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世の中、強者にしか分からないことがある

幕間


 どうしたのだろうか。先ほどから、3課の方が騒がしい。それも尋常じゃないくらいだ。よっぽどの大事故を起こしたのだろう。となると、久しぶりに4課が動くことになりそうだ。まあ、藤島ならとっくに気が付いているだろう。あいつは特殊だから。

「尾崎、休憩から上がってきました。お願いします」

「お願いします」

 尾崎ちゃん休憩終わりか。みんなも揃っているようだ。つまりもうそんな時間。

「それにしても、すごい騒がしいですね3課の方」

「そうね。おそこは滅多に事後出さないから、本人たちが一番驚いているのよ」

「まあ、あちらは俺らとは違って修正大変だからな」

「仕組み上の差だ。気にしてもしょうがない。私たちには彼らのようにきない。それと同じで彼らも俺たちのように仕事はできないというわけさ」

「そんな感じなんですか」

「そうそう。気にしもしょうがないわ」

「分かりました」

 みんな、それぞれの案件用の準備を始める。

「坂本さんずっと尾崎の相手してませんか」

「そうだっけ」

「自分の仕事もやらないと出席できませんよ」

「大丈夫よ」

「そうだぞ係長は見えないところで努力してるタイプなんだから」

「なんで菊田がそんなこと知っているんだ」

「そんなことはどうでもいいだろう」

 みんな楽しそうである。この班は私の期待以上の仕事をしてくれるだろう。頼もしい限りだ。

「それじゃあ、俺は行ってきますね。また後で」

 さてと、私も現場に行こうかな。

 単独行動。これが私たち1課の仕事の在り方だ。


幕間 終


 うう。揺れてる。月は下限の月くらいだ。あまり明るくない。さらに、木々に囲まれているということもあるせいなのか周りが確認できない。分かるのは、規則的な上下運動。リズムのよい二人分の息が聞こえるということだ。ここはどこだ。いや、そもそもからしてどうしてこんなことになっているんだっけ。ええと・・確か・・・そうだ。俺は冒険者の腕の中で息ができなくなって、そして死んだはず。

「誰か」

 声は出る。

「気が付いたか」

 生きているのは間違いない。

「おい、聞こえているのか」

 あとは、ここがどこだかわかるといいんだけど。

「ねえ、大丈夫なの」

 方角すら分からないとか絶対にやばい。

「お前が力籠めすぎたせいだぞ」

 あれ、男の声がする。どこかで聞き覚えがある。

「おーい。目覚めたんだよな」

 どこで聞いたんだっけ。

「ちょっと私が運ぶわ。あなたが肩に担いでせいで気持ち悪くて返事できないのよ」

 これは確か・・俺が襲われた冒険者の声だ。

「そんなわけあるか」

 取り敢えず、なにか声をかけた方がいいのかもしれない。

「じゃあ聞いてみる。多分そうだって言うから」

「はい」

「おお意識あるな。寝言じゃなかったようだ」

「ごめんね。私が強く抱きすぎたみたい。ということで私が抱っこするわ」

「ええと、大丈夫です。それよりあなたたちは誰ですか」

 そう。大変初歩的なことだが、俺は二人の名前を知らなかった。二人から逃げて家までの帰り道を探すにしてもまずは相手を懐柔するところから始めなくてはならない。名前を知るということはその第一歩なのだ。

「言われてみたら忘れてたな、俺はイーサン」

「私はサラよ。痛いところはない?」

 特に気になるところはない。しかし、こういったものは後から痛みが出てくることもあるかもしれない。安易には答えない。

「実は折れてたりしてな」

「いいわよ。そしたら私が責任とるわ。しっかり面倒見るから」

「ははん。冗談きつすぎて笑えないぞ。こんなオバサンに介抱されるとか誰でも願い下げだろ」

「ちょっと、訂正しなさいよ。あんたこそ・・・」

 どうなっているんだ。がっちり話を聞いてみても、どのような流れなのか分からない。それよりもこの二人はこんなくだらない話よく続くよな。しかし、ポロっと大切なことを口走るかもしれない。俺には話を聞く権利がある。

「この間あなたが宿取り忘れたせいで野宿になったんじゃない」

「それは仕方がないだろう。忙しかったんだから」

 訂正。俺から聞き出さないとこのまま地平の彼方まで運ばれそう。

「少しいいですか。まず、今はどのような。ええと、何があったんですか」

「お前か。お前は死んだことにして、冒険者として新しい人生を歩むんだ」

 はぁ。今ので分かるというのか。俺は仔細な説明を求めます。俺の様子から察したのかサラと呼ばれた女性がフォローに入る。

「丁寧に言うとね。ある人たちから”君のことを暗殺して”という依頼がきていたのよ。だけどね君と会ってみて、殺すのはもったいないと思ったわけね。だから君のことは殺したことにして、依頼は終わらせる。そしたら君は自由になれるでしょう。そして私たちと冒険者生活をするのよ」

 うーん。ちぐはぐな説明だけど言いたいことはわかる。しかし、その説明を聞いて納得する人はいないと思うんだよ。それにお世話になった人にさえ挨拶できていないんだから。そうだ、そういえば。

「アーロンは、俺と一緒にいた男の子はどうなったんですか」

「それなら心配するようなことは何もないぞ。村からも近いし。」

「そうね。おまけにあれだけ濃い魔力が漏れている状態の人間に近づこうとする魔獣なんていないわ。それこそ、災害が起きるレベルよ。そもそも、彼と二人きりの時にあなたを襲ったのは余計な怪我人を出さないため。あの状況になればあなたが一人になることが分かっていたということ」

「要するに、アーロンの能力を知っていたというのですね」

「そうね」

「下調べはしっかりとする質でな。大方すべて計算通りだったぞ」

 なるほど。つまり仕事ができるタイプの人たちということか。まあ、関係ない。俺も俺の仕事をする。つまり、家に帰る。どうやら悪い人たちではなさそうだ。お願いするとあっさりOKしてもらえるかもしれない。

「その大変言いにくいのですが、今回はご縁がなかったということで家に帰ることはできませんか」

 二人の歩みが止まる。無言の空間が広がる。ミスった~。今のなかったことにしたい。

「予め断っておく。お前が俺たちと来ないというのであれば、お前は死ぬことになる」

 真面目な顔つきだ。本気なのだろう。抵抗するものは何もない、要するにこちらには武器がない。本当にただ殺されるだろう。

「それに、あなたがあの家にいれば、あの家の人たちにも迷惑をかけることになるわ。それでもいいのかしら」

「それは・・」

 できない。盲点だったが、確かにその通りだ。俺のくだらない決定でみんなが危険にさらされるというようなことがあってはいけない。彼らの言う通りではないか。

「わかったか。残念だがそれが真実だ」

 分かってる。分かっているさ、そんなことは。でも、みんなからは数えきれないくらいの施しを受け、あきれるほど迷惑をかけた。最後に一回だけでいい。みんなにお礼がしたかったな。

(「もしもし、聞こえてますか。もしもし、聞こえていたら返事を下さい」)

 えっ。今、どこかしらから声が。二人は気が付いていない。幻聴か。

(「もしもし、アンソニーです。聞こえていたら何でもいいですから答えてください」)

 アンソニーだ。どうなっているんだ。

「聞こえています。僕、俺はみんなに伝えたいことがあって」

「待って」

「──サラ!」」

「分かっているわ。声が聞こえてきたのよね、そしてその声に答えたのよね」

「ええっ? はい。何か問題でもありました・・か」

「そうだな」

 バァン!炸裂音がする。後方からだ???何が起きている。

「やはりこれは、無理そうか」

 二人は足を止める。素早くあたりを確認し、周りがすっきりとした開けた場所へ向かって行く。そして素早く戦闘態勢に入った。俺はイーサンの肩から降ろされた。

 二人は息を整え、さらに剣などの装備の確認している。様子から判断するに何かしら敵が迫っているだろうか。

「見つけたわ。良かった。元気そうじゃない」

「本当に良かったですよ。どうぞ、落とし物ですよ」

 この声は・・・アンソニーとクララだ。俺のためにこんなところまで来たというのか。どうして。まるで当然のことのように。

「家族を迎えに来ましたよ。抵抗せずに引き渡して頂けますか」

「それよりも早すぎやしないか。流石は、ストックウェル家”最優の神童”と呼ばれるだけはある」

「大袈裟ですよ。それにその名はとっくに過去のものです」

「アンソニー、ここで謙遜するなんて嫌味よ」

「そういう妹のあなたも結構な有名人よね」

「おばさんでも知っているなんて相当かもね。おばさんは私が相手をしてあげるわ」

「よく言うじゃない。でもご生憎様、練習のように楽しめないわよ」

「勿論、僕(俺)の相手はあなた(お前)だな」

 最早、殺気プンプンだ。取り敢えず、アンソニーの足元にあるお土産の俺が落とした弓でも拾っておくか。しかし、どう見ても近づける雰囲気ではない。山賊のときなんかの比じゃない。本当もうこれ以上近づくと気絶しかねない。

「──はぁっ」

 アンソニーが切りかかる。イーサンは受けに回る。早い。動き出したと思った瞬間、すでに飛び掛かりながら縦と横、2度も切り付けている。辛うじて目が追いついているという感じだ。おそらく残像だ。

「まあまだな」

 しかし、イーサンも手練れだ。普通に受け止め、押し返した。

「いえいえ。今ので決まるだなんて思っていませんよ」

 今度は二人同時に打ち込みに行った。

 すでに白熱している。どちらが勝ってもおかしくはないだろう。女性陣はどうだ。

「へえ。おばさんも言うだけのことはあるようね。実はすごい人だったりして」

「そうかしら。ただあなたの力が足りていないだけかもしれないわよ」

 こちらも始まっていた。静かすぎて気が付かなかった。これは肉弾戦か。スパーリングしてる。クララって魔術で戦わないのか。いや、互いに素手でやりあっているのだから口を出すべきではないか。きっと深い理由があるのだ。傷が残りにくいとか。

 俺はどうしたらいい。アンソニー達にはお世話になっているという恩がある。一方、冒険者の二人にも命を取られなかったという点で引き目がある。どちらにつけば、何が正解だ。

「しっかし、お前たちの家族はアズマ族を匿うというのがどういうことを意味するのか理解しているのか」

「何を言い出すかと思えばそんなことか。俺は・・いえ、もちろん分かっています。それよりその質問にどのような意味があるのか分からないですね」

「ええとねアンソニー、要するに武器を収めて見逃してくださいということじゃないのかしら」

「口だけは大人なのね。体は子供だけど。まだ降参しないってことは、ケガして帰ることになっても文句はないということね」

「それはこちらのセリフよ」

 4人は互いに一歩も退かない。どう見ても只者ではない。超一級の剣術で相手を追い詰めるアンソニー。武器の相性が良くないにもかかわらず、見事にすべてを受け止めカウンターを食らわせる大剣使いのイーサン。初速はアンソニーを大きく上回るサラの剣はたとえ相手が姿を目でとらえていても躱すことができないだろう。それに対するクララは魔術の素質が非常に高いにもかかわらずその力に頼らず中国武術のような動きで応戦している。

 だが流石に疲れが見えてきた。みんな息が上がりつつある。特に男性二人は、重い剣を振り回しているだけあり疲労が目に見える。一手間違えれば命の保証はないだろう。女性陣もそれぞれサラは魔術で隙を作ってから効果的な一撃を狙う攻撃法になっている。もちろんそれに合わせてクララも魔術中心のスタイルに変化している。ここからは消耗戦だ。やはり見ていることしかできない。

「おいおい。息切れてるじゃないか」

「そうですか。それよりもあなたのこと思い出しましたよ。そんな大きな剣を振り回す冒険者はこの国に一人しかいませんから」

「先ほどの質問もう一度していいかしら。あなたも有名な冒険者ね」

「そこの苦戦してるおばさんも俺と同じAA級の冒険者だ」

「おばさんは有名人じゃないわ。お姉さんは有名人ですけど」

「やっぱりね。私の相手をすると先に相手が降参するものなんだけど。そんな感じがしたからそこら辺の冒険者じゃないことは分かるわ」

「確かにあなたの相手はおばさんじゃ成立しないわね。どう、冒険者にならない。あなたとそこの子ならいきなりBBB級か、もしかするとA級に成れると思うわ(私の守備範囲外だけど)」

「ありがとう。素敵な提案だけど遠慮しておくわ」

「僕もそうしますね。戦いとか無益な殺生とか性に合わないんです」

「それは残念だ」

 またまた、この雰囲気は何だろう。死闘を乗り越えて仲が良くなったみたいな空気感。和解したのかな。今こそ俺も身の振り方を考えるべきではないか。

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