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魔王総統 ~最強の独裁者が異世界で戦争国家を生み出した~  作者: 結城 からく


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第2話 独裁者は戦争の準備を進める

 この世界での目的を定めた私は、手始めに王城を支配することにした。

 別に難しいことではない。

 城内の人間を次々と呼び出しては、マインドコントロールを施すだけだ。

 既に配下となった大臣や兵士を使えばすぐに集められる。


 勇者になったことで取得したこの能力は、言うまでもなく便利であった。

 目を合わせるだけで人々は私に服従する。

 煩わしい洗脳を使わずに済むのは気楽でいい。

 あらゆる面で効率化を図れるため、今後も活用することになるだろう。


 連続使用による消耗は特にない。

 さらに慣れてくると、任意での発動ができるようになった。

 私が望まない場合は目を合わせてもマインドコントロールが発生しない。

 汎用性が高まるのは良いことである。


 召喚されてから半日ほどで王城を完璧に掌握した。

 今や高位の貴族から一介の使用人まで、残らず私の忠実な部下となっている。

 彼らは国王の死を目撃しながらも、それが当然であるかのように平然としている。

 余計な問題が起きないようにマインドコントロールで調整してあるのだ。


 しかし、国王を殺したのは判断ミスだった。

 事前にマインドコントロールの存在を知っていれば傀儡にできたというのに。

 新たな戦争に舞い上がり、短絡的な行動に出たのは否めない。

 それでも十分に挽回できる範疇なので、今後の動きでフォローするつもりである。


 城の主となった私は、この世界の知識を学び始めた。

 書庫や配下の話を頼りに、常識的な事項から地道に憶えていく。

 並行して元の世界との差異を洗い出す。


 とにかくまずは情報収集からだ。

 これを軽んじるわけにはいかない。

 無知はあらゆる局面において牙を剥いてくる。

 幸いにも勉強は嫌いではないため、苦痛に感じることはなかった。


 そうして四日が経過し、私は最低限の知識を手にしていた。

 記憶した量を考えれば上々のペースだろう。

 あとは必要に応じて学んでいけばいい。


 この世界特有の要素は大きく分けて二つ――様々な種族と魔術文明である。

 他にも違いはあれど、私が関心を抱いたのはこの二つだった。


 まず種族について。

 この世界には、人間に酷似した者から怪物じみた外見の者まで、多く種族が存在する。

 一例にはエルフやドワーフ、獣人といった聞き覚えのある名も含まれていた。

 魔王軍に属する者はまとめて魔族と呼称されるそうだ。 

 明確に忌避されているのがよく分かった。


 ちなみに王城には只人族――つまりただの人間しかいない。

 亡き国王には種族差別の思想があり、城内に勤める者は只人に限定していたそうだ。

 只人至上主義は、それなりにポピュラーな考えなのだという。

 王国ではそこまで露骨ではないものの、種族による扱いの差はあるとのことだった。


(馬鹿らしいな。種族など取るに足らない概念だ)


 玉座に腰かける私は、歴史書を読みながら眉を寄せる。

 大切なのは有能か否か。

 その一点に尽きる。

 種族も性別も年齢も職業も思想も関係ない。

 開戦の建前として触れることはあれど、本音ではどうでもいいと私は考えている。


 いつか他の種族にも会ってみたいものだ。

 彼らの特性を活かすことで、用途に合わせた精鋭部隊を編成するのである。

 想像するだけで期待が高まってくる。


 歴史書を脇に置いた私は、古びた本を手に取った。

 表紙にはこの世界の文字で『攻撃魔術の基礎』と記されている。

 なぜ読めたかと言えば、翻訳魔術の影響を受けているからだ。

 私を召喚した魔法陣に仕込まれていたと聞いている。

 異界の人間とスムーズに意思疎通を図るために考えられたのだろう。


 このように魔術の利便性は極めて高い。

 言語の壁を取り払う他にも多種多様な超常現象を引き起こすことができる。

 城にいた魔術師によると、私のマインドコントロールは精神魔術の系統らしい。


 魔術は謎多き学問で、未だに解明できていないことが多いそうだ。

 それでも家事から軍事まで幅広い分野で活躍している。

 挙句の果てには別世界の人間を拉致できたのだから、十分に体系付けられた技術と言えよう。


(オカルトを認めるのは甚だ不満だがな)


 私は『攻撃魔術の基礎』を読み終えて閉じる。

 記載された術の八割以上は記憶できた。

 後ほど読み返せば完璧になる。


 次に読む書物の選定をしていると、扉を開けて大臣が転がり込んできた。

 一目で焦っているのが分かる。

 息を切らした大臣は早口で私に報告する。


「総統! 奴らが……"黄金獅子"が帰還しましたッ!」


「何だそれは」


「王家直轄の戦闘部隊です。数カ月ほど前より遠征で不在でしたが、任務を終えて戻ってきたようです」


 大臣が汗を拭きながら答える。

 その時、部屋の外から複数の足音がした。

 すぐさま立ち上がった大臣は、扉を薄く開けて怒鳴る。


「おい、貴様ら! まだ総統に報告している最中だ! 謁見は後にしろっ!」


「総統って誰だよ。俺達は国王に用があるのさ」


「やめろ! 勝手に行くなッ」


 大臣が押し退けられて、武装した騎士の集団が入室してきた。

 城内では見かけなかった者達だ。

 大臣の報告から察するに、彼らこそが黄金獅子だろう。

 帰還してそのまま直行してきたらしい。


 先頭を進む若い男が、私に気付いて首を傾げる。

 槍をこちらに差し向けながら、彼はわざとらしく声を発した。


「ん? 知らん奴が玉座にいるぞ」


 黄金獅子から仄かに敵意が漂う。

 この城の状況を知らない彼らだが、異常事態であることは察しているらしい。


 私は両手を組んで尋ねる。


「君は誰だ」


「いやいや、こっちの台詞でしょ。そこに座ることが許されるのは国の王だけだ」


 槍使いの男は軽い口調で言うも、目は激情を物語っていた。

 極度の怒りを理性で留めているのだ。

 今にも襲いかかってきそうな気迫で、それなりの実力を有するのが伝わる。


 私は玉座から立ち上がった。

 彼らの視線を浴びる中、敷かれた赤い絨毯を歩きながら名乗る。


「私はアーノルド・ウェイクマン。この国を支配する総統だ。亡き王の代わりを任じている」


 黄金獅子の間でどよめきが走る。

 槍使いが目を見開いて、僅かに震える声で私を問い詰めてきた。


「亡き国王……? 俺達がいない間に何があったんだ」


「私が王を処刑した」


 淡々と述べると、場の空気が凍り付いた。

 動揺と困惑が殺意に塗り替わる。

 黄金獅子は武器を構えてこちらを睨んでいた。


 良い反応だ。

 肌に刺さる殺意が心地よい。


 槍使いは昏い目をして進み出る。

 私との距離は既に十メートルを切ろうとしていた。


「国王を殺した……つまりあんたは反逆者ってことかな」


「解釈は自由だ。それより私を殺す気か」


「当然だろ。反逆者は見逃せない。俺達は国王に真の忠誠を誓っている。決して善人ではなかったが、拾われた身として恩義は果たさないといけない」


「国王に心酔しているのだな」


「ああ、そうだ。俺達には王に救われた過去がある」


 槍使いは誇らしそうに得物を構えてみせる。

 私は彼らの目付きに注目した。


(魔術による支配ではない。虐待と薬物を用いた原始的な洗脳か)


 戦争中に何度も見たことがある。

 捕虜や奴隷を徴用した部隊は、ちょうど今の彼らのような雰囲気だった。

 敬愛する主を失った途端に野性的な一面を発露するのだ。


 詳しい経緯は知らないが、黄金獅子という組織は社会的に不遇な人間ばかりを集めているのだろう。

 実力主義で国王が子飼いにしていたものと思われる。


(話術による懐柔は難しそうだ)


 私は冷静に判断しつつ、腰に吊るしたナイフを抜き取った。

 実用性重視のサバイバルナイフだ。

 とにかく頑丈で使い勝手が良い。

 これさえあれば、山に遭難しても生き延びられる。

 常に携帯していたおかげで、異世界に持ち込むことができた。


 私がナイフを持ったのを見て、槍使いは感心したような顔になる。


「へぇ、意外だな。武闘派には見えないが」


「日頃から肉体は鍛えている。いざという時に動けないと困る」


「兵士の鑑だな。反逆者じゃなけりゃ仲良くなれそうだったのに」


 槍使いがため息を洩らす。

 そして、後ろに控える黄金獅子の面々に合図を送った。


 すると彼らは一斉に出入り口の前まで下がる。

 私への憎悪を滾らせながらも、戦いに参加する気配は窺えない。

 どうやら槍使いが単独で決着させることにしたらしい。


 私はナイフを胸の前で構えて彼らの戦力を測る。


(数は二十。防具は鉄か革の鎧。武器は剣か槍が大半……素手や杖持ちは魔術師の可能性がある)


 マインドコントロールを使えば手駒にできるが、それではつまらない。

 今回は頼らずに処理するつもりだった。


 私は久々に白兵戦を味わいたい。

 勉強ばかりでは気疲れするので、こういった時間も大切だろう。

 黄金獅子にはその犠牲となってもらう。


 私は気負わずに歩みを進み、槍使いの間合いに踏み込んで告げた。


「粛清だ。私を楽しませてみせろ」


「上等だこの野郎ッ!」


 槍使いが叫び、潜り込むように姿勢を落とす。

 彼は視界の外から槍を突き上げてきた。


 心臓を狙った一撃に対し、私は軽くナイフを振って弾く。

 軌道のずれた槍が肩を掠めていった。

 軍服が浅く切れただけなので問題ない。


「遅い」


 私は自然な動作で一歩進むと、槍使いの首にナイフを刺した。

 柄を九十度ひねり、すれ違いざまに刃を引き抜く。


 崩れ落ちた槍使いは痙攣し、床に血だまりを広げながら苦悶する。

 数秒もすると動かなくなった。

 一部始終を目撃した黄金獅子の面々は驚愕する。


「な……ッ!?」


「グラン副団長が死んだ!」


 どうやら槍使いは副団長だったらしい。

 まだ若いというのに高い地位まで成り上がっていたようだ。


 私は死体から槍を奪い取り、軽く振ってみる。

 少し重いが扱えないことはない。

 各所に複雑な紋様が刻まれており、魔術的な効果を搭載しているのが分かる。

 もっとも、今の攻防では使う暇もなかったようだ。


 ナイフと槍を持つ私は、黄金獅子に向けて忠告する。


「油断するな。君達の相手は戦争好きの狂人だ。簡単に殺せると思わないことだね」


 私は床を蹴って突進し、反応の遅れた一人の首を槍で薙ぐ。

 血飛沫を躱すように横へ飛び、数名の手をナイフで切り裂いた。

 手を負傷した者が武器を取り落として、慌てて拾おうと前屈みになる。


 その隙を逃さず槍とナイフで追撃を放った。

 最低限の動きから首筋を連続で断ち、些細な反撃は受け流す。

 掴まれても即座に振り払えばいい。

 体当たりで有利な位置を確保しながら、同士討ちを恐れる兵士達を屠り続ける。


 忠告から十秒も経たずに、副団長を含む七人が死亡した。

 いずれも首か心臓を切られて倒れている。

 謁見の間の床が血みどろになっていた。


 我に返った一人が雄叫びを上げて反撃に転じる。

 髭面のその男は、剣を持って果敢に跳びかかってきた。


「ウオオオオオオオォァッ!」


「踏み込みが甘い。そんな突きで私は死なない」


 剣に槍を絡めて弾き飛ばし、男の顎に掌底を叩き込んだ。

 体勢が崩れたのを見計らってナイフを閃かせる。


 男の背中が床にぶつかるまでに、四度の刺突を繰り出してみせた。

 鎧の隙間を狙った刺突はいずれも致命傷だったろう。

 男は自らの吐く血に溺れながら絶命した。


 折り重なる死体に紛れて、ローブを着た女が床に伏せている。

 涙を堪えて私に杖を向けていた。

 女の口が素早い動きで何らかの言葉を紡いでいく。


 私はそれが完了する前に接近し、女の杖と顔面を蹴り飛ばした。

 女は尚も諦めずに早口で唱え続ける。

 私はその細い首を絞めて告げた。


「オカルトか。呑気な攻撃だな」


 頸動脈の圧迫で失神させてから、喉を槍で切り裂く。

 女は自らの死を認識することなく眠った。


 私は槍を捨てて軍帽を被り直す。

 そして、まだ生きている兵士達を一瞥して嘆息した。


「興醒めだな。黄金獅子とは名ばかりか」


 その挑発が効いたのか、彼らは激昂して戦意を奮い立たせる。

 彼らは仲間の死という恐怖を乗り越えると、一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 不敵に笑う私は嬉々として彼らの殺意に応えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! アーノルド本人が洗脳の魔眼の力抜きでもチートな戦闘能力を遺憾無く発揮しているのが、実に痛快です。 [一言] 続きも楽しみにしています!
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