしましょう。数多の憎悪が貴方を求めています」


 シェイラが励ますように意見を述べる。

 彼女の目にもうっすらと涙が滲んでいた。

 私と同じく感動しているのだ。

 もう手に入らないと思っていた戦争が、世界を変えて再来した。


 狂気と理性に苛まれること暫し。

 とうとう馬車が砦に着いた。

 私は拳銃を手にして降りると、後方の軍隊に向けて命じる。


「――全軍突撃だ。欲望のままに狩り尽くせ。日没までにこの砦を占領するぞ」


 返ってきたのは雄叫びだった。

 兵士は一斉に駆け出して、既に戦い始めていた者達に混ざる。

 私とシェイラは破壊された門の位置から前方を眺める。


 砦内には夥しい数の死体が転がっていた。

 大半が薄汚い恰好の盗賊で、全身に銃弾を受けて死んでいる。

 中にはゴブリンもいるが大した問題ではない。

 彼らは献身的な活躍で役目を果たした。

 これより先はどれだけ死のうと構わない。


 自動小銃を構える兵士達は盗賊を容赦なく撃ち殺す。

 基礎を徹底した連携により、隙を作らずに戦闘を続けていた。

 まだ拙い部分もあるが、初の実戦としては上出来だろう。

 誰もが躊躇わずに訓練通りに動くことができている。

 それだけで驚異的な力となるのは言うまでもない。


 盗賊達も抵抗しているが、あまり有効的ではなかった。

 そもそも白兵戦の間合いに入れず、かと言って遠距離戦では銃に勝てない。

 些細な反撃もこちらの防御魔術に阻まれている。

 彼らが逆転できる道など存在しないのだった。


 私は兵士達の活躍ぶりを観察する。

 考えていた以上の速度で砦の侵攻が進んでいた。


「素晴らしい。訓練の成果が出ているようだ」


「即戦力とは思えない練度ですね。閣下のマインドコントロールの賜物でしょう」


 シェイラも手放しに称賛していた。

 ただの世辞でないのは目を見れば分かる。


 周囲を見回した私は、ふと考え込む。

 それから拳銃を構えながら呟く。


「盗賊はまだ奥にいる。この数なら私達がつまみ食いしても大丈夫そうだ」


「殺しますか」


「ああ、命令するだけの権力者ではないことを証明しよう」


 せっかくの戦場だ。

 安全地帯で指示を出すばかりでは退屈する。

 何より私もシェイラも最前線で命をやり取りをする人間なのだ。

 そろそろ精神的な限界が近い。

 これ以上の我慢は身体に毒である。


 私達は兵士が少ない方角を選んで進む。

 鍛え抜いた戦場の嗅覚は、敵のおおよその位置を教えてくれる。

 敵が近付くにつれて、私達は獰猛な気配を纏い始めていた。

 私はあえて後ろに下がってシェイラに道を譲る。


「今回は私が援護しよう。存分に暴れるといい」


「ああ……身に余る光栄です、閣下」


 頬を紅潮させたシェイラが大股で進み出る。

 歓喜に震える彼女は、フルオート式の散弾銃とククリナイフを握っていた。

 破壊力抜群の戦闘スタイルだ。

 シェイラが最も好む装備で、敵兵の殺戮が約束されている。


 通路の曲がり角から数人の盗賊が飛び出した。

 私達を待ち伏せしていたのだ。

 彼らは汚れた剣や斧を振りかぶって襲いかかってくる。


 狂喜するシェイラは腰だめで散弾銃を乱射した。

 憐れな盗賊達は、蜂の巣となって崩れ落ちていく。

 なんとか死ななかった者も、次の瞬間には鉈で首を刎ねられていた。

 返り血に染まるシェイラの背中は、戦場に降り立った死神そのものだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >ゴブリンに持たせていたプラスチック爆弾 どっか〜ん!! ……おお、鬼畜、鬼畜。w >「私は戦争を取り戻した。誰にも渡さないぞ。すべて私のものだ」 >「…
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