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40. 謁見

 王の執務室に召されたマクセル・ウォールデンは、廊下を足早に歩いていた。こう何度も呼びつけられては、有力貴族から睨まれるのも仕方ないというものだ。かと言って王の呼び出しに応じなければそれも拙い。


「失礼いたします」


 マクセルは入室するとすぐに後ろ手で扉を閉めた。そして、スタスタと音がしそうなほどの一層の早足で王の目前に進み出た。執務用のテーブルから顔を上げた王は言った。


「来たか」


 マクセルは青筋が浮かびそうになるのをこらえ、眉間を揉みほぐした。


「呼ばれれば来ますよ」


 つっけんどんである。


「なんだ。機嫌が悪いな」


「二日に一回のペースで呼ぶのはやめてくださいって一昨日言いましたよね?」


「これでも我慢しているんだぞ」


 王は片眉を上げた。切れ長の目に、背中までのばされた艶のある黒髪、マクセルに勝るとも劣らない体躯。齢は四十を越えているが、能力者であるため十は若く見える。王は美丈夫の見本とも言える容姿である。

 マクセルは遠慮なく、むしろこれ見よがしに溜め息を吐いて言った。


「今回は何のご用件ですか?」


「お前の顔を見たかっただけだ。…というのは冗談だが」


 マクセルは繰り出しかけた右の拳を強く握りこんで抑えた。自制心がまだ機能していて良かった。


「まあ冗談でもないんだが、今日はもっと重大な話があってな」


「重大な?」


「ああ。分かっていると思うが、最近報告のあった特殊能力のことについてだ」


 ついに来たか。この話を掘り下げない方が不自然である。ウォールデンの家名にかけて、全て隠さず説明する所存だ。


「何なりと」


「真偽は定かか?」


「現在検証中です」


「お前の直感では?」


「真かと」


「よろしい。検証後の計画も含めて再度報告するように」


「御意」


 王は満足そうに微笑んだ。もしもこの部屋にマクセル以外の者がいたなら、卒倒するほど歓喜したことだろう。美しいご尊顔が微笑まれた大変貴重な瞬間である。

 残念ながらマクセルは嫌な予感がした。どうか予感が当たりませんように、と悪足掻きに祈る。


「やはりデヴォンスは優秀だな」


「恐れ多い」


「いや、本当だ。これほど優秀なお前がいなくても何の問題もなく治められている。どころか、今回の大発見。これは歴史が変わるぞ。パラダイムシフトだ。それも史上最大規模の」


 特殊能力者の発見および現状で判明している能力については真実包み隠さず報告している。が、マクセルは一つ意図して報告していないことがあった。エミリのことである。能力者であることは外せない事項であるため知らせているが、エミリの類い希な聡明さにはふれていなかった。


「何の問題もなくと仰いますが、私が王都勤めとなった際に、長期化を想定して、執務を整理して全て事務方で回せるように調整したんですよ」


「ああ、もちろんそれは分かっている。お前を五年もとどまらせて悪いとも思う」


「本当ですか?」


「お前に嘘は言わない。そろそろ一度戻さねばと思っている」


 これは朗報だ。とうとう戻れるのか。先ほど嫌な予感がしたのは杞憂だったのか。一度、という不穏な単語が聞こえたが、これまでの領主たちも二度王都勤めとなることはあった。たとえ二度目の王都勤めがあったとしても前例があるだけマシだ。


「それは有り難いお言葉」


「嬉しそうな顔をして。私は名残惜しく思っているというのにひどいやつだ」


 いや、ひどくない。こちらは幼い娘とほとんど会えずに過ごしたのだ。どっちがひどいのかは明白だ。


「ところで、これほどの緊急事態を、お前なくして乗り切れそうだと言うのは驚きだ。まさか事務がそんな采配を振るえるものか? お前の奥方…、それとも特殊能力者である末の娘…?」


 王の鋭さには舌を巻く。流石は広大な王国を治める人だ。変に気に入られて鬱陶しく感じているが、王の実力は本物だ。ちなみに、王は自らも能力者である。ただし、王家は代々長子相続であるため、守備活動は災害の復興のみとし、広大な王国の執政を常としている。


「妻が老執事とともに苦心したと聞いています。手紙の遣り取りはかなり密に行っていたので、私の意向も汲んでくれています」


「ふむ、なるほど。まあ、いずれにしても来年は領地に戻ることを許そう。この件とは関係のないことだが、その末の娘、興味深いな」


「まだほんの子どもです。自由奔放に育った子なので、御前に出すにはなかなか」


「そう隠し立てされるとますます気になるものだ。我が王家の言い伝えは知っているか? 歴代の王はウォールデン家の者に魅了されると言われている。人柄に惹かれるのだろうな。私にもよく分かる。お前たちのその飾らない人柄は砂漠の中のオアシスのようなものなのだ」


 なんということだ。家訓の清廉潔白が裏目に出ている。マクセルは内心で頭を抱えた。


「マクセル。その子を、王立学校に通わせてみないか。ウォールデン家の血筋であることを除いても、中央に欲しい人材だ」


「私が領地に戻る交換条件にはなりませんよ。どこの学校に入れるかは本人の希望に沿います」


「もちろん交換条件になどしない。私の気持ちを述べたまでだ」


「王立学校は候補の一つです。最後は本人が決めます」


 とりつくしまのないマクセルに、王は残念そうに嘆息した。


「わかったわかった、怒るな。私は王立学校に入ってくれることを期待しているとだけ言っておく。あの環境はきっと気に入る」

エミリパパより王が好きです。

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