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7. 母

ただいま。

無事家に戻りました。


いやー、街歩き、楽しめたわ。

やっぱり街全体が博物館みたいで、見所満載だった。


あと、オフ機能は、なんとか使いこなせるようになったわ。最初は難しくて、時速1キロくらいのスピードでしか歩けなかったけどね。

帰る頃にはスタスタ歩けるレベルでコントロールできるようになったの! 能力を順調に身につけられて一安心。


それはそうと、帰ってからエマに「シェラ様、偶然だったわね。あ、耳打ちありがとうね」と言ったら。

「恐れ入ります。しかし、まさか、お呼ばれされることになられるとは…。執事のハワードに伝えて参ります」って言われちゃって。

え? あの流れって一般的な感じじゃないの?

こちらの世界でのコミュニケーションの基本が全く分からないわ。まずいわね。



ーーーーーーーー



 ジェーン・ウォールデンは物思い顔でガーデンチェアにかけていた。エミリの母であり、ウォールデン家の主人である。三人の子の母となってもなお若々しく、清楚さを残している。

 傍らのガラステーブルには、ティーセットが供されている。静かに長い溜め息をつきながら、ソーサーごと手に取り、カップに口を付けた。少し冷めてしまったが、いつも通りの香り高い茶だ。


 ジェーンの侍女のアンが膝掛けを持ってきて声をかけた。


「奥様、少し涼しくなってまいりましたので…」


「ああ、ありがとう」


 ジェーンは薄手のブランケットを受け取ると、柔らかく膝にかけた。

 ジェーンの様子を気遣わしげに見ていたアンは、主人の美しい顔にそれほど悲壮感がないのを見て取り、内心安堵した。アンの心配を気取ったのか、ジェーンが困ったように微笑んだ。


「落ち込んでいるわけじゃないの。ちょっと、考えさせられているの…」


「考えさせられる、とは…」


「エミリのこと」


 悩みの種が三女のエミリと聞いて、アンは納得できるような、しかし今さらのような気がした。エミリが変わった感性の子であることは最早この屋敷の常識であるし、彼女が能力者でなかったことについては長女と次女が能力者であるため母としてはそれほど落ち込むことでもない。その長女と次女は王立学校の学生となっていて、ウォールデン家の王都屋敷から通学している。


「エミリと話していると子どもを相手にしているとは思えなくて、上の2人の子に比べて少しあの子を難しく感じてしまって…無意識に遠ざけてしまっていたの。もちろん可愛い娘には違いないから、大事にしているつもりだったんだけど。あまりそれを本人に伝えられていなかったと思うの」


 ジェーンは紅茶を一口飲んで、また続けた。


「この間の式典で、あの子、能力者でなかったことにもの凄く落ち込んだでしょう? それで、少し元気になってきていたときに良かったわねって声をかけたら、久々に嬉しそうに笑ってくれてね。それを見たら、胸が痛くなったわ。あの子が物心ついてから今まで、心配したり応援したりというような親の愛情を感じさせることをあまりしてこなかったことに気がついたの」


「奥様…」


「だからね、これからはエミリとの接し方を改めなくちゃね。もともと子どもらしくない子なんだから、子どもと喋るつもりじゃなくて、年頃の娘を相手にしているつもりで自然に喋ってみるわ。私がエミリを大事に思っていること、大切な娘だってことが伝わるように」


 ジェーンの顔から憂いが晴れた。

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