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異世界に転生するって大変だ

「こんなヒドイ話がこの世にあるのか!」 これは小説家である俺への挑戦状であるとしか思えない。思い出すだけでもあのぞんざいな対応に嫌気がする。

「何が『異世界転生局から来ました』だ。何が『七宮ななみやさんあなたは死にました。これから異世界に転生します』だ」誠意もないし、根本的に説明が足りていない。せめてこの世界についての事前情報くらいあって然るべきだ。 というのも今現在、俺はゴリラという名のハンターから逃走しているのである。

 いったい誰が、異世界に行ったらいきなり見知らぬジャングルに放置されると予測できたろう。どうして、いきなり小さいゴリラの大群に囲まれていると予知できるのだ。何のために襲われる1秒前に転生させさられるのか。どうして、いきなり逃げなくてはいけないのでろうか。

 こんなものは、異世界転生の小説の中でしか許されない。現実でやれば、非難されるに決まっている。分からなかったのだろうか。

 まあ、この状況に納得するヤツなんていないだろう。そんなヤツがいたらLineで友だち追加してもいい。というかすぐにするから助けてほしい。今ならtwitterとFacebookも追加するからお願いします。

 しかし、この体、今までとは違う。転生する前の体は、なんというかもっと老化していて、節々が痛み、栄養が足りていない感じがした。一方、今の体は何というべきかプルンプルンしてる。ええと、うまくは言えないけど、とにかくみずみずしい感じがする。若返ったのだろうか。しかし、そんな確認する余裕はない。

 だめだ疲れてきた。とうに息が上がり、足はもつれつつある。時間の問題で追いつかれるであろう。そしたらきっと・、そしたらきっと・・、そしたら・・・どうなるんだよ。

 残念なことに、七宮の頭の中にいたゴリラは、職業不定の動物園に住むニートである。こいつらのような野生に生きるエリートゴリラが何を食べてどのような日常を過ごしているか知る由もなかった。

「あぁ追いつかれる。わかんないよ」俺の意識はそこで消えた。ただ脳裏には俺を転生させた人間の姿が写っていた気がした。


「起きてください」

頭の方から声がする。そう言うことを言われている間は起きません。

「もう死んでいるんですよ」

 えっ。今の言葉は聞きずてならない。なぜかわからないけど許せない。ぼんやりと意識が戻る。ちょっと眩しい。 目は開かないほうが懸命であろう。目を開いたらそこには俺の死体が、とか怖いし。

「起きてますよ」真面目な顔して答えてみる。

「ふざけている場合じゃないんです。どれだけ迷惑かけるんですか。また同じ目にあいますよ」

 これ起きないとやばいやつだ。体を起こす。その様は、大学入試の当日、寝過ごしたとき以来の優美さであった。ウルトラCものである。それにより、反省の意を表する。ただ一つだけ言うのであれば俺が今まで迷惑をかけた人の数は知れない。今更何を言われても動じはしない。

「大丈夫。起きたから」

「やっとですか」呆れた声が右の手の方から聞こえる。静かに振り向く。そこには女神がいた。

 この声の主は、姿や声だけなら、そう女神である。光に照らされた癖一つないシルクの様な黒髪で、まつ毛は非常に長く知的さがあふれ出ている。また、薄く長い眉に彫刻のようなすらっとした鼻立ちに、口元には絶えず笑みの桜が2輪咲いていた。さらに、20代前半と思しきその成熟しきったキメの細かい凛々しい顔立ち、適度に引き締まった肉体。童貞にも優しい。初めて会った時、この人が俺のことを天国に連れて行くのだとばかり考え違いしたほどである。 ゴリラの牧場などではなく。

「お元気そうで何よりです」久しぶりに会ったかのように、少しだけふざけてみる。

「おかげさまで元気です。あなたも随分元気そうですね」

 愛想がない。ただ怖い、恐い。

 だが、今回は、いろいろ聞いて置かなければいけない。前のように死後7秒で転生、転生後30秒で死亡とかありえない。いったいどこのRTAだよという話である。需要がない。ここは、主導権を取る。

「今のは一体何ですか?」出し抜けに聞いてみる。

「あなたを転生させたら死にました」一言多い。もしくは、死についてはもっとオブラートに包んでよ繊細なんだから。というか、俺は死んだんだな。はぁ〜。ため息が出る。改めて実感がわいた。

「それで俺はどうなるの?もう次はないとかないよね?」確認しなければ始まらないだろう。 すると間髪入れずに「ええと。ありますよ、次」 と言う。

「本当ですか。いい仕事しますね〜」調子が良すぎる。少し反省したほうがいいと思う。来世に向けて。「あっ、でも次は死なないようにお願いします。いや、不老不死とか求めないから、死んでもいいけどそんなスタートダッシュで死ぬのは勘弁で。」ここは譲れない。というか譲ると死にそう。

すると目線を外しながら「それは、もちろんです。これ以上仕事増やしたくありませんので」などと抜かした。

 何かあったなこれは。怪しい、きっと絞られてんだろう上司から。というか今の世の中に拗ねて頬をふくらませるキャラに会えるとは。文句を言う気が削がれるではないか。

「いや、怒られてないですからね。全然」どうやらきつく叱られたらしい。

まぁ、過ぎたことはしょうがない。「それで、次はどうなるの?」

「今度は送り場所と種族まできっちりと指定します。」

 種族?あれと思う。まるで人間以外の候補があるみたいな言い回し。彼女は、不思議そうな顔した俺の姿を見逃さなかった。少し、考え込み、面白そうな顔をして 「鏡、持てきますね。見ておきますか?」 と楽しそうに聞いてくる。これは見ちゃいけないやつかもしれない。無言で首を横に振る。いや、いない消えたし、コンマ数秒まで目の前にはあった姿は跡形もなく消え去っていた。聞きながら取りに行ったとしか思えない。俺に姿を見せるためだけに?そんなやばい姿?絶対、見たくない。

「お待たせしました。大きな鏡を取りに行ったら時間がかかってしまって。」

 目が合う。その朗らかな表情の中には、間違いなく悪意が含まれている。というか、99%の享楽と1%の好奇心的な表情だよ、それは。

 すっと鏡を立てる。1.5メートルはあるだろう正方形の大きな全身境である。そこに写っていたのは、青い猫型ロボットではなく、スライムだった。少し横長ではあるが、きれいな球体である。

「ええと、あれですか。これは少し前に流行った気のする。転生したら〇〇だった的な〜」

「いや、あちらはそこまで大きくないでしょう。自分の大きさわかりますか。銀行とかオフィスにある観用植物くらいの大きさありますよ。」

 それは見てわかるよ。すると「見ればわかりますよね」などと言う。嫌味でも言ってやる。

「青くて丸いせいでDoraem0nかと思ったわ」

「青くて丸いとD0raemonになるですかあなたの世界では。勉強になります」

 随分と不思議な答えが返ってきた。しかも、せっかくの伏せ字を台無しにしやがった。それだけでなく雑な伏字を使ったら、雑な伏せ字で応酬された。

 しかし、そんなことをツッコめるほどの余裕はない。だから一言だけ言っておこう。

「大きいね。そりゃゴリラは小さいわけだ」

「小さいゴリラ・・・」

 どうやら本気で困った顔をしている。ゴリラ知らないのか青狸知ってるのに。困り顔も美人だ。違う、そんなことはどうでもいいじゃないか。そもそも人間じゃないの俺。それが問題。日本人に約束された健康で文化的な生活はどうなる。少なくても今のままではいろいろアウトだ。何とかしなくては。

「つかぬことをうかがいますが。次は人間に転生できないのでしょうか?私といたしましてもこの姿で過ごすというのは、・・・」

「いいですよ(そうするように言われてきましたし)。その代わり、特典はなしということで。」

「特典って、ギフトの初期チートスキルですか。それなしで、生きるんですか。」

「そうです。そもそも、最近の異世界転生物は、転生したら産廃みたいなスキルをもらって、仲間ができず、それでも死ぬほど努力して一人で生きていたら気づいたら最強みたいなのじゃないですか。確か職業は三流小説家で異世界転生物も書いてましたよね。なら知っていると思うんですけど。」

 知ってる。痛いほどよく知ってる。そんな感じのストーリーで3本もお話書いてます。最初から最強なんて今はやらないんだよね。

「そうですね、せっかくですし、あなたには『努力』というスキルを差し上げます。これなら前人未到の高みに行けますよ。」

 唖然、言葉が出ない。これが人のやる事なのか。いや、他人を攻めてはいけない。何をしているんだ俺は、こうなるなら、最初から努力なし最強スキルで無双的な話を書いておくべきだった。俺の一生に関わる。できる限り楽に(できれば働かない)、素晴らしい人生を送りたいだけなんだ。目指すべきはスローライフ。努力なんてしたくない。ここは譲れない。こんなところに負けられない戦いがある。

「少々待ちくださいませ。あなたは先程、近時の異世界転生物は、主人公が死ぬほど努力して優れた技工を身につけるのだとおっしゃられました。しかし、その根底にあるのは、作者のその作品の主人公に対する自己投影です。つまり、自分には本来、非常に優れた才能があり、努力すればその才能が開花し、国士無双の逸材になれるのだという愚かな思考です。そのような実在するかよくわからない、否、絶対にない才能があると信じ込んでいるのです。異世界転生物で売れた小説家は少なくありません。しかし、その偉大な先達たちは、本当に才能があったのです。しかし、私はそのような偉人とは異なります。そもそも、私には隠された才能などありませんし、社会からの評価が欲しいという浅はかな願望もありません。そのような私に努力の才能を授けたところで、何もなしえません。今しばし、ご検討頂きたく存じます」

「心配入りません。私はあなたに優れた才能があることを私はよく信じています」

「いえ、その、私はよくわかりました。せめて私に、あと一つスキルを私に才能を下さいませ」ここがターニングポイントに違いない。

「そしたら、努力のスキル発動中、任意で自分のみ周りの世界から隔絶された時間の概念のない精神世界に移動できる能力を授けましょう。多分、世界初の能力ですよ。このような条件付きで精神空間に移動できるのは」

 ちょっと待て。それいらない。

「それでは、良い来世をお過ごし下さい」

「俺の話を聞け〜」

 彼女は、雲に乗って遠ざかって行く。笑顔で手を振る彼女の姿は一生忘れないだろう。

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