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噂によると異世界の本屋で魔法書以外の本を買ったやつがいるらしい

「アーロンか。また来たのかお前は」

「お世話様です。またまたお邪魔します」

 なんだ。すごいフレンドリーだ。何この感じ、こんなキャラクターだっけアーロンって。というよりもこの雰囲気は、二人はまるで師弟のようじゃないか。多くを語らずとも分かりあっている。そのような感じだ。俺の出る幕じゃない。こっそり帰ろうかな。

「ほうその見た目なら6歳ぐらいか。ただ、少し特殊な人種のように見えるが」

「人属なのは間違いないでしょう。確かに種族は、私たちと多少異なるかもしれませんが、気にするほどじゃないでしょう」

 何の話だ。種だの属だの生物のお話だろうか。それはつまり、俺は一般人と異なるのか。やっと主人公ぽさが見つかったかもしれない。

「それでいったいどこのどいつだ」

「この子はオト・ナナミヤ君といいます。私の父たちが先週、イオースからこの村に帰ってくるときに保護したそうです」

 10歳ほどの子どもに”この子”と呼ばれる年なのか、今の俺は。なかなかにパワーのある言葉だ。仕方がないさ、気にしないとも。でも、良く分からないおじいさんになめまわすうように見られると気色悪いな。

「なるほど。そうかその子が。友達連れてくるからどうしたものかと思ったが。まあ、無理もない。自分と同じ種に囲まれて生活していたら分からないだろう。その様子じゃ、村中で話題になっていることも知らないのだろう」

「家からもほとんど出ていないのでそうかもしれません。その分ですかね、変な噂も多いんですよ」

 置いていかれた。俺に分かるレベルに話を落とし込まない。ただ1つ言えるのは、アーロンは俺が連れてきたんだよ。

「あのう。話がいまいち分からないんですけど」

 俺はあくまで本を買いに来たのだ。俺にまつわる話を聞きに来たのではない。ただし、興味がないとは言っていない。どう転んでも良い。

「いや。実はナナミヤお前は有名人なんだという話だ」

「えっ、どうしてですか」

 わざとらしく尋ねる。多少、わざとらしい方が相手も話し安いだろう。

「二コラ、話は選んでください」

「分かっている」

 あれ、これって良くない評判が立っているのか。

「実はなーこの村の中にはお前のことを殺してでも追い出そうとしているしているやつがいるのだ」

 えーと。どうしたらそうなるんだ。おかしな偏見が持たれていて嫌われているとかじゃない。俺を殺したいって何があるんだ。

「だから、選んでくださいよ。もう仕方ない」

「いずれ、知れることだ。それにニュースは悪いことから伝えるのが俺の主義だ。ただし、今回は良いニュースなんてないがな」

 アーロンが慌てている。俺にはいまいち話が呑み込めない。

「ええと。そうですね。それがですね、あなたの種族が、その。」

「ナナミヤ、お前は何の種族かわかっているのか」

 何の質問だ。そんなものは

「ヒトに決まっていますよ」

 あっ、実はスライムだとか。なんか以前スライムになる夢を見た気がする。それが正夢になって、実は俺はスライムだったりするのか信じられないけど。

「それは分かっている。つまりだ、アズマ族ではないのかという質問だ」

「いきなり、そんなことを聞かなくてもいいじゃないですか。あんまりですよ」

 うーん。何の話だ。さっきから話の筋が見えない。アズマ族? そうだとするとなんで殺さるんだ。こんなことになるなら、この世界の人種について詳しく勉強しておくべきだった。魔術にばかりかまけている場合じゃなかったのかもしれない。

「要するにだ。種族を聞かれたときは、良く分からないと返せばよいということだ」

 おっと、急に話が飛躍して結論が出てきたぞ。それにしてもいったい何があるんだろう、アズマ族。ちょっと気になるんだが。

「あと、東の方で生まれたとかも言ってはいけないからな」

「どうしてですか、多分、設定的には東の方で生まれたとか、そっちに縁があるとかになりそうなんですが」

 ポカンとしている。俺も、設定という発言はいらなかったかなのと思う。しかし、それ以外になんて言ったらいいのかなんて分からないんだよね。

「それは、隠す方向でいいですか。バレると余計にあぶないですから」

「分かりました。それで、アズマという一族には何があるんですか」

 何もわかっていない人みたいな発言になってしまった。まあ、いいだろう。

「どうするかな」

「取り敢えず我が家ににある本で歴史を学びましょう。そうしてから、アズマという種族について説明します」

 そんな問題があるのか。隠すほどの事情か。知らないというわけにはいかないだろう。二コラの方を見つめる。

「ああ。ひとつだけ言っておくとアズマとは一族ではなく、ここらの国よりも東に住んでいる種族のことだ。目に特徴的があって、横長で切れ長なんだ。戦闘になると、その瞳の色が様々な色に変化する。おまけにその戦闘力が恐ろしいほど高く、東の方の国と戦争になると決まって大打撃を受けるため苦手意識を持っている人が多い。とはいっても、こちらから、攻撃しなければあちらさんは何もしてこないからそこまで心配する必要はないんだがな・・・」

 おいおい。一言じゃない。いつまで話すんだ。でもそのおかげでどのような理由で嫌われているのか分かった。これは買うべき本が見つかったかもしれない。しかし今回は、アーロンの本を買いに来たのである。やはりあきらめた方がいいか。

「わかりましたよ。十分です。今日は、あくまでもオトに本を買いに来たのです」

「そうだったな。それで何の本が欲しいんだ」

 ちなみに俺が買いたい本はもちろん歴史か地理の本だ。多分生命線になるのだから。

「おすすめは、最近改定された音楽理論大全か、最新版のイヴァン・ブラウンの詩集だな」

 おっと。詩集という言葉を聞いた途端。アーロンの表情が変わった。まあ、しょうがないな。店の中で何を買うか決めるつもりだったけど、アーロンは常連みたいだし決めるほどもないのかもしれない。よし、詩集をプレゼントしようではないか。歴史の本が欲しいという気持ちがあるのは事実だが、それはまた今度で家にあるものを読むとしよう。

「詩集が欲しいです」

「ほお。若いのに見込みがある。そういうのに興味があるのか」

「まあ、同業者ですし」

「ふむふむ。あったぞ。これが本だ。どうだ。いい本だろう」

「素晴らしいです」

 かなり作りこまれており、装丁のディテールも美しい。惚れそうである。

「本来は5000Zだが、今日はまけて4000Zにしておいてやる」

「安い。そんな価格で大丈夫ですか。商売成り立ってますか」

 今、”安い”って口から出てたかも。

「大丈夫、僕達には1zもまけないから」

「そうなんですね。ありがとうございます。大事にしますね」

「大事にしてくれ。そういえば、この後はどうするんだ」

 ふと、本を渡しながらそんなことを聞いてきた。どうするって、どうしようか。今日の目的、アーロンと仲良くなるは十分には達成できていない。どこかには行きたいんだけど。特になにも思い当たらない。人のいるところには近づけないというのも大きい。変な噂が立つのは困る。それは、アーロンにも迷惑をかける。家に帰るべきだろう。

「もしよかったら、山の方に行こうよ」

 そんな俺の様子を察したのかアーロンが提案してきた。山って、今からハイキングか。こんな装備でそれに時間は大丈夫なのだろうか。

「そういえばお腹すかない? 良かったら何か軽食買ってくるから一緒に山に行こうよ」

 だめだ。この好意をむげにはできない。行く以外の選択肢はいらないな。俺は自然と、はにかみながら「お願いします」と言っていた。

 アーロンは、軽食を買いに本屋から出て行った。俺もついていこうとしたのだが、アーロンと二コラから止められたため、店に残っている。詩集を軽く読んでいたりしたのだが、時間は余る。それにどうしても、二コラが気になる。

「どうした。気になることがあるのか」

 気が付かれたか。これは不可抗力だ。

「二コラさんは俺のことを怖がらないのですか」

「ふむ。何が怖いか儂には良く分からない。それが本音だ」

 そういうものなのか。

「そういえば挨拶がまだだったな。儂は二コラ・ポクランという。よろしく頼む」

「オト・ナナミヤです。よろしくお願いします」

「まあ、さっきはあんなことを言ったが、お前の存在を嫌っているのはあくまでも少数だ。気にしすぎるな。儂から言えるのはそれだけだ」

 意外といい爺さん。照れくさそうにしながら”自分、不器用なんで”とか言いそう。

「ただいま戻りましたよ。あれ、何かお話ししていましたか」

「何でもない。日が暮れる前に早く行くことだ」

「ありがとうございました。また来ますね」

 アーロンはひと言と共に再び店の外に出て行った。俺も続こう。

「ナナミヤ」

「なんでしょう。もちろんまた来ますよ」

「そうじゃない。一応、これを持っていけ」

「これは・・」

 弓と矢。何の真似だろうか。

「無いに越したことはない。いろいろ気を付けるべきだ」

「分かりました。気を付けていきますね。ええと、いつ返したら」

「その必要はない。代わりにできる限り持ち歩いておけ」

「そうですね。きちんと返す時まで、死にませんからね」

「当たり前だろう」

 言葉を聞きとげた後、アーロンを追いかけ、俺は店から飛び出した。

 剣と魔法の世界で弓矢を使って生きていく。意外と新しいかもしれない。

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