表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

和風ファンタジー&現代恋愛

挨拶がわりに星押して、救われた彼の話。

※空野奏多さまご企画 『ブルジョワ評価企画』 参加作品です※

 そこは、何もない空間だった。

 上も下も、果てもない。ただただ真っ白な世界。

 立ってはいる。でも床らしきものもない。

 ついでに裸で、パンツしか()いてない。


「ここ、どこ?」


 思わず口に出した呟きが、虚空に吸い込まれる。


 ???


「はいはーい、お待たせしましたぁ。遅れちゃって、すみませーん」


 突然明るい声がして、見たことない若い女性が出てきた。


「えっと、久世クゼ 侑高ユタカさん、で、お間違いないですね?」


 何やら手に持った書類をめくりつつ、俺の名を確認する。


 え? ちょっ、待って。これ、このパターン、まさか。


 ラノベによくある、異世界転生のプロローグ・シーンに酷似してない?

 じゃあ目の前にいる彼女は……女神様とかそんなん?


 いやいやいや。待て、待て。よく見ろ。普通に日本人感満載の、OL風美人だ。


 でも、さっぱり状況がわかんない。

 俺、何してたっけ?

 

 確か、明日朝イチの企業説明会に行くために、今日、新幹線に乗って。ホテル代浮かせようと、夜は兄ちゃんの部屋に泊まり込んだんだよな。

 そんで……。


 直近の記憶を辿(たど)りつつも、目の前のおねーさんに、ずばり(たず)ねる。


「あの! まさかとは思うんですが、俺、死んだりとかしてないですよね?」


「あ、はい。まだ肉体と魂はリンクしたままですよ。死亡確定は、書類手続き終了後のことですから」


 !! それって、極めて危ない段階ってことなんじゃないだろうか?

 ええっ、なんでだよ?


「俺、死ぬようなこと何もしてませんよ? 事故にも()ってないし!!」


「でも、空腹でお酒飲んだ直後、お風呂入っちゃったでしょう?」


 だったっけ? そういや兄ちゃんの部屋で軽く缶をあけた……。


「血圧、一気に下がり過ぎちゃったみたいですね」


「?! 血圧? それで死ぬことあるんですか?」


「お風呂で気を失うと危険なんですよ? あれ……でも享年39歳? ……久世(クゼ)さん、ずいぶんお若く見えますね?」

「39?? それ、ひと違いです!! 俺まだ21です!!」


 学生で、就活中の身だ。


「え?」


 俺の言葉に、おねーさんは目を丸くして、書類と俺を慌てて交互に見比べる。

 うぉぉ、同姓同名の、人違いであって欲し――!! 


 と、見守り祈る俺の前で、おねーさんが「やらかしたぁ」という顔をした。


 ホッ。

 ここがどこかはわかんないけど、どうやら間違って連れてこられたみたいだ。

 これで無事、生還――、


「ま、いっか。これはこれで」


「良くねぇ――――!!!!」


 あんた何言ってんの? 何言おうとしたの?

 良くないよ。全然良くない。まさか"代わりに俺でいい"とか、そんなこと思ったんじゃないだろうな?


「でも数さえあってればノルマ的には……」


 的中か!!

 

「"無し"です! 数の問題じゃないはずです!!」


 なんだ、こいつ。ポンコツ死神か何かか?


「え……だけどもう時間ないし……。時間内に処理できないと、"なかったこと"になっちゃうし……」


 知らねーよ。てか、誰か死ぬなら、"なかったこと"の(ほう)がいいじゃん。

 そもそも時間ないのは、あんたが遅れてきたせいだろ? 最初、(なん)て言ってたか、覚えてるぞ俺。


 剣呑(けんのん)とした空気を放つ俺を気にも留めず、目の前の女はスマホに似た端末を取り出して、操作し始めた。


久世(クゼ)……。久世(クゼ)侑高(ユタカ)、21……。って、何これ?! なんなの、この()()()()()()()!!」


 ?


「なんだって、こんな破格の数値……! この若さで、有り得ない……っ」


 彼女は端末に目を落としたまま、「えっえっ、ああ、まさかそれで」とか何とか、ひとしきり自分ワールドに没入した後。

 いきなり、問われた。


「あなた、『小説家になろう』で、評価ポイント、たくさん押したわね?」

「はい?」


『なろう』? なんでこの場面(シーン)で?


 そりゃ押してますけど。読み切ったら押す。気に入ったら押す。主役が死なないラストなら、遠慮なく星を贈る。

 もちろん自分基準に沿ってだけど、それが俺の評価スタイルだったりする。

 無数にある作品群の中で、出会っただけでも奇跡だし。

 挨拶みたいに、星ポチリ。


 でもそれとこれ、何の関係が?


「『なろう』であなたがポイントを入れたことによって、救われた人が大勢います」

「へ?」


「たとえばこの作者。投稿したものの、誰にも読まれず、筆を折ろうかと悩んでた矢先、あなたからの評価ポイントが入って、気を持ち直しました」

「それは――……。良かった」


 うん、良かった。けど???


「そして、その後、思いを乗せた作品をたくさん世に送り出し、共感を得て、多くの人の心を救う作家になっています」

「ほう?」

「その作品は、人の死すら()めてます」

「おおぅ?」


「さらにこちらの投稿者。彼は、あなたからの評価ポイントを()って、ギリ、ジャンル日間ランキングに載ることが出来ました。そこで人の目に触れ、バズりました。思わぬ高得点に前向きな勇気を持ったことで、困難な手術に挑んで命が助かりました」

「へえ!」

「これらは、幾分かあなたの()()()()()()に加算されています」


 "善行ポイント"って何?


「極めつけはこの作品。これは、巡り巡って、ひとつの世界を丸ごと救うキッカケになっています」


 さっきから、口調と共に、軽めだったおねーさんの表情が神妙に変化してる。


「この作品の作者は――、"異世界創造"のスキルを自分でも知らずに発動させていました。あなたが応援したことで、彼女は自分が創った世界の話をエタらせず、書き切った。結果、彼女の生み出した勇者は、別次元に()る世界そのものを救うことに成功しました」


 ……えっと……? SFな話でしょうか? それともメルヘン?


「つまり。あなたの行為から派生した事象が、他の人たちを救い、その連鎖で、あなたの()()()()()()は今も限りなく加算され続けています」


 意味がわからん。"つまり"が意味を成してない。


「こんなに善行を積み、今後もそれが見込まれている人間を連れていくことは、社会の損失。あなたの命をここで断ち切ることは、出来ません」


 おおお!! つまり!!


「俺、生きて(かえ)れるんですよね?」

「非常に残念ですが。魂取り違え案件として上に報告し、私はペナルティを受けることになりますが。あなたはちゃんと(かえ)します」


 良かったぁ―――――――――。


 恨みがましくペナルティとか言ってるけど。そこは甘んじて受けろよ、自分のミスなんだから。上司がいるなら、クレーム入れたいところだ。


「では、久世(クゼ)さん。ここまでで。お風呂前にお酒、飲んじゃダメですよ? 今後も世のため人のために、『なろう』をたくさん愛してください――……」










「……タカ、侑高(ユタカ)!!」


 !?

 ドアを叩く音で、ハッと目が覚めた。


 えっ、寝てた?


 途端にギョッとする。


 顔前(がんぜん)に、トイレがある。

 ――? 床に、倒れてた?


 慌てて身を起こすと、隣にユニット・バス。

 

 ああ、そうか。俺、兄ちゃんちで風呂入ってて……。


 鍵してたんだっけな? ドア向こうから呼びかける兄ちゃんの声に「はぁい」と返事して、鍵を開けた。安心したような顔で、兄ちゃんが俺に(たず)ねる。


「何があったんだ? デカい音がしたけど」

「気絶して倒れてたみたいだ……」


 風呂からあがって、パンツを()いたとこまでは、意識があった。


「大丈夫なのか?」

「多分。臨死体験して、死神女子と会ったけど、(かえ)ってこれたし」

「そーかそーか、頭打ったか。盛大な音、したもんな」


「『なろう』でポイント評価すると世界が救われんだってさ。兄ちゃん。兄ちゃんもweb小説読んでたら、いっぱい星押しとくのがいいぞ? ふところは痛まないんだから、ケチるなよ」


「はぁぁ? いいから、まず、服着ろ。そんで明日行く説明会の準備して、寝ろ」


「ったく、ビックリしただろ」そう言いながら、兄ちゃんは浴室から出て行った。


 俺も、ビックリした。

 かろうじて()いてた1枚のパンツによって、(おの)が尊厳が守られたことに。じゃなきゃ、身の置き所がなくて、おねーさん相手に、即、()んでた。


 それに『なろう』のおかげで助かるなんて。『なろう』の星の威力って、すごいんだな。

 この体験談をネタにして、()()()()()を広めたら、人も世界も、もっと救われるんじゃね?



 別れる間際、おねーさんは言った。


 ――あなたは他人(ひと)を、力づけている――。


 お気楽おねーさんの目は、真剣だった。


 ("星の向こうには、ひとりひとりの懸命(けんめい)(せい)がある"、か。)



 ひと呼吸して、俺はスマホを、手に取った。

 一層の敬意を持って、星を捧げよう。

 そう、呼びかけるために。


                               《了》

お読みいただき、ありがとうございました(^^)/


企画の主旨に添い、「読んで気に入った作品には、出来るだけ評価ポイントを贈ると、皆ハッピーになれるよ♪」というメッセージを含んだ作品です。「面白かった」と思って貰えると嬉しいです♡

挿絵(By みてみん)

パンイチでキメてる侑高(ユタカ)くん、スマホ持つ前に服着てね? あと空腹時・お風呂前後のアルコールは避けようね。そもそも就活前日に、お酒はどうなん?

ちなみに同名の久世氏(39)は、決められた時間に魂召喚されなかったとのことで、数十年、先送りとなり、かなり長生きしました。


※ひとりひとり = 昭和56年頃は「一人ひとり」、平成23年からは「一人一人」と表記。公用文・教科書にて。

本文では「3333文字ってゾロ目でいいな♪」と思ったため、ひらがな採用。


↑ と、言ってましたが、「侑高(ユタカ)くんが考えなしに星押してる」と受け取られそうだったので、少し加筆しました。9/24現在3350文字です。

更に侑高(ユタカ)くん、帰還後は、作品の向こうに作者の姿を噛み締めつつ、星を謹呈する姿勢となっております。上手く表現できてないかもなのですが(^^) 彼は少し成長したんですよ~。


★★★ いただきもの ★★★  (2021.10.08.追記)

管澤捻さまhttps://mypage.syosetu.com/941595/ より

挿絵(By みてみん)

きれいな死神女子のおねーさん。ヴィジュアル確定です!!(^▽^)/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

7vrxb1598ynq7twi5imn4me7kxdc_ufp_390_u0_




世界の民話・伝承集やってます。ぜひマイページへお越しください

https://mypage.syosetu.com/1778570/
html>
― 新着の感想 ―
[一言] 良かったです、死ななくて。 やっぱり星で救われるのですね。 では、私もポチッと押しときます! イラスト可愛い!
[一言] 今更ながら感想を。 面白かったです。 確かに評価ポイントを付けることで、救われる作品や作者ってたくさんいますよね。 たらこも頑張ってポイントつけまくって、万が一の時は死神のおねーさんに助け…
[良い点] 初めまして、企画よりお邪魔いたしました。 サラッとだれかを救っていた。最後にはそれが自分を救う。 まさしく『情けは人の為ならず』。 素敵ですね! あと、履いててよかったです^^
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ