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異世界に転生した小説家は騎士を目指す

「これでオトともお別れですか。寂しいですね」

「そうですね、僕も寂しいですよ」

 激闘から一夜明けた。昨夜の疲れもまだまだ残ってはいるが、今日はアンソニーがクーランに旅立つ日だ。


「大げさだな、アンソニーは。大丈夫よ、私たちが責任をもって育てますから」

「そうは言っても僕たちも再来週には出発だけどね」

「ちょっとそれは秘密でしょ」

「いずれ伝えなければいけないことなのですから、早く言っておいた方がいいと思いますよ」

 おっと、何の話であろうか。二人は旅行にでも行くのかな。俺知らされていない。


「どちらにせよ二人とも仲良くしていてね。マイアにも迷惑を掛けてしまいますね」

「とんでもないですよ。これくらい元気がある方がいいですよ。子どもなのですから」

「どうだろうね。少しは落ち着いてもらいたいんだけど」

 アンソニーは笑顔のまま馬車に乗り込む。

「来年の卯月には帰ってきます。お手紙も書くからそれまでお元気で」


 定刻になり見送りの人々の間を抜け馬車は発車していく。俺は大きく両手を振って別れを告げる。

「元気で帰って来てね」

 アンソニーを乗せた馬車は、大門をくぐり抜けその姿はどんどん見えなくなっていく。その影が消えるまでこの手を振り続けた。


「行っちゃいましたね」

「王都ってどんなんですかね。危険だったりしますか」

「少なからず危ないところはありますかね」

「アンソニーは大丈夫だよ。強いから」

「それに首都には勇者もいるし、私たちの学校も近いから」

 分かった。さっきの話は旅行の話ではなく、学校の話だ。問いたださねばなるまい。

「そうそう。それって本当ですか」

「ごめん。お腹痛くなってきちゃった。宿には自力で戻りますから」

 アーロンが逃げる。クララに聞くしかない。

「そしたら私も野暮用がありましたので一旦失礼しますね」

ところがその前に、マイアが用事らしくアーロンとはどこか違う方へと歩いて行った。置いてけぼりにされた俺とクララ。さてと、どうしたもんかな。


「ファイト」

 二人の声らしきものが聞こえた。

「ねえ、オトはこの後時間ある?」

「時間? いっぱいありますよ」

「そうしたら周り道をしていかない?」

「いいですね。こういった機会がないと村の外なんて歩く機会がないので」

「そうね。そしたらついて来て」


「ところで、帰りの馬車ってどうするんですか? 御者の方にいろいろあったみたいで」

「それは気にしないで。代わりは見つけてくれたみたいだから」

「流石ですね。マイアは仕事が早い」

「そうよね」

「・・・・・・」

 沈黙が続く。新しい話題か。もう食事ネタしか残っていないぞ。


「ところでオトはこれからどうするの?」

「これから・・・・あまり決まっていなくて」

「騎士を目指すんじゃないの?」

 そうだ。騎士になるんだった。失念していた。いつも通りの未定ですという無難な答えをしてしまった。訂正しないと。

「恥ずかしいので。大きな声で言わないでよ」

「いいじゃない。オトなら成れるわ」

「そうですか? でも、どうしたら騎士になれるのか今から考えないといけなくて」

「それは問題ないわよ。オトは勉強好きみたいだし」

「というと?」

 何だろう。騎士優待券でもあるのかな。別にそんな簡単になれるものなら最初から目指さないのだけれど。


「私たちの学園に入るのよ」

「?」

「私とアーロンが通う学園はね、俗に言う名門校で13年連続、騎士排出人数ナンバーワンなのよ」

「おー」

 そうなの? それがすごいのかもいまいち分からない俺である。そもそも騎士になるために学校に通うというのが俺の常識ではない。ペイジやエスクワイアなど騎士の見習いとして修行するのが普通だと思うのだけれど。

「反応が微妙ね。ちなみに現在の騎士団長は12人いるけど、その内5人がローレン出身よ。騎士として出世したいなら圧倒的にお薦めかな」

 なるほど。そうなのか。それはいい話を聞いた。なお、ローレンというのは、セント・ローレンカレッジのことである。所謂、異世界の学園だ。


 せっかく異世界に来たんだ。学園生活を経験しないというのも頂けない。

「入ります。セント・ローレンに」

「よろしい。そしたらこれまで以上に勉強頑張らないとね」

 うっ。これまで以上に勉強か。まあ、いいでしょう。やってやろうじゃないか。

「目指してみますね。勉強して」

「頑張ってね。アビーも同じ学校に入る予定だから負けないようにね」

「その合格は決まってるみたいな言いまわし」

「殆ど確定事項よ。彼女天才だから」

「そうなんですね。これは負けらない」

「そうしたら、自分の剣術の流派言い間違えてる場合じゃないですね」


 あれ?

「クララ何か言いましたか?」

「私? アビーが天才って話?」

「あっ、違います」

空耳か。恥ずかしい。


「そうそう。目を閉じて」

「はい?」

「いいから」

クララに言われるままに目を瞑る。何をしているのだろうか。クララが近い。耳元にクララの口があるらしくその吐息が耳の中に響き渡る。むず痒い。

「良いわよ。目を開けてみて」


 クララの指示通り目を開ける。すると、クララは水で作った鏡を持って立っていた。そこには俺の姿が映っている。そして、目を閉じる前とワンポイント変わっている。

「あのう・・・・これは」

「プレゼント。オト見ていたでしょ」

 そう。これは俺がこの街の服屋さんで見つけたネックレスだ。どうして俺の首にかかっているのだ。


「なんでクララがこれを」

「オトが騎士になっても大切にしてね」

「ありがとうございます。一生大切にします」

「そうしてもらえると嬉しいかな。あんまり贈り物とか苦手でこれでいいのか分からないんだけど」

 これはクララなりの応援なのだろう。その気持ちには最大限こたえなければならない。

「天才に負けないよう。全力で『努力』しますね」



 さてと、時間の経過とは早いもので、そんなことがあってからすでに5年の時が経っている。

「オト、オトまだ着替えてるの?」

「入らないで。まだパンツなんだから」

 可憐な少女がパンイチの俺の部屋に突撃してくる。

「お兄ちゃんを急かしちゃだめよ」

「そうだぞ。毎日徹夜して疲れているんだから」

「その通りです。オト様は学園の主席を取るだけの実力を身につけるため努力為されていたのです」

「はーい。オトは偉いね」


 本当に分かっているのかこの反応? しかし、彼女らしい。

「アビーと違って勉強苦手なので」

 そうは言っても絶対に負けない。そのための5年間だったのだ。

「一緒に頑張りましょうね。悔いの残らないように」

「もちろんですよ」

 学園に入学し、そして俺は騎士になるのだ。副騎士団長のアンソニーと並ぶことができるようなそんな騎士に。


 七宮緒都の異世界生活はここからが本番だ。その人生は世界の命運を背負っている。だが今は────────。

 何気ない喜びを感じることができるその日常をひたすら楽しむのであった。


   ────第一部終

最後までお読みいただきましてありがとうございます。

これで「小説家異世界に転生する」の第一部は終わりとなります。


本作の続編にはこちらのURLからたどり着けます  https://ncode.syosetu.com/n6721he/ 

もしよろしければ覗いてみてください。


 私事ですが本作は私が書いた初めての長編小説となります。

 そのため、最後まで長編特有の文章の抜け感やリズムに苦労し、文章も大変読みにくいものになってしまいました。これは、反省点です。

 その一方で、手品のように設定を隠しながら文章を書いていくことの面白さも味わうことができました。貴重な経験ができたと思っています。


 さて、内容に入っていきます。読者の皆様の中には本作を読んで消化不良になられた方や、よく意味がわからないと感じになられた方も少なくないと思います。それは仕方ないかもしれません。実は本作には、元となったとある設定があります。

 それは、本作でも度々登場した”死神”たちのことです。私の頭の中にはこの死神たちが死んでしまった人間を転生させながら人間の生について考えるという物語の構想がありました。そしてその死神たちの仕事の変わり種として死んだ(と思われる)人間を異世界に転生させるという実務を担当する死神たちが生まれました。それが本作で登場した死神たちのことです。彼らのことは別な作品の中でメインで描くつもりのためその設定や仕事内容には触れることなく登場させたため、物語を読んでいく上で不必要な混乱を引き起こしたと思います。

 長くなりましたが結論からいうと、この死神たちの設定について詳しく知りたいという方は、私がいつか書くことになる死神たちが活躍する物語を読んでください。多分書きます。


 ちなみに本作の続編(第2部)は色物な作品になる予定です。第一部や第三部と比べると軽く読めるような作品にしようと思っています。興味が続く方は、上にあるURLから読んでみてください。本作では活躍しなかった主人公の妹であるアビゲイルがヒロインとして活躍します。また、父親のマシューや母親のレイチェル、とあるキャラクターの子どもも登場します。ぜひお楽しみください。

 気になった点や掘り下げて欲しい点があったらお気軽に教えて下さい。重ね重ねになりますが、最後までご愛読いただきましてありがとうございました。

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