異世界と幕間と異世界と
ドン。鈍い音が響く。ドサッ。
「よし、終わったな」
一仕事終えてリラックスしたのんきな声がする。これは、マシューに違いない。終わったということはマシューが相手をしていた3人はどうなったんだ。声の方を向くと、そこには地面で伸びている山賊3人とピンピンしているマシューがいる。
「やりすぎてないよな」
「いつも通りですね。死んではいないでしょう。治癒が必要だとは思うけど」
この二人、まるでよく起きているのかのようなやり取りをしている。
「ナナミヤも無事そうだな」
「なんとか。運が良かったです」
本心からである。アンソニーがいなければ本当に危なかった。
「大活躍でしたよ。そこで、腕に矢を受けて負傷している山賊は、彼が倒したんですよ」
「やるじゃないか」
「はぃ。まあぁー。」
まるで、二人のやり取りは、世間話のように繰り広げられる。いったいどこの世界に挨拶ついでに山賊を返り討ちにする人がいるというのだ。そして、やりとりに俺がついていけてないにも関わらず、まるで気がつく素振りもない。
「というか山賊はどうするんですか。特に1人は、出血がひどくて死んでしまうかもしれませんですよ」
「ええ。治癒しますね。これくらいであれば私の魔術で何とかなりそうですし」
治癒できるのか。えっ、今、すごいこと言った気がする。魔術って言ったよ。
「意外だったろ、こいつ治癒の魔術が使えるんだぜ」
そもそも、魔術が使えるなんて聞いてない、否、それ以前の話としてこの世界に魔術があるなんて知らなかった。ただの中世かと思ったら、ちゃんとそういところは異世界らしくしっかりしてる。しかし、どうなんだろう。治癒魔術って使えるとすごいのだろうか。どんなリアクションしたら。
「知らないのか、治癒魔術」
「知りませんよ。治癒魔術」
マシューは肩をすくめて、不思議そうな顔をしている。というか言葉を失っている。多分俺も同じような顔とリアクションをしている気がする。お互いの常識が食い違うとこのようになるのであろう。
「それで教会には行ったことはあるのか」
「それはあります」
「そうすると機会がなかったのかもしれませんね。名家では出血すら子どもには見せないそうですし。興味があるようでしたらご覧に入れますよ」
うんと首を縦に振る。するとアンソニーが真面目な表情に変わった。出血のひどい、倒れている山賊の前で膝立ちになる。その前で、右手で何かしらのジェスチャーをした後、両手を胸の前で組み、「大天使ミカエルよ、我が呼びかけに答え、この者を癒やし給え」
そう唱えると否や、山賊が緑っぽい光に包まれ、見る見るうちに傷口が塞がっていく。その様子を確認したアンソニーはこちらを振り向き、「こんな感じですかね」と言ったのち、出来に満足したかのように立ち上がった。確かに、これはすごい。瀕死の山賊が息を吹き返したのである。とは言ってもまだ立ち上がるほどには回復していないようである。
「成功だな。それじゃあ運ぶか」
「あの、俺、僕が倒した山賊は治癒しないんですか」
「必要ないだろ。あれくらいなら、布でも巻いて抑えてれば血が止まるさ」
そんなことを言いながら、地面で気絶している山賊たちを手際よく紐で縛っていく。というかアンソニーもアンソニーである。当然のようになれた手付きで、弓を持った山賊たちを縛っていく。
縛られた5人の山賊たちは荷車の上のもともと俺が座っていた荷車のすぐ後ろに置かれた。近い近い。 さすがに、近くに座る勇気はなく。二人が座る御者席の近くに移動する。本当はこの人たちどうするんですかと聞いてみたいが聞くだけの勇気がなかった。
「とりあえず、このあとなんだが。本来のルートから少し外れて、騎士団の詰め所の方に寄って5人を引き渡すから村への到着が遅れるぞ」
「わかりました。よろしくお願いします」
そもそも俺には決定権はない。言われたとおりにするそれだけである。というか考えてみれば、ここは夢の中なんだよな。これを文に直すとなるとかなり大変そうである。そうだな・・だめだ、考えがまとまらない。こんな話は使えないかもしれない。それよりも夢の中であるにも関わらずどっと疲れてしまった。
それでは今回はここでお開きにしよう。また、二人に合うことがあったら、そのときは、お礼が言えるようになっているいいな───。
幕間
先輩の声がする。
「休憩中ね。それで、彼はどうなったの」
「無事転生させてきました。今度は失敗しませんでしたよ。」
「それはよかった。というより、やっぱり失敗してたのね。まぁ、仕事に慣れてきた頃にみんな起こすからああいったこと。しかし、まぁ、よくやっていると思うわ。普通、ああいったミス起こすともっと慌てるもんなんだけど」
「それは、慌てましたよ。どうなるかと思いました。ギリギリでしたけど、時計使わなくても何とかなりました。でも、同じことを係長もやったということですね。ちょっと嬉しいです」
「何よ。だからといって反省しないのはダメよ」
楽しそうに笑っている。裏表がない人なのだろう。先輩につられてこちらまで嬉しくなってくる。この人はこういう人なんだろう。人に愛される素質を持っているのだ。
「それでもきちんと仕事をこなしている。それは偉い。そうそう。それでだけど、午後の仕事はもう確認してある? まだなら手伝おっか?」
手伝ってもらうのは嬉しい。しかし、係長は私の倍以上の数の仕事がある。迷惑はかけられない。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。わからなくなったらすぐ聞きますので」
「そっか。そうだよね。期待してます」
そう、私は期待されている。悲しいことに誇大表現ではなくである。それも、私の実力以上にである。その期待には最大限答えなくてはいけない。まだまだ、頑張ろう。先輩の差し入れの缶コーヒーを左手に持ち替え休憩所から飛び出していく。
「今のが、坂本のところの新人か。確かに仕事できそうだな」
「そう、尾崎ちゃん。いい子よ。たまにすごいミスするけど」
「俺と一緒だな」
「そうね。基本は完璧なんだけど。いいところでミスるのよね。新人のころのあなたと全く一緒。ところであなたのところの新人はどう?」
「そこは全然似てないって言うところだろ。まあいいか。それで宮本の話か。宮本はね、めっちゃいいよ。間違いなく才能がある。人事の目が節穴だったとしか思えない。本当にさ、どうして4課に来ちゃったのかわからなくなるくらい。もったいない人材だな。多少、転生させる相手に肩入れするきらいがあるが、それも個性だ。俺は悪いとは思わない。できるなら、出世に近い、坂本の1課で育てられたらいいんだけどなぁ~」
大胆にもこちらに面倒を見させようとしている。4課ということを考えればできなくはないのだけれど。
「まあ、うちにはには尾崎ちゃんいるし。尾崎ちゃんにしても仕事できるのに転生局に来るなんて只者じゃないわね」
「だな。というか、後輩ばっかに感けないで、自分も頑張れよ、俺たちの出世頭どの」
「うちの代で主席だった、あなたに言われるとただの嫌味にしか聞こえないわよ」
「主席は、転生局の4課で主任になんかしてませんよ。応援してる。今度都合が合ったら飲みにいこうぜ」
そう言いおわるや否や、そのまま楽しそうに、彼は屋上の休憩室から出ていった。
本来なら、私のポジションはあなたのものだったはずよ。喉まで出かかった言葉を今日も飲み込んだ。そのような言葉をかけたところで今の彼は何も変わらない。
「何とも難しい生き物ね。人間のように簡単だったら良かったんだけど」
目が覚める。今何時だ。周囲は暗い。やばい寝すぎた。何もせず一日が終わってしまった。夢の内容なんて文字にすれば5000文字であろう。あんなふざけた内容をいちいち描写していては、テンポが悪くて、誰も読まない。
「あれ、毛布どこいった」
あたりは暗い。ぼやっとしていてあまり良く見えない。照明をつけなくてはならないがそれにしても暗くてそれもできない。周囲の建物がライトが消えているのか、雨戸を閉めていたのか。よし、ようやく目がなれてきた。え、ここって。
「目が覚めたか。」
背中越しに声をかけられる。今、緊張の線が走った。すごいゾクッとした。
そう、この声は間違いようがない。マシューである。
「ちょうどよかった。もう村につく頃だったから。寝ている人を起こすのは気が引けてね」
またまた、聞き覚えのある声がする。
「ええーと。夢はどうなったの─」
大きな快活な笑い声がする。俺は知っているこれはマシューの笑い方である。
「なんだ、夢見てたのか。それで、どんな夢だったんだ」
「いろいろと」
いや、これが夢ですけど。俺は、夢の中で異世界に行ったはずなんだけど。これは何事であろうか。今までの顛末を振り返る。
そう言えばこれは、前にもあったな。なんだ、また夢見ているのか。あれは高校の頃。テスト前の深夜に課題をやっていたのだが、何とかその課題をやり終わり寝たんだ。次の日の朝、提出物を確認すると、まだ別の宿題が残ってという夢だった。そう、これは夢であった。ちなみに、その夢から覚めたらベットではなく、椅子に腰かけており、寝落ちする前に取り組んでいた宿題が途中で止まっていた。なお、追加の宿題があった。つまり、何を意味しているのかというと現実とは夢以上にドラマティックなのである。
今は、そんな感じなんだろう。