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衝撃の提案

「……?」


「あっ、言い忘れましたが新しく学級委員になった和光咲哉です、よろしく」

 クラスの男子達は「あいつがなったのか~」などとへらへら笑っている。

 まあ……そういうことも……

 

「って、なんでだよ!?」

 当夜は思わず立ち上がってそう言った。

 後ろの席の割に声が良く通る。

 

「どうした、当夜、いつもいつも落ち着きがないな」

 いつの間に落ち着きのないキャラにされたのだろう……大体小町のせいだと思いつつ、当夜は理由を追及する。

 

「いや、なんで咲哉が唐突に学級委員になったんだよ?」

 今は一応授業中ではあるのだが、そんなことはそっちのけで教室の後ろ側と前側とで尋問が繰り広げられている。


「ほら、成瀬さんだけだと大変かなと思って。……それが何か?」

 ……そう言われてしまうともう突っ込めない。確かにそれは理にかなっている。むしろなんでそんなことに噛み付いたのか自分に驚きでさえある。

 

 それでも少し引っかかるので隣の小町の方を当夜は見る。

 小町は綺麗な営業スマイルを浮かべていた。

 

「……元学級委員さん、これはどういうことで?」

「いや、私もう名目上だけの学級委員だし、咲哉がやりたいならいいかなって」

「あ、うん」

 ……これも確かにおかしな話ではない。納得せざるを得なかった。

 

 ――そういえば、「咲哉」って呼ぶんだな。

 

 それはそれとして。

「これで良かったんだろうか……?」

 今更ながら無責任にも学級委員をやめたりして良かったのだろうかと当夜は思い始める。……そもそもどうしてなろうと思ったんだっけ……まあ、多分小町のせいだ。

 

「……ごめんな、咲哉」

 そう言い残して当夜は自分の席についた。

 

 そうしてクラスには気まずい空気が立ち込めることに……

 

 ならなかった。

 

「それでは改めて話をしますが、学園祭では皆さんご存知の通り、各クラスが各々出し物をすることができます。各教室の他にも講堂なども使用可となっています。例年各教室は大抵希望した団体全てに行き渡りますが、講堂の場合は申請が競合することが多いので、注意が必要です」


「とりあえず、うちのクラスとしてやりたいことがあれば意見を出していただけますか?」


 丁寧な口調で成瀬が話した。――これを聞くと、やっぱり成瀬が学級委員にふさわしい気がする。

 

 引き締まった言葉に当夜が平常心の在り処を見出していると、横でバサッと音がした。

 

 ふと振り向くと、小町が勢い良く手を上げている。……当夜はこの瞬間、全てを察した。

 

「あ、はい、小町さんどうぞ」

 後ろの方で自己主張をする小町に気が付くまでややラグを挟んでから、成瀬が指名した。

 

 そして勢い良く小町は立ち上がる。その気迫に思わず当夜はのけぞってしまった。

 ……ああ、さようなら、モラルやら自制心やら常識。

 

「メイド喫茶が良いと思います!!」

 

「お、おお~」

 ややあって、クラスの男子たちが歓声を上げる。それでも動揺が隠しきれていないのが見て取れた。女子は無言である。

 

 当夜は瞬時に小町に体を近づけてそっと一言。

「いや、流石にそれこの場で言っちゃうのはまずくない?絶対顰蹙買うよ?警告したからね?」


 ……今でこそ優等生ながら明るく人付き合いの良いキャラで通っている小町ではあるが、その地位が脅かされることを想像すると当夜は気が気ではない。

 

「大丈夫、私に任せなさい!!」

 自信満々に小町はそう返した。

 まるで、「あなたの希望を通してあげます」と言わんばかりであった。

 

「ああ~、いいんじゃね?」

 そう言いながら咲哉は平然と板書する。意外と整然とした字で、「メイド喫茶」と大胆にも書き付けた。

 

「……まさか咲哉……」


「小町の奇想天外な発想にこの場でただ一人順応している……?」

 当夜は教室の隅で座って見守っている押上先生の方を見た。先生はいつも通りの笑顔。だが表情に動きがないことが却って不気味で、内心どう思っているのだろうと思いやられる。

 

 小町はドヤ顔のまま自分の席に着席する。……そろそろ本当にクラスメイトの間のイメージも変わってくるんじゃないかと思ってしまう。というかなんで優等生キャラは失われていないんだ。確かに成績は優秀かもしれないけど。

 

 思わず小町の方を見つめてしまう当夜に、小町はサムズアップで応答する。――この感情は悔しい、というのに近い気がする。

 

「そ、それじゃあ、他に何か案はある?」

 強張った表情をした成瀬がそう聞いた。しかしそこに今までのような余裕は見られない。

 

 ……今こそお得意の風紀のお話を持ち出すべきだろ、と当夜は思ったが、その動揺ぶりには当夜も同情せざるを得なかった。

 

 メイド喫茶を提案する優等生の女子生徒など通常想定されうる事態の範疇ではない。

 

 当然のごとく、誰も手を挙げなかった。

 

 あまりに不憫に思ったのか、それとも本当に本心から提案したかったのか、前の方の席の生徒がヒソヒソと成瀬に提案して二、三の案が埋まった。調理系の出店の案だった。

 

「他に、何かありますか……?」

 やはり成瀬は弱々しい。――いつもの自分に言いがかりをつけてくる時の威勢はどこへやら……いや、あれは言いがかりではないのかもしれない。

 

 ざわざわ、ざわざわ。

 

 特に聞き取ることの出来ない話し声がポツポツと湧く。

 ……多分生徒達はメイド喫茶を実現することかメイド喫茶を阻止することで頭がいっぱいであるのだろう。

 

「あ、それじゃ、俺からの提案でー」

 ただ一人この場で平然としている(小町を除く)咲哉がそう言って黒板に何か書きつける。仕方なく当夜はそれが何なのかを後ろの席から頑張って伺った。

 

「演劇」


 ……てっきりメイド喫茶への強烈なアンチテーゼでも書きつけるかと思っていた当夜には拍子抜けに思えたが、なんだかんだでまともな提案だった。

 

「感動した」

「とてもまともな提案じゃないか……」

 だんだんとそのまともさを意識するに至って当夜は感嘆の声を漏らす。


「私の案がまともじゃないとでもいうの?」

 本当に唐突に横から口を挟まれる。ふと当夜が右横を振り向くとすぐ近くまで顔が来ていて身じろぎした。本気なのだろう……

 

「逆にどうしてまともだと思ったんだよ」

「女子高生って、人生で一番輝いている瞬間だと思わない?」

「まあ……いや、そういう問題じゃないだろ」

「第一男子はどうするんだよ、女子にだけその罰ゲームをやらせるつもりか?」


「当夜って意外と気が利く男の子だったんだね。プラス一ポイント」

 なんだその「男の子」って呼び方は、なんだそのポイント制は、と思ったが、スルーした。

 

「まあ当夜がどうしても罰ゲームだと言うのであれば、平等の観点から男子にもやってもらうこともやぶさかではない」

「その選択肢だけは許さない、絶対にだ」


「あのー、二人とも盛り上がってる所悪いんですけど……」

「うん?」

 万智が後ろから声を掛けてきた。

「私は……まあ、やっぱりアリなのかなぁと思うけど……」


「うんうん、万智さんもやっぱりそういうの似合うと思うよ~」

 思わず当夜は細目で小町を見つめてしまった。

「い、いや、私が着たいというわけじゃなく……でも、そういうの着る機会も他にないと思うし……」


「機会ねぇ……というかそもそも衣装ってどうやって調達するの?わざわざ人数分買うとなるとそれだけで出費だと思うけど」

「家庭部」

 わずか三文字で小町は会話を成立させようとした。

 

「は、はい?」

「家庭部がそういう服作りたがってたから、利害が一致しました」

「……ついこの間まで友達少なかっただろうに、良くそんなコミュニティができたな」

 ……ということは女子の中にも造反者がいそうである。

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