歩み寄り
「す、すいません……」
抱きついて泣いたせいで、涙でぐしゃぐしゃになってしまった白のシャツを前に僕は縮こまりながら謝っていた。
目の前の人はボサボサの髪をガリガリ掻くと、手をひらひらと振った。
「ガキがそんなこと気にすんな。ま、これは洗濯確定だけどな。お前、洗濯出来るか?」
「い、一応出来ます……」
「そうか。んじゃ後で洗っといてくれ」
「はい……」
「………」
おずおずとそう返した僕に、彼はなんだか困ったふうに額を押さえていた。
「……冗談だ。流石に水ん中浸かってたやつに起きてすぐ働けとは言わねぇよ」
その瞬間、間違えた……、と、僕は感じた。
反射的に身を小さくし、頭を両手で覆う。
「ご、ごめんなさい……!」
「…………」
はぁぁ、と、困ったような溜息が聞こえた。
コツコツと、僕から離れるように足音がした。
「……別にんな事で怒りゃしねえよ」
「…………」
まだちょっとぼやけている視界で見上げると、後ろ姿が見える。
その直前、彼は懐に手を入れ……。
「起きたばっかで腹、減ってんだろ。美味くはねえが、腹が減ったら食え」
何かが入った袋を、こちらに投げてきた。
バタンと閉められるドア。
「……………ぁ」
その時、やってしまったと、恩人に向ける態度じゃないと後悔した。
同時に、それでも怒らなかった彼は、口調とは違って優しいのかな、とも。
窓から見える景色は、あの街とは全く違う太陽で輝く草原と山々。
あの二人……いや、それを含めた柵から解放された事で、少し余裕があるのかもしれない。
ベッドから降りて少し手を伸ばせば、彼が投げた袋に手が届いた。
縛られた袋の口を解き、中を見てみる。
そこには、乾いた肉らしきものが入っていた。
干し肉というやつだろうか?
食べてみるとそれは硬くて、しょっぱくて、美味しいとは言えないけれど……それでも、干し肉を食べる手は止まらなかった。
そのまま幾つか食べてある程度お腹も膨れた時、眠気が襲ってきた。
どうやらまだ寝足りないらしい。
逆らわずに身を委ねると、すぐに意識は落ちた。
「……ん、ふ、ぁぁ」
起きると、外は既に暗くなっていた。
窓の外にはあの街と比べようもないほど星が輝いている。
「綺麗………」
ポツリと呟いた時、僕はあることに気づいた。
「ん……?あれ、僕なんでベッドに……?」
不思議に思ってあたりを見ると、干し肉が入った袋も口がキュッと縛り直されて机の上に置いてあった。
「……あの人かな……?」
ここに何人住んでいるか知らないけど、多分そんな気がする。