✒ 僕は新人調合薬剤師
僕は調合薬剤師のリット・ハニッシュ・トンビル。
調合薬剤師と言っても駆け出しの新人なんだけど……。
“ トンビル ” って言うのは、僕の師匠だった調合薬剤師の名前だ。
師匠からの卒業試験を受けて合格すると、相棒を持つ事を許される。
相棒となるのは自分で使役した使い魔なんだけど、使役が成功して使い魔を相棒に出来ると1人前と認められて、1人立ちする事を許される。
僕の相棒は絆鳥と呼ばれる世にも珍しい鳥だったりする。
晴れて1人立ちを許されると、師匠からの卒業試験を合格した証として、師匠の名前を加える盟約になっている。
師匠となる調合薬剤師に弟子入りする時に、正しい盟約を交わさないといけない事になっていて、これを守らずに盟約をしてしまうと、精霊と契約が出来ないし、妖精の協力も得られない調合薬剤師になってしまうんだ。
精霊と契約が出来ず、妖精にも協力をしてもらえない調合薬剤師は、アウトローな調合薬剤師として認定されてしまう。
アウトローな調合薬剤師というのは、正規の調合薬剤師としては認められないから、御天道様の下で堂々と仕事をする事が出来ない。
店を構えたい夢があっても、店を持つ事は許されないし、屋台を借りる事も許されない。
調合薬剤師組合に登録をする事は調合薬剤師となったからには義務だから必ず登録をしないといけないけれど、アウトロー調合薬剤師に関しては、仕事の斡旋も依頼の紹介もしてもらえない。
アウトロー調合薬剤師は自力で仕事を見付けて自分で交渉しないといけなくて、肩身の狭い暮らしを余儀無くされている。
幸いにも僕の師匠はきちんと正しい盟約を結んでくれたから、相棒を持つ事が出来た後に、精霊と契約も出来たし、妖精にも協力をしてもらえるようになった。
僕は正規の調合薬剤師の新人として1人立ちをする事が出来たんだ。
僕は相棒になってくれた使い魔に “ リッドン ” と名付けた。
リッドンを使役した事で、空を飛んで上空から地上を見下ろすリッドンの見ている光景を僕も見る事が出来るようになった。
リッドンは烏の王様らしくて、烏達が仕入れたあらゆる情報を僕に教えてくれる。
リッドンとは思念で話をする事が出来る。
僕の生まれ育った≪ ライブェブ王国 ≫では烏は“ 不吉の象徴 ” とか “ 悪魔の遣い ” と呼ばれていて忌み嫌われる存在だったりする。
そんな国民から嫌われ者な烏の王様を使役して使い魔として相棒としている僕の新人調合薬剤師としてのスタートは前途多難だ。
調合薬剤師組合から仕事も斡旋してもらえはするけど、依頼主と面談をすると98%の確率で断られてしまう。
依頼を受ける為に相棒であるリッドンに離れてもらう事は出来ない。
1度、使役した使い魔を解約する場合は、主が死なないと解約されない事になっている。
使い魔は相棒だから、ぞんざいな扱いをする事も許されない。
僕もどうせなら、リッドンも一緒に受け入れてくれる依頼主の依頼を受けたいと思っている。
リッドンが烏の王様って事は、知られると厄介になりそうだから師匠には勿論の事、兄姉弟妹弟子にも秘密にしている。
リッドンは自分が空を飛び回らなくても、烏達から常に旬な情報を知らせてもらえる立場だから、何時も僕にベッタリしている。
僕が着ているローブには被ると顔が隠れる大きめのフードが付いていて、そのフードの中に入って休むのが好きらしいリッドンとは何時も一緒だ。
調合薬剤師は、薬草と薬草を調合して薬剤を作るんだけど、+αの力を借りないと良薬は作れない。
この “ +αの力 ” が精霊と契約する事で使う事が出来るようになるんだ。
要は、+αの力を使って精霊と一緒に薬草と薬草を調合して薬剤を作る事になる。
精霊との共同で良質の薬剤を作る事が出来るんだけど、その作業中の細々とした事を手伝ってくれるのが妖精の存在だ。
精霊と契約が出来ると、その恩恵を受けて妖精に手伝ってもらえるようになる。
精霊と共同して作った薬剤は、冒険者ギルドや商人ギルド,傭兵ギルドや旅人ギルド,薬局ギルドへ持って行って買い取ってもらったり、欲しがっている冒険者や薬剤を必要としている人に個人で交渉して売ったりする。
ギルドへ持って行った薬剤は、必ず鑑定士に鑑定してもらわないといけない。
鑑定士が正規の値段を提示して薬剤を買い取ってくれたら良いんだけど、そういう鑑定士ばかりが居るわけじゃない。
正規の値段より安い価格を提示して来て買い取ろうとする最低な鑑定士も居る。
こういう鑑定士の被害に遭うのは大体が新人調合薬剤師だったりする。
多くの新人調合薬剤師は、正規の値段で買い取りをしてほしい事を鑑定士に言えずに、安い価格で売ってしまってそのまま泣き寝入りしてしまうケースが多い。
面と向かってはっきりと鑑定士に物申せる程に強気な新人調合薬剤師はそんなに居ない。
「 調合薬剤師組合に報告すれば良いじゃないか 」って思うだろうけど、調合薬剤師組合に報告をしたり、相談をしても基本的には何もしてはくれない。
「 アナタと鑑定士との交渉中での事だから、当人同士で解決してください 」て言われて相手にしてくれない。
斡旋してもらった依頼に対しても、「 依頼主と揉めてトラブルになったとしても、当人同士の事だから── 」「 組合は仕事を斡旋しただけだから── 」「 組合は依頼を紹介しただけだから── 」と言って、全く関わろうとはしない。
そのくせ、「 仕事を斡旋,依頼を紹介してあげるんだから、毎月の組合費は支払ってくださいね 」って言うんだ。
正規の調合薬剤師が支払う組合費は毎月1.000リードで、3ヵ月滞納するとアウトロー調合薬剤師に降格されてしまう。
アウトロー調合薬剤師が支払う組合費は毎月500リードで、半年滞納すると、調合薬剤師のライセンスを剥奪されてしまう。
1度、調合薬剤師のライセンスを剥奪されてしまうと、4年間は調合薬剤師の弟子にはなれない決まりになっている。
組合費の存在が、新人調合薬剤師やアウトロー調合薬剤師にはかなりネックになっている。
だから、何が何でも新人調合薬剤師は、薬剤を売って組合費を支払う為のお金を稼がないといけないんだ。
新人調合薬剤師は色々と大変だ。