第15話 独裁者は新たな王を据える
呪いの姫の承諾により、彼女を新たな王にすることになった。
無事に協力関係を結べたので、これで重大発表という名目で国内の貴族を集められる。
あとは彼らにマインドコントロールを発動して王国を一気に掌握するだけだ。
貴族の中には参加しない者もいるだろうが別に構わない。
世論が戦争容認へと傾けばそれでいい。
大きな反発も私の力で上書きできるため、今の段階で気にすることは無かった。
(ようやくここまで来たな)
私は軍用トラックに揺られながら微笑む。
現在は塔からの帰路だ。
荷台には姫と乳母がいる。
さっそく二人を連れてきたのだ。
王都に戻ったら王に据えるための段取りを整える予定である。
塔に勤務していた少数の兵士には、王都への帰還命令を出している。
軍用トラックが満員なので乗せられなかったのだ。
彼らは急いで王都に連れて行く必要性がない。
時間をかけて戻ってもらおうと思う。
とにかく今回の目的はつつがなく達成できた。
戦争国家へのさらなる一歩を進んだと言えよう。
今までは王都だけを私物化していたが、姫という傀儡を介することで国土全域を支配下に置ける。
素晴らしいことだ。
今後は全国民が力を合わせて戦争に加担するシステムを構築できる。
理想の形はそう遠くない場所にあった。
期待する私は、脳内で具体的な計画を組む。
トラブルに備えた予備の案も考えておく。
ここからの行動は規模が大きくなるので、どうしても不測の事態は生じるだろう。
だからこそ冷静に対処するための心構えが必要になる。
そうこうしているうちに王都に着いた。
到着までにいずれかの勢力から襲撃されるかと思いきや何事もなかった。
正直、拍子抜けしている。
私を危険視している者は一体何をしているのか。
特に魔王軍だ。
少人数を連れて動く私など格好の的だろう。
普段より遥かに警備が手薄なのだから狙わない手はないと思ったのだが。
残念に感じつつも、向こうの心境はよく分かる。
おそらく出方を窺っているのだろう。
私は幹部級の魔族を倒した勇者だ。
無闇に仕掛けて犠牲が広がるのを嫌っているのかもしれない。
今頃は私の殺害計画でも練っているのか。
こちらとしては大歓迎だ。
是非とも私を楽しませてほしい。
敵が奮起するほど、私もやる気になって応えたくなる。
今や戦力も続々と増大し、姫の協力によってさらにペースは加速するだろう。
私にとって魔王軍は通過点でしかない。
他の国々とも戦争を起こすつもりだ。
まだまだ物足りない。
世界全土を巻き込んで盛り上げていかなければ。
終わらない大戦こそ、私の永遠の夢であった。
王都に戻ってからも多忙な日々を送る。
姫を王に仕立てる流れは大臣に丸投げして、私は軍備のチェックを徹底した。
元の世界の武器は順調に調達できている。
国内の有力な商人を洗脳し、不足気味な召喚の材料を補充していた。
それなりの出費も、国内の貴族にマインドコントロールを施せば解決する。
現在でも王都にいる貴族には協力を要請しており、なんとか召喚のペースを維持していた。
最悪の場合は通常召喚で宝石の類も集められるため、これからも財政難は避けられるだろう。
細々とした調整は部下に任せているものの、これといった報告はない。
よほど不味ければ私に話があるので、今のところは支障なく進められている。
塔に出向いてから三週間が経過した。
いよいよ姫が王になる日が訪れた。
今日、私は重大発表を餌に国内の貴族をまとめてマインドコントロールする。
失敗する可能性は低い。
城内各所には兵士を配置して、万が一の戦闘にも対応できるようにしていた。
これで大抵のトラブルは鎮圧できる。
訓練を重ねる兵士達は、銃の扱いにも慣れてきた。
元の世界の部下を何名か召喚して、教官として指導させたのが大きい。
専門的な技能はまだ育っていないものの、一般兵という観点ならば望み通りの水準に達していた。
私のかけ声一つで、兵士達が自在に行動できるようにしている。
城内の私室で待機する私は、開かれた門の付近を見下ろす。
朝から貴族達が絶えず来訪していた。
特に有力な者は事前に記憶したが顔と名前が一致しない。
それでも計画に影響はなかった。
目さえ合わせられればそれで問題ない。
私は無言で観察する。
門から城に入るまでの雰囲気で、おおよその人物像は分かる。
警戒すべき人間がいないか念入りに検査した。
やってくる貴族は全体的に不審がっている。
突然の招致なのだ。
身構えるのも仕方ない。
詳しい内容はあえて伝えていないのもあり、どこか緊迫した雰囲気が漂っていた。
楽観的に構えている者はごく一部だ。
よほど力に自信がある者か、何も考えていない愚か者である。
何にしても私の計画を狂わせられる者はいないだろう。
数時間後、謁見の間に貴族を集める。
玉座に腰かけるのは呪いの姫だ。
その様子に誰もがざわついていた。
これから何が発表されるか察した者もいるはずだ。
私はタイミングを見て登場する。
玉座のそばに立つと、貴族に向けて端的に報告を始めた。
国王は病死した。
姫が次代の王となる。
そして王国は、戦争国家として方針を転換する。
この発表に対し、貴族の反応は小さかった。
誰もが私の演説に聞き入っている。
そうするように仕向けていた。
間で余計な発言をさせないように威圧している。
「これは開戦宣言だ。乗るか否かは自由に決めるといい。我々は強制しない」
私はそう告げながら貴族達を観察する。
既に反感を抱く者はピンポイントでの洗脳が完了していた。
賛同の気配を見せる者には、微弱なマインドコントロールを施している。
後々になって裏切るような真似がないように細工した。
練習の成果もあり、私は勇者の能力をさらに使いこなしていた。
大人数を相手に洗脳の具合を区分けできるようになった。
誰もが同じ目を見ているにも関わらず、マインドコントロールの強度を変えられる。
演説の最中に断続的に能力を発動することで、すべての貴族を影響下に加えたのだった。
目的が成し遂げられたのを確認してから話を終える。
その後は特に抗議等もなく、貴族達は大人しく解散した。
反対意見を持っていた者は心の底まで洗脳されて、今や王国に忠誠を誓う操り人形となっている。
中立や肯定的だった貴族も、潜在レベルで洗脳されていた。
問題など起きるはずがないのだった。
(粛清せずに済んだのは良かった。便利な手駒はなるべく残しておきたい)
私は王都を去る貴族を見送りながら考える。
そばに立つ姫――否、女王はどこか吹っ切れた表情をしていた。
きっと彼女が自分が傀儡であることに気付いている。
その上で形式だけでも自由になることを選んだ。
実際、彼女に何かを命じることは少ない。
必要に応じて人前に出てもらうだけだ。
少なくとも塔での生活よりは快適な暮らしをさせている。
利害は一致しており、互いに裏切ることなく良い関係を続けられるだろう。




