✒ 薬剤を調合してみる
僕は新人調合薬剤師のリット・ハニッシュ・トンビルだ。
1人立ちしたばかりの新人調合薬剤師は自分だけの工房を持っていない。
魔法力を持っていて、魔法陣を描ければ何処ででも錬金が出来る錬金術師と違って、調合薬剤師には作業を行う工房が必要なんだ。
調合薬剤師組合に登録すれば、共同で使える工房を借りる事が出来る。
だけど、工房を借りて使うにも工房代を支払わないといけない。
1時間の利用で300リードを取られるから、調合薬剤師組合はボロ儲けだ。
調合に必要な材料を調達したら、調合薬剤師組合に工房を借りて、材料の薬草を調合しまくって沢山の薬剤を作らないといけない。
短時間で何れだけ良質の薬剤を作れるかが勝負になる。
そんなわけで、僕も他の新人調合薬剤師と同様、調合に必要な材料を調達して、調合薬剤師組合から工房を借りて、妖精に手伝ってもらいながら精霊と共同作業で異なる薬草同士を調合して様々な薬剤を作る。
毒を治すポーション,麻痺を治すポーション,石化を治すポーション,火傷を治すポーション,凍傷を治すポーション,睡眠を治すポーション,盲目を治すポーション,混乱を治すポーション,魅了を治すポーション,忘却を治すポーション,堕落を治すポーション,体力回復ポーション,気力回復ポーション,魔法力回復ポーション,気絶回復ポーション,状態変化回復ポーション……等々を作った。
どのポーションにもLVがあって、1 〜 5に分けられている。
自分が作った薬剤のLVが1 〜 5の何れに当てはまるのかは鑑定士じゃないと分からない。
LV4,LV5の薬剤を作れる調合薬剤師はそうそう居なくて、調合薬剤師として優秀だった僕の師匠ですらLV4止まりだったから、相当な腕が必要なんだと思う。
新人調合薬剤師の作る薬剤は大体がLV1が殆んどで、LV2の薬剤を持ち込む新人調合薬剤師もそうそう居ない。
LVにもランクがあって、★1 〜 5で薬剤の出来を分別される。
★1だと安い価格を提示されるし、★5だと高い価格を提示されるんだけど、良心の欠落している鑑定士は本来のランクを偽った鑑定結果を提示して、本来なら高いランクの薬剤なのに低いランクの価格を伝えて買い取り交渉をして来る。
自分が作った薬剤の鑑定を自分で出来ない新人調合薬剤師は、鑑定士にとって貴重なお客様ってわけだ。
普通の新人調合薬剤師は自分の薬剤の鑑定を出来ないから、泣き寝入りをしないといけない被害者になるけど、僕は違う。
僕の左目は鑑定眼だから、自分が作った薬剤の鑑定が出来る。
だから、正規のLVも分かるし、正規のランクも分かるから鑑定士に騙される心配はない。
この鑑定眼は左目を負傷した時に師匠が僕に授けてくれた眼球だ。
体よく言えば鑑定眼の実験台にされたわけだけど……、鑑定士に騙される事が無くなるから重宝している。
僕が契約した精霊は虹属性の精霊だから、全属性の妖精から作業を手伝ってもらう事が出来るから、とても助かっている。
虹属性の精霊は珍しくて “ 幻の精霊 ” だとか言われている。
僕は虹属性の精霊と契約した時に“ セフィート ” と名付けた。
セフィートとは会話も念話も思念も出来ないけど、契約者の僕に対して友好的でリッドンと共に何時も僕の傍に居て付き添ってくれている。
精霊の姿は契約者にしか見えなくて、他の調合薬剤師がどの属性の精霊と契約しているのか分からない。
師匠や兄弟子,姉弟子が契約している精霊の姿を見た事はないけど、僕のセフィートと同様に契約者と共に行動しているんだと思う。
精霊の姿を見る事の出来るアイテムが存在しているから、そのアイテムを装備している人には精霊の姿が見えるらしい。
欲しいとは思うけど、精霊の姿を見られるアイテムはかなりの高値らしいから、手に入らないだろうな…。
セフィートと一緒に作った薬剤をマジックバッグの中に入れた。
このマジックバッグは、1人立ちをする弟子に師匠が餞別にくれた物だ。
工房の中に忘れ物をしてないか確認をしたら、調合薬剤師組合から借りた工房を出て、フロントで工房代を支払ったら、調合薬剤師組合を出た。