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覚醒

「盛り上がっているところ悪いが。つまり、イーサンたちは依頼を蹴るということでいいんだな」

 また何か来たよ。不用意に後から後からキャラクター増やすと話を書くときに大変になるんだよ。特に、それぞれの喋り方に癖があるときはいいけど違うときは読者に伝わるように書くため難易度が上がる。そこが下手だと混乱が起きることになるのだから。それに正直言って今ここにいる5人でも多い気がしている。これ以上は犯罪ですよ。後で何人かリストラするかもしれない。

「デイヴィッドか。どうしてこんなところにいるんだ」

「どうしてってそりゃあ。お仕事に決まってんだろ」

 デイヴィッドだと明らかに強そうな金髪が現れた。おっと、一人じゃない。デイヴィッドという男以外に6人ほどいる。見た目だけで分かる。一般人ではない。

「依頼を横取りするということでいいのかしら?」

「結果的にはそうなるのかもしれないな。だって、お前らはそいつのことを殺さないんだろう。他の冒険者の仕事に口を出すのはご法度だが、依頼と正反対のことをするってそれはどうかと思うがな」

「つまり、あなたたちはオトを殺しに来たということでいいのよね」

「そういうことだ」

「なら僕たちの敵です。手加減はできませんよ」

「残念だが仕方がないだろう。だがそんなボロボロの体で俺たちに挑むのか。そろそろアドレナリンも切れてきただろう」

「なっ」

 ズルい。要するに自分たちが楽するために4人が消耗するまで待っていたのか。セコイことをする。まるで俺を見ているようだ。おまけに、アドレナリンなんて言葉を知ってることも驚きだ。しかし、見事に作戦は成功している。こちらの4人は結構疲労が見える。その上、人数はあちらの方が多い。

「あの方はどれだけの実力を持っているんですか」

「ああ、デイヴィッドたちか。かなり厄介だ。デイヴィッド自身は三叉槍という特殊な槍を使う。俺と同じで魔術はからっきしだが、槍術に特化したスタイルで俺たちと同じAAクラスの冒険者だ」

「その他の6人もA級のタンカーに斥候、BB級以上の魔術師という感じでかなりバランスの良いチームよ。一斉に相手をすれば全開の私たちでも勝つのは難しいわね」

 勝ち目はないそうだ。逃げるべきだろう。

 ──何を考えているんだ。今ここにいる4人は、俺のためにこんな目に会っているのだ。逃げるだなんて駄目だ。この窮地は俺自身の力で脱するべきだ。

「分かったんなら引き渡してくれないかな。平和主義者の俺たちとしては無駄な血が流れるようなことはしたくないんだ」

「あなたの言い分は良く分かります。しかし、オトは僕たちの家族なんですよ」

「ええ。大切な家族を引き渡せと言われて素直に引き渡す人なんていないのではなくて」

「まさか状況が分からないなんて言わないよな。笑わせないでくれよ」

「物分かりが悪いのはあなたではありませんか」

 デイヴィッドは二人の様子を確認し、その言葉が本気であることを認めたようだ。

「っはあー。物分かりの悪い人間はこの世界ではいけないんだぜ。はっ、せっかくの機会だ。デイヴィッド・ブリックスの恐ろしさというものを教えてやるよ」

 デイヴィッドたちの意識がアンソニーたちに集まる。戦闘態勢に移行しようとしている。しかし、人数比もあるのかどこか気の抜けている感がある。

 今だ。背を屈め、4人の後ろから飛び出してアンソニーがお土産として持ってきた弓矢を拾う。矢の残りは八本。一本の残すとして、1人一本でちょうどぴったりの人数。どうやら俺の動きは見えていないようだ。背が小さいため見えにくいのだろう。

 目を閉じて深呼吸する。ここにいる全員の立ち位置を頭の中に思い浮かべる。両者の背中側には森の木々が迫り来るように立っており、こちらは右手からイーサン、アンソニー、サラ、クララという順で並んでいる。それに対して、相手の内でも魔術師らしき4人はデイヴィッドたちよりも後方の森の中に入っており、正面からは狙いにくくなっている。木々に守られていない他の3人も斥候の男性とデイヴィッドとはともかくタンカー職であろう女性は重装備で矢が通りそうにないが、ここはイーサンと同じ攻撃で行けるだろう。となると俺は厄介な魔術師から倒し、その次が斥候、タンカー、デイヴィッドの順で撃破していく。よし、ルートは出来た。後は実行するのみ。

 闇夜をかける。素早くイーサンの傍に滑り込む。こちらは小さく相手に視認されにくい。また、矢はとても細いため、闇夜の中では見切ることは大変である。この利点を最大限に活かした手法で攻める。

 手に二本の矢を持ち、イーサンの陰に隠れたまま弓を引く。狙うのは、ここの位置から唯一狙える一番森の奥にいるフードで顔を隠した魔術師だ。距離にして12,3メートル。ただし、ちょうどこちらの正面にいるため遮るものはない。

 今だ。右腕の力を一気に開放する。矢は弓を離れ、狙っていた魔術師に直撃した。

「うわぁーー」

「どうした」

 その様を確認するなり、アンソニー達の後ろを通り、今度はクララの傍に隠れる。予想通り、相手の冒険者たちは射貫かれた魔術師に気を取られ、俺の動きには気が付いていない。もう一度だ。今度は射線上に障害物がなく、一番気が動転している左から2番目の魔術師を狙う。

 手に持っていたもう一本の矢を素早く番える。慌てない。時間には余裕がある。相手を見つめながら弓を引く。これは・・中る(あたる)。

 無心で矢を射る。次の瞬間、射られた相手は突然のことに反応できずに音を立て崩れ落ちた。

「おい。夜矢だ。どこかに狩人がいるぞ」

 箙から素早く矢を二本取り出す。今度は森の中に駆け込んだ。ああ、一瞬という時間が永遠のように感じられる。魔術師たちの後ろに回り込む。木々の間を走り抜けているため、間違いなく足音が聞こえているだろう。しかし、それにどのような意味があるだろうか。こちらの姿を捉えられているわけではない。俺に攻撃を当たられるはずがない。

「いくぞ」

 弓を引き、テンポよく目の前の魔術師風のローブを着た冒険者に矢を放つ。距離は3メートルもない。的中。残るは4人。1人は魔術師で、3人は近接系の冒険者だ。この距離の近接系に弓で挑むには分が悪い。当初の計画通り、魔術師から仕留める。

 すると俺が標的とした魔術師は俺の殺気に気がついたようである。素早く呪文を唱える。

「トムテよわが身を守れ」

 詠唱を終えた途端。魔術師の周りにバリア的なものが現れ、射線が遮られた。ここからは当てられないかもしれない。作戦変更。バリアのない上から狙う。

 両足に力を籠め、目の前の木に向かって飛び掛かる。その木の幹に両足で着地し、傍にある木に向かってもう一度飛び掛かる。今度はその木に右足で着地し、その足に力を籠め、左足を前に出し垂直に木を駆け上がる。そして、木の幹がなくなるところで宙に身を投げ出した。

「やばい高すぎだ」

「上からだと」

 上に行くことに気を取られすぎて必要以上の高さまで来てしまった。10メートルいや、15メートルはある。あれ、さらに上がっていく・・・まあ、気にしても仕方がない。重要なのは上からであれば先ほどの魔術師も狙うことができるということだ。

 幸いなことに魔術師はこの状況には対応できていない。まあ、無理はないかもしれないが、それが命取りだ。弦に矢筈をかけ、弓を引く。空中で弓を弓で引くなんて初めてだ。中るかどうかは分からないが、やることは一緒だ。弓を引いたまま狙いをつける。距離はあるが、重力の影響を受けにくい分だけ上の方に当たりをつける。

「ひっ」

 その瞬間、魔術師と七宮、二人の視線は交わった。魔術師は慌ててガードしようとする。とはいうものの高さもある分だけ七宮が有利だ。雲の隙間から上限の月と共に赤い閃光が現れる。猩々しょうじょうひ双眸そうぼうが映える。その場にいる誰しもが言葉を失った。構えられた矢の鏃が月光に煌めく。天を舞う少年は、そのつまらなそうな顔に僅かな微笑みを浮かべながら、矢を放った。

「ぎゃぁー」

 よし中った。おかしいな、みんな見てる。あれ、なんかやらかしてしまいましたか。この際だ。残る3人もこのまま射ってしまおう。箙に手をかける。残る矢は4本。2本を抜き取る。体の上昇が止まった。どうやらここが一番上のようだ。落ちながら射ることができるため、矢に力がのる。全身が鎧の冒険者にも矢が通るかもしれない。

「いやぁーっ」

 右に回転しながら防御力の低そうな斥候に向けて射る。さらに、回転力を利用し矢を番え引き直し射る。

「小癪な真似をするな」

「そんな攻撃が通用すると思っているのか」

 おおっと見事に躱され、防がれた。さらに、こちらに向けて飛び掛かろうとしている。こっちは空中だ。避けようがない。できる限り衝撃を受けぬよう受け身を取る。

「そうはさせないよ(わ)」

 アンソニーとクララがこちらに向かっているタンカーと斥候に向け攻撃をする。二人の動きはかなりぎこちないが相手の突進を止めるのには十分だ。

「なんだと」

 助かった。こちらもまだ二本矢が残っている。もう一度矢を取って。その前に地面だ。

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