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どう考えてもそういう意味です

「う、うん」

 当夜は「手紙」について言及すべきかと一瞬思ったが、それを言うことは余りに明け透け過ぎる気がして、単純な返事に終始した。

 

「そ、それで……うん、話をしないとね」

「そ、そうだね」

 「話」の意味する所は果たしてこの二人の間で一致しているのだろうか……?

 

「な、なんて言えば良いんだろう……」

「う、うん」

 当夜は受け身に終始する。……それもそのはずだ。「伝えたいことがあります」と言われているわけで。

 

 万智にしてみれば、当夜が積極的に話を持ち出してこないことは、不満ではある。気が付いたら自分が発言の責任を負わされているようだ。

 ――まるで私が躍起になってるみたい……最初に言い出したのは相手の方のはずなのに……

 

「え、ええと」

 でもそんな責任を負ってみて、万智はどう話を始めれば良いか困る。そもそも、この話に明確な着地点があるわけでもないだろう。

 

「その……なんというか……こ、これからも仲良くしよ?」

「へっ?」

 かわいらしい姿で、当夜を覗き込むように体を横に傾けながら万智は言った。恥ずかしさを誤魔化そうと行動して、却って恥ずかしい思いをする。

 

(い、いや、これは……確かにかわいい、かわいいけれども……どう解釈すれば……?)


「えっと……それって……?」

「へっ?」

 今度は反対の立場で、万智は間抜けな反応を示す。

 

「そ、それって、つまりそういう意味だと……?」

 当夜はとてつもなく恥ずかしくなりながら聞く。それが勘違いだともうそれは絶望的に恥ずかしいだろう。――いや、でも今はあの手紙という確信があり――

「そ、そういう意味……?」


 さらに掘り下げられる。明け透けに言わない段階でもう顔から火を吹くくらいに恥ずかしいというのに、それを詳細に説明することを求められて、当夜は正気を保っていられそうもない。

 少し間が空く。――でもここは、男として――

 

「えっ、えええっ!?」

 万智は「そういう意味」という言葉に意外と敏感だったようだ。

 

「い、いや、そんな意味で言ったわけじゃ……と、というか、話があるのはそっちの方じゃなかったかな!!」

 万智は半分怒ったような声でそう言った。その後で、自分の声がやけに上ずっていたことに気が付き、余計に恥ずかしさが増す。

 ……別に怒ったわけじゃない――照れ隠しなのだ。

 

「えっと……それはどういう意味で?」

 当夜は恐る恐る尋ねる。「そういう意味」じゃない、つまり愛の告白でないというなら果たして何なのだろう。

「だっ、だから……どういう意味と聞かれましても……」

 

「普通に……仲良くしましょう……ということで」

 未だ「仲良くする」の具体的な意味合いは判然としないが、とりあえずそれは置いておこう。


「それで、当夜から話があるっていうのは……?」

「えっ?」

「えっ?」

 戸惑いに戸惑いが上塗りされた。その重なりが気まずく、しばしの間二人は沈黙する。

 

「……えっと、状況を整理しようか。まず、私は小町さんに『当夜から話がある』と言われてここに――」

「オーケーオーケー、全て分かったよ」

 話の途中で当夜は制する。話を整理されなくとも分かった。

 これは全て小町の仕業である。

 

「ああ、思わず遮っちゃった、ごめんね」

 きょとんとする万智の様子に気がついて当夜が声を掛ける。

「えっ、あっ、うん」

 はっと気がついたように万智が答えた。

 

 当夜は懐から例の物を取り出す。

「この中に一枚の手紙があるんだ」

「う、うん?」


「そして僕はそれに召されてここに来た」

「それって……ラブレター……だよね?」

「それも送り主不明の、な」

 あたかも推理でもしているかのような口調で当夜は話すが、ここにあっては事実はもう確定的に明らかである。

 

「ちょっと中身を見せてもらえる……?」

「うん」

 そう答えて当夜は中の便箋を取り出す。

 


「こんな形でしか伝えられなくてごめんなさい。でもどうしても当夜くんに伝えたいことがあって、この手紙を書きました。もし時間があったらで構わないので昼休みに校舎裏に来てください。――待っています」



 当夜も万智の横でもう一度この文面を見た。

「……なんだかドキドキするね、これ」

 万智が思わず素直な感想を漏らす。


「うん、否定はしない」

 クールに装いつつも当夜はそれを見つけた時、そしてその中身を見た時の高揚を隠せなかった。

 

「で、これを書いたのがおそらく小町さんだと」

「……まあ、十中八九そういうことになるんじゃないかなぁ……」

 穏やかに当夜は確信を表明した。

 

「……これはちょっとお話が必要そうね」

「同感だ」

 万智は早速校舎裏から去ろうとしたが、当夜がそれを呼び止める。

 

「ちょっ、待ってよ」

「どうしたの?」

「その……万智は小町さんになんて言われてこの場所に来たの?」

「……それ、言わなきゃ駄目かな?」

 こっそりいたずらをした後のような口ぶりで万智は言った。

 

「まあ、……なんというか、不公平じゃないですか」

「といいますと……?」


 二人の間にまたも沈黙が広がったが、それは不動を意味しなかった。万智の顔は段々とにやけていき、当夜の目線は段々と不安定になる。

 

「……つまり、うっかりこの手紙に釣られたことを自分だけ開示したのが恥ずかしいと」

 明け透けに、しかし的確に万智は指摘した。

「佐用でございます」

 なぜか当夜はかしこまった口調になる。

 

「わ、私は朝に、当夜が席を立った時に小町さんに話かけられて……その……こ、告白されるんのかなぁ~と」

「……えっと……多分席を立ったのは例の手紙を人目に付かない所で読むためだったかと……」

 戸惑いと恥じらいの内に当夜はそう言及する。

 

「……小町さんって、策士ね」

「うん、間違いない」


 そしてまた二人は沈黙した。昼休みの喧騒がどこか遠くで巻き起こっている。この校舎裏はそんな喧騒を内包している校舎と喧騒を横目に佇んでいる緑に囲まれていた。

 

「そ、それじゃあ、万智も告白されるものだと……?」

「……恥ずかしながら、はい」

 相槌の前に不自然な前置きを付ける。前置きの後に不自然な相槌を付けたといっても良いかもしれない。

 

「参考までに、小町様は万智になんとお伝えになって……?」

 畏敬の念からか、当夜は思わず小町に敬称を使っていた。

「え?それは別に普通の――あっ」

「?」


 万智が一人で頬を赤らめてもじもじとする。

 その事実を意識したからだった。

(小町様、別に告白するとは一言も言ってないよね……!?)


「万智さんに会いたい人がいる」

「実は当夜なんだけど……」

 それだけ。

 そしてその事実を当夜に話したとしたら……?

 

 ――私は勝手に告白だと早とちりした女になってしまう……!

 

 ――いや待て、当夜だってこの場を告白の舞台だと勝手に勘違いしてきたわけで、あの手紙には好きです付き合ってください味噌汁作ってくださいの類は一切書かれていないわけで――そう考えればおあいこ……?

 ――いや駄目だ、いくら明言されてないからってあれがラブレターなのは暗黙の了解だ。実際には当夜は何も恥ずかしいことはしていない。

 

 ――それに対して私はどうだ……?あれが告白とは限らない。それは確かなことだ。それを告白と思い込んだとするなら――それは確かな恥だ。おまけに小町さんは「そんなに深刻じゃない」みたいなことすら言っていた気がする。

 そんな思い込みに走った理由。――それはもしかして私の――

 

「ふっ、普通の――」

 万智は全力で俯きながら間を繋いだ。

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