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どうやら異世界にも住民票はあるらしいですね

 集会所の中はとても広い。1階は、2階と天井を共有しており、天井が高いため開放感がある。そこには幾つもの円形や四角いテーブルと椅子設けられている。集会所というだけあり、おしゃべりしている人がいる。奥にはカウンターがある。あそこでは移住などの手続きができるそうだ。入口横の階段を登ればそこは2階である。そこも同じような作りになっている。ただ、こちらのカウンターは銀行としての機能があるそうだ。3階には、カウンターの中を通って向かう。これより上の階は、集会所ので働く人たちの作業スペースである。下の階とは雰囲気が異なる。この階には複数の部屋があり、それぞれ部署ごとに分かれている。そこでは、村のどこを工事するかなど、1階と2階で取り扱うこと以外の作業が行われているらしい。村にしては、かなり本格的な行政作用だ。

 しかし、マシューはどこにいるのだろう。3階まで来たが未だにマシューには会えない。この建物は外観だけであれば4階建てだ。となると、残る4階にいるということになるのだが、話を聞いていた限り、仕事内容的には3階までで事足りている。4階には何があるのかそれすらも予想がつかない。

「こちらですよ」

 先ほどまでと同じような調子でアンソニーは集会所を案内していく。この会談を登れば4階だ。本当にいるのだろうか。からかわれているのかも、いやそんなことはしないだろう。やはり分からない。

 すると突然、とある一室の前で止まった。今まで見てきた4階の部屋はすべて会議室で今は使われていないということであった。つまり、この部屋で会議をしているということだろうか。会議中に突撃するのか。それはさすがに問題にならないのかな。

 いろいろ悩んでいる俺を余所にして、アンソニーはノックして名前を名乗った。部屋の中からはくぐもった声で返事が聞こえる。それを確認してその部屋に入っていく。クララも続いた。まるで魔法のように吸い込まれていく。ここは続かなければなるまい。部屋の前に立つ。呼吸を整え、ゴホンと咳ばらいをし「ナナミヤ・オトと申します。失礼します」と、呪文のように唱えて入って行っていく。

 入っていく・・入って・・・ここは会議室ではない。個室だ。正面には大きな窓があり、その前にはなんと立派な椅子に座ったマシューその人がいるではないか。

「よう、朝以来だな。村はどうだった。意外と立派だったろ」

 言葉が出ない。どう見たって。マシューが使っているデスクはこれまでのデスクとは異なる。いかにも、そう、いかにも村長のような。

「どうしたんだ」

「実は村長だってこと伝えていないんですよ」

 なんだって、マシューが村長だと。それは聞いてない、なぜ話さなかったんだ。俺はサプライズに弱いということを知らないのか。

「ほら、驚いているじゃない。まあ、でもここに来るまでのリアクションから、パパの仕事については誰も話していなんだということは分かっていたけど、アンソニーったら、何も告げずに部屋の中に入ってしまうんですもの」

「まあ、クララも片棒を担いだわけだよね」

「そいうことか。お前らも変なところで意地悪するなよ。ナナミヤが混乱しているじゃないか」

 いや、そういことか。つまり、マシューが村長で・・・どいうことだ。どうやって、納得すればいんだ。タジタジになっているのが自分でもわかる。

「悪いな。俺村長なんだ」

「はぁ」

 二人はどこかイタズラが成功したあとの子どものように笑いをこらえている。クソぅ。平静を取り繕うとしているにも関わらず、驚きが隠せない。絶対に今度やり返してやる。

「それで、一体お前たちは何をしにここに来たんだ」

 急に、話が変わる。きっと、理解の追いつかない俺を見かねて話題を反らしたのだろう。

「はい。まずは、オットーの案内ですね。村について知ってもらいました。それと兼ねて、集会所の方で移住登録をしようかと思ったので、その相談です」

 へぇ。移住登録。なんにも聞かされていないんだけど。急すぎるよね。

「ちょっと待って、移住登録の話しは私も聞いていないわよ」

「そうだ。まずは本人の意見を確認し、その意思を尊重すべきなのではないか」

 おっと、ここでバトンが俺に回ってきた。まあ、俺的には移住してもいいんだがな。でも、住民税とか払えないんだな。それが。

「オットーはどう思うの」

「ええと、他に行く場所が無いのであるららば、その方がいいのかもしれません」

「他にとなると教会か。あそこなら孤児を養ってくれるが」

「それも悪くはないと思うわ。でも、内の村に移住という形の方がいいと思う。一度教会の門を叩くと出てくるのは至難の業になるのだし」

 そうなのか。教会に行ったら勉強漬けになるとかそんな感じなのかもしれない。夢の中でも勉強するとか絶対に御免だ。

「そういうこともありますし、それにいろいろとあるでしょうから。早めに手続きをしようかと思い参りました」

「難しい問題だな。そこまで急ぐ必要は無いと思うが・・・」

 まあ、これが普通の反応ではないか。そんな人生が変わるような決断をわずか数分の内に出すなんでできない。だが、俺にとってそんなことは些末なことである。答えなんてはじめから一つしか用意されていなかっただろう。

「そうすれば、そうかもな」

 どうすれば、どうなのかなんて知らない。選択肢が一つである以上「移住します」と、決断を伝える。それに対して、マシューが「本当か。」と、返す。本当である。しかし、一応気になっていることを確認しておこう。

「移住の手続きとかが難しいんですか」

「そんなことはないのだが」

 濁された。血を抜かれたりするのは嫌だ。アンソニーはどうだろうか。ニコニコしている。何かしら裏があるのかと当人を見つめるていると「心配することはありませんよ。ただ、街の戸籍が消えてしまうため、納税の税率が変化してしまうのです」と答える。子どもに税金のお話をするとかかなり酷な気がするが、その程度のことなら大丈夫だろう。昼夜を問わず働いてみせよう。若い体ならば何とかなる。

「ええと、うん。そうだな。つまり、移住登録するということでいいんだな」

「はい。お願いします」

「よし。分かった。早速登録してこよう。住所は我が家にしておくぞ。年齢は分かったりしないか」

「ええと、6歳・・・くらいです」

「6歳な。アビゲイルの一つ上か。ちなみに街に住んでいたときの住所は分からないか。せめて地域とかだけでもいいんだが」

「すみません。両親からはなんにも聞いていなくて。お役に立てそうもありません」

 これには嘘が含まれていない。こうでも言わないとクララのセンサーに引っかかるだろう。どれくらいの感度か分からない以上、多少不審でもこれくらい言わねばなるまい。

「そうか。辛いことを聞いてしまった俺が悪かった。すまない。あと、登録の方だが失敗することは無いと思う。一応、家に帰ったら登録できたか教えるから待っていてくれ」

「すみません。一つだけ」

「なんだ」

「僕の本名は名のほうがオトで、姓のほうがナナミヤなんです」

「・・そうだったのか。いや、すまない間違えていた」

「ええ、そのような文化を持った種族がいるの本当です。しかし、珍しいのでもしかすると、姓と名が逆だということはあまり、他人には話さないでいた方がいいかもしれませんね。それでいいですかオットー君」

「いいですよ。あまり、好奇の目にはさらされたくないですから」

 あくまでも、アンソニーはオットー呼びか。そちらが自然なのかもしれない。まあ、オットー・ナナミヤとか変な外国人風の芸名みたいになるのはしょうがないか。

「わかった。そしたら、オト・ナナミヤで登録しておくからな。家に帰るときに写しの方を持っていくから確認してくれ。あと、気をつけて帰れよ」

 「それじゃあ」と、言ってマシューは部屋から出ていった。しかし、危なかった。街での生活について聞かれるとは思ってもみなかった。その話は俺にとっては鬼門である。いったい街の人日がどのような生活を送っているのかなんて知らないんだから、どうしても噓になる。そういった話についてはリスクがある。それよりも、気を使わせてしまったのは申し訳ない。お土産でも買っておいてあげようかという気持ちになる。それにしても、住所の写しとか住民票ではなかろうか。異世界でお目にかかることになるとは。

「話は終わったようですし、帰るとしましょう」

 帰り道は、どこにもよらず真っ直ぐに家へと帰った。しかし、最後の移住云々の下り、出木すぎてはいないだろうか。アンソニーはそもそも俺のことを移住させるために、村の案内をしたのではないかと思う。しかし、どうしてだろう。それ程までに、教会で預かられるというのが危険なことなのか。もしかすると、アンソニーだけが知っていることがあるのかも知れない。しかし、その真偽はわからない。

 その日は、一日中歩いて、疲れてしまい。家に帰ると食事もせず、昨夜の部屋で寝てしまった。ここまで泥のように眠ったのは久しぶりである。


「ところでパパ。オットーって、名前がわかっているんだから、街の戸籍を調べれば、両親のこととか分かるじゃない。調べてはみなかったの?」

「それなんだがな。一応、調べてみたんだよ。もちろん、オト・ナナミヤで。しかし、どこにもそのような人物はいないそうだ」

「本当かしら。データが消えたとかも無いわけでは無いみたいだけどそんなことはあまり起きないのでしょう」

「そうだな。少なくと言えるのは、俺がアクセスした時点で、領全体の人名にはそのような人物はいなかった。ということだけだ。しかし、このようなことが起きるとなるとそもそも街から来たのかも怪しくなるが」

「でも、両親のことは分からないということについて、嘘はついていなかったわ。私の精霊が反応しなかったのだから確実ね」

「まぁ、分からないことは分からないな。取り敢えず、本人が両親について興味を持つようになったらそのときに協力してあげよう」

「それがいいわね。もしかすると時間とともに両親の名前などを思い出すかもしれないし」

「そう願うしかないな。ただ、分かっていると思うが、くれぐれも家の外では、あいつのことは一人にするなよ」

「もちろんよ。心得ているわ」

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