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欠陥勇者の一人旅  作者: やみつききゅうり
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2話 『そうです。俺が勇者です』

クレスト城玉座の間―。

最奥にある玉座に腰掛ける国王がにこやかに微笑んでおり、玉座の隣には国王とは打って変わって大臣が険しい顔をして立っていた。そして、国王と向かい合うように赤、青、緑、金、黒、茶と様々な髪色の勇者達が立ち並ぶ。部屋の脇にはずらりと控える王の従者達。関係者と呼ばれた貴族や商人、布屋の主人など様々の職種の者達がこの場で起こる顛末を見届けるため、真剣な面持ちをして立っていた。


「灼熱の勇者フィン、雨霧の勇者ジオ、豊穣の勇者フェルト、日輪の勇者ソル、錬成の勇者クリエー、大地の勇者テール。皆、よくぞ集まってくれたな。ワシは嬉しいぞ。今日は重要な話がいくつもあるのでな。大臣の話をしっかりと聞くように」


「「「はっ!」」」


国王が伸ばした顎髭を撫でながら勇者一人一人の名を呼ぶと、勇者達はそれに応えるように一礼した。挨拶を終えた国王が合図をするように大臣の方を振り向く。大臣が頷き話し始めようとすると、勇者の中からそろそろと手が上がった。皆の視線が左手に杖を持った緑の髪色の少年、豊穣の勇者フェルトのもとに集まる。緊張で杖を持つ左手に力が入ったフェルトは声をうわずらせながら大臣に尋ねた。


「あのっ......大臣さん、まだ月光の勇者の方が来ていないのですが......ご存知ありませんか」


「あっ、確かに一人いないっすね。月光の勇者ってもう見つかってるんすよね?なんで、来てないんすか」


フェルトの頭にぽんと手をおくと、錬金の勇者クリエーがにやけ顔で質問を重ねた。質問を受けた大臣は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ答える。


「申し訳ございません、皆様。しかし、理由をお話しすることはできません」


「うるせぇ!!そんなくだんねえ話聞かされるために俺たちは呼ばれたのか!?」


答えを濁され不快感を示す灼熱の勇者フィンが真紅に染まった髪を逆立てて拳を振りまわす。フィンの剣幕に押され、大臣は少し怯えたように目をしばたくと、肩を震わせて頭を下げて懇願する。


「皆様......あと少し、少しだけお待ちいただけませんか......月光の勇者様は必ずここにお越しになります」


頭に血を上らせたフィンの肩に手を置くと、日輪の勇者ソルが諭すように言う。


「言い過ぎだよ、フィン君。大臣が怯えてる。彼の言葉を信じて待とう。大臣も頭をお上げください」


フィンは舌打ちをしながらソルの手を払うと黙り込んだ。フィンの態度にソルが苦笑いする。彼は少し顔を下げると、何かに気づいたように目を見開く。彼が見つめる先には床に耳を押し当てて寝転ぶ大地の勇者テールの姿があった。


「えっ......何してるの、テール君......」


「何か来る......」


テールがぽつりと一言言うと、会場に沈黙が訪れた。直後、扉の外から、


「おい、待て!侵入者!」


と、守衛の怒鳴り声が聞こえてきた。その声に場内の全員が振り返り、勇者達は武器を構えて臨戦態勢を整えると、扉から聞こえる音に耳を澄ませる。

次の瞬間、バタバタとした足音と男達の叫び声が聞こえてきた。


「おいおいおい!話がちげぇぞ!お前ほんとに呼ばれてたのか!?」


「ああ!招待状だって貰ってるんだって!」


「じゃあ、なんで俺たちは追われてんだああああ!!!」


応接間の扉の外から一際大きい叫び声が聞こえると、扉が壊れるほどの勢いで開いた。開いた扉から2人の男が飛び出すと、勢い余って床に衝突する。飛び出してきたのは、ぶつけた鼻を抑えて床をゴロゴロと転がるヤンスと、それを見てゲラゲラと笑うトトだった。

謎の男たちの登場に会場全体が呆然とし、言葉を失う。


「ひー、腹痛てぇ......何やってんの、ヤンさん」


「いでぇぇぇ、鼻血出てんじゃねぇかぁぁぁ」


倒れた2人を見るやいなや顔面蒼白の大臣が叫びながら、守衛に取り囲まれた男達のもとへ飛んで行く。守衛を下がらせると、大臣の方を振り返ったトトを激しく責め立てた。


「トト様!なぜそのような格好でいらっしゃったのですか!用意したお召し物を着て城へと、あれほど言ったではありませんか!」


会場中が謎の男達の登場に驚き、熊の毛皮を被った異様な男の姿に釘付けになる。


俯き考えるトトが思い出したように苦い顔をする。


「あ、ごめん。忘れてきた......あはははは......」


肩をすぼめて謝ると、苦々しく笑う。それを聞いた大臣は「はぁ!?」と一言叫ぶと、糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。


「どうしたんだ!大丈夫か!」


「あんたのせいだよ!」


大臣はそう叫ぶと、そのまま眠るように気を失った。


「だいじーん!」


倒れた大臣を見て、会場がどよめくとそれを鎮めるように、赤いマントをはためかせ立ち上がった国王が声を上げた。


「皆の者、聞けい!」


国王の鶴の一声に会場が静まり返り、皆が先程とは打って変わって真剣な面持ちの国王の方を振り返った。普段とは異なる国王の表情に事の重大さを感じた人々は息を飲む。

国王は運ばれていく大臣を見て慌てているトトを見据えると、優しい声で言う。


「トトよ。こちらへおいで。そこのお供も一緒に」


「お供......?あっ、俺?」


「お供よ。俺についてこーい。はははっ」


「お供じゃねえよ!って、おい!」


国王に呼ばれ、トトは玉座にいる国王の元に向かって走った。ヤンスもお供と呼ばれたことに怪訝そうな顔をしたもののトトの後を追うように走る。

走ってきたトト達が勇者達の隣に並ぶように立つのを見届けると、国王が言った。


「ここにいる青年トトは紛れもなく月光の勇者だ。」


――え?こいつ勇者だったの?

国王の言葉に当初の目的をすっかり忘れてしまったヤンスは、隣にいるトトを見て唖然とする。ヤンスの視線に気づいたトトは頭を掻いて恥ずかしがった。


「そんなに見つめんなよ、ヤンさん......」


――いや、見つめてるわけじゃねえよ!


トトに物申したいヤンスだったが、国王が喋っている手前、大声を出す訳にはいかないので心の中で叫ぶと、トトから目を逸らした。

驚く人々を見ながら、ひと呼吸おいて国王が続ける。


「こちらに来るまでにゴブリンの討伐依頼を受けさせた。服が汚れているのはそのせいなのだ」


「「「ゴブリン!?」」」


国王の発言に人々は騒然とし、トトへの不安がこぼれる。中には、トトを中傷する者もいた。

再び騒がしくなり始めた会場を見て、国王が声を張り上げる。


「確かに勇者がゴブリンとの戦闘で手傷を負う事など通常ならば有り得ぬ話だ!しかし!トトはただ戦ってきた訳ではない。『魔法を使わずに』倒してきた。どう言うことか分かるな?」


国王の言葉にまたしても驚いた表情をする一同。しかし、雨霧の勇者ジオは眼鏡をくいと上げると、一人冷静に対応する。


「組織だった行動をとるゴブリンの集団を魔法を使わず倒した。身体強化魔法を使わず魔物の攻撃を受ければ、骨の1つや2つ折れていてもおかしくはない。しかし、先程の様子を見る限り、衣服はかなり汚れているが、擦り傷程度で大きく目立つ傷は無い。それほどに剣の実力と強靭な肉体を持っているという事ですね。しかし、重要なのはなぜ魔法を使わずに戦わなければならなかったのかでしょう?」


ジオはサラサラとした青い髪をかき上げ、国王に問う。


「この青年は魔法を使わないのではなく使えないのでは?腰に差した剣は封魔の剣でしょう。何か彼の魔法を封じなければならない理由があるのでしょうか」


「ジオっち、よく見てるっすね!俺なんか熊の毛皮が衝撃的すぎて、上の方しか見てなかったっすよ」


クリエーがジオの気づきに食い気味に感心すると、ジオは当然だと言うようにフッと笑うと再び眼鏡を押し上げた。

ジオに問われた国王が頷き、返答する。


「うむ。その通りだ、ジオ。トトはどういう訳か魔法を1つしか使うことが出来ん。その上、トト以外の人間は使えず、自分の意識に反して常時魔法が発動している状態なのだ。未知の魔法をそのまま放置することは出来ないのでな......封魔の剣によって魔法の発動を抑えていたという訳だ。しかし、仮にも勇者が魔法を使えんと分かれば民に不安を与えてしまうのでな。魔法を使えなくとも民を守ることができる力を持っていると......トトの強さを証明する必要があったのだ」


国王の回答を聞いて、ざわつく関係者達を押しのけて、男が手を叩きながら前に出る。

トトが何かを考えるように俯くヤンスに耳打ちする。


「あいつ、誰だ?にやにやしてて何か気味悪いやつだな」


「えっ?ああ、あいつは名家であるマニエ家の長男ピソン・クォン・マニエだ。親の威光を振りかざしてやりたい放題してるって噂だぜ?裏の世界にも流通しているとも噂されてる。俺は関わり合いになりたくないね」


「へー......ヤンさん詳しいんだな......」


棒読みで褒めるトトにヤンさんが呆れたようにため息を吐いた。


――こいつ絶対分かってねえだろ......

手を叩くピソンはトトの方に目をやると、にこやかに話し始めた。


「いやはや、ユニークスキルをお持ちとはさすが勇者様ですね。そして、ゴブリンの集団を1人で壊滅させるほどの剣の腕もお持ちであると......」


ピソンに褒められて、トトは誇らしげに胸を張る。


「いやぁ、それほどでも......あるけどな!」


完全に調子に乗ったトトを見て皆が苦笑いをする中、ピソンはニヤリと笑うと続けて言う。


「しかし、本当にあなたは我々、民を守ることが出来るのですかな?唯一使うことの出来る魔法は暴走状態で使い物にならず、1人とはいえゴブリンなぞ下級の魔物相手にかなりの手傷を負われた様子......かなり苦戦されたように見受けられます。もし、災害級の魔物が街を襲った時、魔法の使えないあなたはどのように戦うのですか?剣だけで我々の何十倍の大きさの魔物に挑まれるおつもりですか?」


先程とは打って変わって真逆のことを言い出したピソンがそう言い放った時、彼の顔の隣を火球が掠めた。「ひっ......」叫び声を上げながら尻餅をついたピソンが火球の放たれた方向を振り返ると、二発目を放つ準備をしたフィンが立っていた。


「てめえ......言いたい事は言えたか?要はこいつが強けりゃ勇者って認めるんだな?おい、クマ!表出ろや。そんで、俺と戦え」


「分かった。やろう」


フィンの言葉を受け、トトは真剣な眼差しで見つめた拳を強く握ると、低い声でフィンの誘いを承諾した。


「なっ、何を勝手なことを......」


突然、トトに勝負を仕掛けるフィンに慌てるピソンの言葉を遮るように国王が叫ぶ。


「よい!灼熱の勇者フィン。月光の勇者トト。二人の決闘をここに認める。皆の者、庭園へと移動せよ。お前たち、早急に準備を」


「はっ!」


従者達が準備のために慌ただしく動き始める。突然決まった勇者同士の決闘に困惑しつつも、皆、庭園へと歩き始める。

トトの後ろを歩くヤンスが、心配したように小さな声で呼び止める。


「トト......大丈夫なのか?相手は勇者だぞ。魔法も上手く使えないんだろ......?なんか嫌な予感がすんだよな」


「ああ、心配すんなって!俺だって勇者だ!お供は心配しないで俺を信じて見ててくれ!」


「だから、お供じゃねえよ!!」


トトは冗談を言って笑い飛ばすと、出口の方へと歩き出した。立ち止まったままのヤンスはそんなトトの後ろ姿を見て一抹の不安を覚えるのだった。

こんにちは。やみつききゅうりです。

投稿が大幅に遅れてしまい、申し訳ございませんでした......

3日で1話仕上げるのは今の僕の実力では難しかったようです......

無能な僕をどうかお許しください。

さて、今回の2話ですが、登場人物がかなり多く、長めの内容となってしまいました。

というわけで今回のお話のおさらいです。

主人公のトト君ですが、なんと七曜の勇者の1人、月光の勇者でした!彼が現在使用できる魔法は1つ。しかし、その魔法も暴走中で常時発動状態のため、封魔の剣で魔法の使用を制限しています。体がボロボロになっていたのはゴブリンの討伐をしてきたからだったんですね。

そんな彼に勝負を仕掛けたのは、貴族の長男ピソンに火球を放ったりとかなり荒っぽい灼熱の勇者フィン。何かと型破りな彼ですが、果たしてトトはフィンに勝つことができるのでしょうか?

そして、真っ先にトトが居ないことに気づいた豊穣の勇者フェルト。語尾の「っす」が特徴的な錬金の勇者クリエーに、フィンのお目付け役の日輪の勇者ソルと、メガネがトレードマークの雨霧の勇者ジオ。

今回は出番の少なかった彼らですが、今後活躍の場を作っていけたらなと考えております!

そして、ヤンさんは結局目的を果たせぬまま、国王様にトトのお供と勘違いされてしまいました......

そんな彼はトトとフィンの決闘に不安を感じ、あまり肯定的では無い様子......ヤンさんの不安は現実となってしまうのか、杞憂で終わるのか、果たして結果はいかに......

今回は余裕を持って3話の投稿日を1週間後の8月14日の21時投稿とさせていただきます。

それでは、次は3話でお会いしましょう!またね!

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