表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/41

8. 講義

さて。

明日はいよいよシェラ様をご訪問する日。

珍しく母からサロンに来るようにと指示があった。

応接間に呼ばれたということは、マナーの手解きがあるのかな?


「失礼いたします」


応接間の扉の前で声をかける。


「どうぞ、お入りなさい」


母の返答を聞いて扉を押し開ける。

一礼してサロンに入ると、母とハワードとエマが並んでいた。

え、厳しい指導?


「エミリ、明日は初めて他家を訪問するわね。それで、今後こういう機会も増えるかもしれないし、簡単に作法を教えておきます。付け焼き刃をしようというわけじゃないからね、徐々に覚えて頂戴ね。ひとまず明日はエマにも付いて行ってもらうからそんなに構えなくても良いわよ」


「はい、分かりました。よろしくお願いします」


あら? 何か母の喋り方が変わった? えらく言葉数が多いし。

…オーラは爽やかな薄桃色だわ。調子はとても良いみたいね。


「じゃあ、まずは基本的な私たちの立場から説明するわね。一応辺境伯という爵位があるけど、現在貴族や王族のイメージは変わりつつあるわ。今の各家の勢力がそのまま爵位に反映されているわけではなくて、血筋を表すだけのものになってきているの。平民でも経済力のある家が台頭してきたりもしているしね。」


へー! 知らなかった! 凄く興味深いわ。江戸時代末期の日本みたい。王政末期なのかしらね。

母が、よろしい? というように私の顔を見る。

大丈夫です! ワクワクしながら聞いているとも。

母は満足げに頷いてから続けた。


「ただ、我が家は辺境の伯爵というちょっと特殊な立場にあるの。都市の伯爵とは違って、この地域一帯をまとめる役割があるから、今でも伯爵家としての仕事や役目があるわ。この地域は恵まれた土地なので税収が多いし、ウォールデン家といえばそれなりに知られた家なのよ」


ほほう。日本でいうと有力な地方都市の市長ってとこかな?

それなら確かにこの間のシェラ様の反応も納得だわ。

じゃあ他の伯爵家は有名無実な感じ、と言ったら言い過ぎなのかしら?


「ただし」


と、ハワードが続ける。

おぉ。母と選手交代なんですね。


「経済力や政治的影響力とは別に、血筋というのも侮れないファクターでして」


アレかな? なんか皆さんの間で私を大人として扱うことで決着したのかな?

使われてる言葉が小難しくて、どうも幼児向けじゃないんだけど。いや内容は真面目に聞いていますよ。


「その…申し上げにくいのですが、能力者の割合は有意に血筋に左右されております。貴族の家からは能力者が多く輩出されておりますので、血筋というのもやはり一部ではまだ重要視されております」


あ、私まだ特殊系だって報告してないや。

だから家族的には私は能力無しってことになってて、すっごい言いづらそうなのね。

まぁ、特殊系のことについてはひと通り話を聞き終えてから伝えよう。混乱させるかも知れないし。


ええと? 血筋が一部では重要視されている、つまり保守派か。論理的に重要視する根拠があるから、盲目的な過激派ではなくて穏健派なのかしら? 何にせよ、血筋を重視するということは結局は純血至上主義なんだろうし、面倒くさいことには変わりなさそう。

能力の話を出しても平気そうな私を見て、タブーでないと見なされたのか、ハワードが落ち着いた様子で続ける。


「ですので、家としては弱体化したり政治的発言権が失われたりしていても、強い能力者が生まれる家系はやはり無視できないのです。勿論彼らも能力者としての責務を果たしますので、民からの人気もあり、民への影響力は小さくありません。そういう意味では、由緒ある貴族をないがしろにしては領地経営が難しいと言えるでしょう」


ノブレスオブリージェ、素晴らしい。貴族と平民が良い関係を築けているようで何より。

ところで、能力者としての責務とは?


「能力者は自然災害や魔獣の厄災が発生したら速やかに対応します。魔獣駆除には火、火災には水、というように適材適所で仕事に当たってもらいます。これらの異常事態はわが領地では、中規模以上のものがおしなべて年に10回ほど発生します。この時には不眠不休で事態を収めてもらいますので、普段は力の温存という意味もあり一般人の四半分以下の負荷の仕事量に調整されています」


なるほど、非常に公務員的な役割の方々なのね。力の温存…という辺りは追々知っていくとして、概要は理解しました。

一つだけどうしても今知りたいのは魔獣についてですよね、元日本人としては。


「魔獣は、魔のエネルギーを溜め込んでしまった動物たちのことです。このエネルギーの発生源については研究途上ですが、突如動物が魔獣化するのです。大きさは元の五倍ほどになることもあり、何より魔のエネルギーを使用してこちらに攻撃してくるのが厄介なのです。一般人では百人集まったところで駆除することはできません。この魔獣発生が、多いときには年に3件発生することもあります」


なかなか困ったことね、それは。元の大きさの五倍ってだけでも相当やばい代物だもんね。もし象なみの動物がこの世界にもいるのなら、かなりの脅威だわ。

ちなみに、鷲は見たことがある。もし鷲が魔獣化したら翼を広げた全長が10メートルを超えるわけね。めちゃくちゃ怖いわね。牛だと体重700キロぐらいだから、3500キロ…想像もつかない恐ろしさだわ。確かに一般人が束になっても死者が増えるだけね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ