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39. 公女

いよいよ明日はデヴォンスに帰る日。

最後に市場をもう一度見学して帰ることにします。

前世では西アジア観光、多分したことなかったのよね。懐かしい感じがないの。すっごく興味はあったと思うんだけど。お金か時間かが無かったんだろうな。私って最後は学生だったのかしら社会人だったのかしら。


キョロキョロしながら歩いてたらエマに耳打ちされた。


「向かいからカデナ・クラレンス様がいらっしゃいます」


おっと! それは面倒そう。

オーラ可視能力をオフにしてたから、とりあえず急いでオンにする。

進行方向を変えたいんだけど今やると絶対わざと避けたって分かるわよね?

ひとまず近くの店に入ってみよう。

行き過ぎてくれるのを待つのが最良。


偶然入った骨董屋で、手近にあった茶碗を鑑賞する。

まあ悪くない品を置いてるみたい。

しばらく時間を潰せるかな。

と思ったら。


「あら、あなたはこの間の。偶然ですわね」


カデナ様に話しかけられた。

ちょ、店内に入って来てるじゃない。

どこが偶然なのよ。こわいわこの人。

何か言われちゃうのかしら。今日はシェラもいないし、本性を表すんじゃないでしょうね。


「これは、クラレンス公女様。覚えていてくださったとは光栄です。またお会いできるとは思いませんでした。先日はすぐにお前を離れ失礼いたしました」


「エミリさんといったわね。そんなに堅苦しくしないで頂戴。この間はあまりお話できなくて残念に思っていたの。今時間はある? 少し話せないかしら」


ええ…。断れないわよね…。


「喜んで」


ああ、せっかくの最終日の観光が…。



ーーーーーーーー



喫茶店に連行されて紅茶をいただいています。

喫茶店、大好きなんだけど、一緒にいる人でこんなにもテンションが上がらないものなのね…。

紅茶も、香りは良いけど、値段の割に今ひとつって感じ。ちょっと渋みが出てるし。長く抽出し過ぎてるのかしら。王都の人は新茶のフレッシュさはそれほど好きじゃないみたいだし、好みが合わないのかも。


「ここのお茶はオススメなの」


「とっても良い香りですわ」


香りはそれなりに良い。嘘は言ってないわ。


「エミリさんは今は地方に住んでるのよね?」


地方…。まあそうですね。意外と治安も良くてちょっと洒落た良いところなんです。


「家族がバラバラで寂しくない?」


「ええ、少し。でも小さな頃からなので慣れています」


「そう。お姉さんが二人だったかしら?」


すごく調べてるじゃない…。やっぱりこわいわ。


「はい。姉は二人ともこちらの学校に通っています」


「王立学校なのね。優秀なお姉様ね。それにしてもかなり年が離れているわね」


「はい。上の姉とは九つ、下の姉とは七つ離れています」


そこまで調べているんでしょうけど。


「まあ、お姉様方は二歳違いで年が近いのね! あなたは随分離れているわね…。そうだわ、きっとご両親は跡継ぎの男の子を、と思われたのね!」


この人。

これを言うためにわざわざお出ましだったわけね。

まあ普通に考えて、当然そうでしょうね。

上の二人が女児で、しかもお父様が王都に呼ばれる時が近づいていたから最後の機会だったのだろうと思う。

残念ながら私も女児だったけど。

今私にこの話を聞かせたのは私を傷つけるため。

私が普通の五歳児なら、こんな言い方をされれば自分の存在に罪悪感を抱くでしょうね。

私とお父様はほとんど会った記憶もないくらいだし、最悪の場合、親子の関係に亀裂が入ったかもね。


この人がこわいのは、オーラに変化がないところ。

こんなに明確な敵意なのに、攻撃的な色が見えない。凪いだ紫色だ。この間の初対面時の警戒心剥き出しのオーラとは違う。私のことを調べて、はっきりと敵認定して迷いが消えたのか。

この人は、人を傷つけるのに戸惑いも覚悟も要らないんだ。日常茶飯事なんだろう。

これが九歳だなんて。

末恐ろしい人だわ。

王都や中央貴族というのはこういうレベルなのかも知れない。クリス君はよくぞ無事だったわね。


「確かにそうですわね…」


しんみりと落ち込んだ声でつぶやく。

私もウォールデン家の血筋だからか、こういう演技って苦手なのよね。一応お望みどおり傷ついた風を装ってみたんだけど。

演技ってばれたかしら?


「いやだ、ごめんなさい。私ったら変なことを! 気に障ったなら忘れてね。さ、そろそろ出ましょうか。ゆっくりお話できて楽しかったわ」


もう目的は達成したというわけね。

完全に私の精神を攻撃するためだけの接触じゃない。

とりあえず、私の演技はばれてないみたい。


王都の最後に嫌な思い出ができちゃったわ。

この後思いっ切り観光して憂さ晴らししなきゃ!

ばらまき用の小さなお土産、たくさん買って帰ろっと。

女の戦いは幼少時から始まっている気がします。

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