9. 講義2
魔獣駆除や自然災害への対応、それはかなりの重責だし、実務的にも高負荷よね。能力者が力を使用したときの消耗具合や後遺症を知らないのでどれほど大変なのかは分からないけど。
ちなみに私はオーラを見るだけだからかそんなに疲れない。レベルアップしたらもっとエネルギーの消費が激しい技なんかを使えるようになるのかしら。
「説明の途中だけど、いくつか気になることを質問しても良い?」
「何なりと」
「まず、動物が魔獣化するかどうかはいつ分かるの?」
「動物たちは徐々に兆候をあらわします。平均的には完全に魔獣になるひと月前くらいから、周辺の田畑や民家を荒らし始めます。飼育されている動物も野生のものも同様の兆候です。そこで、発見者は役所かウォールデン家に通報し、通報を受けた機関が対象動物を隔離します。いよいよ魔が満ちてきたとなったら、処分します。野生の場合で発見が遅れて、すでに魔獣化したものは先ほど申したとおり、能力者が対応いたします」
なるほど。
「能力者が力を発動した後の消耗度合いは?」
「使える力の大小にもよりますが、やはり大きな技を使用した者はかなりの疲労を感じるようです」
「翌日以降はすぐに回復するの?」
「翌日以降、とおっしゃいますと…?」
「ええと、力を使用しても一晩休めば次の日にはすぐにまた力が使えるのかしら?」
この質問で、ハワードが少し言葉に詰まった。ハワードは感情を表に出さない人なので、これはかなり面食らったな。オーラも落ち着いた緑色だったのに灰色がところどころ混ざり始めてしまったわ…。変な質問だったかしら?
「エミリ様、能力というのは、基本的に、必要なときに備えておくものです。力を使用した次の日にまた力を使用しなければならない場面はこれまでございませんでした。自然災害や魔獣駆除が二日連続で起こったことは、幸いなことにありませんので、翌日になるとどれほど回復しているのかは不明です。ただ、次の機会がきたときに、力が使えないというものはおりませんでしたので、少なくともひと月経てば、回復するものと思われます」
うーん。なるほど。
「必要時以外に能力を使用することは禁止されているのかしら?」
「いえ…禁止はされていませんが…。これまで必要時以外に使おうとする者もそういったことを考える者もおりませんでした」
わぉ。ハワードが、多分若干引いてる。オーラが灰色から白になってきた…。未知のものに出会って戸惑ってるって感じね?
この世界の常識と私の考え方は大分違うのね。
「能力というのは、体力と同じように、高齢になると衰えるものなの?」
「いいえ、そうではありません。高齢になるにつれて、使い方のコツが掴めるのか、より老練され、かなりの使い手になる者もおります。才能に左右されるようで、若いときと同様の能力にとどまっている者もおりますし、技の精度が増す者もおります」
「よく分かったわ。では、最後の質問なんだけど。これまでに、火水風土以外の能力を持っていた者はいたかしら?」
「は……いえ、そういった報告はございません」
こいつ何言うてんねんって心境なんでしょうね…。ハワード、驚きと呆れを隠せてないじゃない。オーラを見るまでもなく感情が漏れ出てるわよ。
他の人にこんな質問したら大騒ぎになる感じ? あ、だからこそ、よその家に行かせる前に急いで講義してるのよね。ごめんごめん。
「能力についての説明、ありがとう。だいたい理解できたわ。あと、私の方からお母様に報告があります。それと、ここにいる皆に能力についての私の仮説も聞いてもらいたいの」
母は、私が変なことを言い出すことに何らかの覚悟でもあるのか、動じずに微笑んだ。
「報告って何かしら?」
「私、多分、能力者なんです」
「……え?」
さすがに覚悟を決めた母でも、オーラが真っ白になりました。