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37. 試飲会

エマがお茶の準備を整え、サービングカートで運んできてくれた。

今日市場で購入した三種類の紅茶だ。


「一般的に受け入れられる味や香りが知りたいの。どれが一番美味しいかしら? みんなの意見を参考にしたいから、ここにいる全員で試飲してほしいの」


エマと給仕係二名がテキパキと紅茶をサーブしていく。

まずはお父様お母様のご意見。


「色がとっても良くて、香り高いわ!」


「本当だな。どこで買ったんだ? かなり良いものだな」


「さっき市場で買ったの。真ん中あたりの茶色い暖簾の奥まったお店。豆銀一つと銅銭50枚だったわ」


と、購入の報告をしたら二人がむせた。

え? 私、なにかやらかしてる?


「…エミリ、そのお店は普段店頭販売していないのよ。昔馴染みのお客さんや一部の富裕層になら売ってくれるみたいだけど。ちょっと…厳しそうなおばさんじゃなかった?」


あら、あのお店、卸売りのお茶問屋だったの?

だから最初は招かれざる雰囲気だったのか。


「確かに歓迎されてない感じだったわ!」


納得! と手を叩いて言うと、お父様が吹き出した。


「良いな、エミリ。なかなか頑丈な精神だ」


これって誉められてないわよね?

こういうところが可愛げがないとか変わってるって言われる所以なのね。


「でも最後には仲良くなれたわよ。また来てねって言ってくれたもの。オマケもしてくれたし」


そう言うと、二人とも目を丸くした。


「…さすがエミリね。普通は追い出されてるところだと思うわ」


「ジェーンが心強いと言う意味がちょっと分かったぞ」



ーーーーーーーー



「投票の結果、二番目のお茶が7票、三番目のお茶が4票。一番目のお茶は得票無しとなりました」


私を除く11人での投票ね。

みんな納得という感じで頷いた。

なぜ投票させられたのか不思議そうだけど、良いお茶が飲めて満足そう。


「土産に買って帰るのか?」


とお父様。


「お土産にも良いんだけど、新しく計画していることがあって。今、みんなが揃っていて絶好の機会だから、新企画の相談をしても良い?」


新企画のプレゼン、頑張ります。

みんな、よく分からない様子で戸惑ってる。

お母様だけが真剣、というか忠実な部下の目で私を見てくれてる。…それはそれで変な感じです。

とりあえず、お父様がとめないので、みんな聞いてはくれるみたいだ。


「お父様もご存知のとおり、先日、能力者を新たに約50人発見した。つまり、我が家の財政的には50人を新たに雇用したのと同じ負担だわ。しかもまだ東地区と北地区の再検査が残っている。人口は西地区より少ないけれど、もしも西と同じ割合で能力者を発見できたら、さらに30人分の人件費がかかるわ。今はうちの貯蓄を切り崩してなんとかなってるようだけど、ずっとこのままというのも心許ない」


一気にここまで話したところ、みんな真剣になってきた。

テーマが財政だったのが意表をついたのか、急に雰囲気が切り替わった。


「もちろん、特殊能力者たちの活躍によっては災害対策や魔獣対策にかかる費用を抑えることが期待できる。それによって新たな雇用分を相殺できるかも知れない。ただ、その効果が出るまで、もしもあと数年かかったら? その間に資金が底をつく心配があると思うの」


といっても、うちの資金がいくらなのか知らないんだけど。もしかしたら全然問題ないくらい巨額の資金があるかも。

と思ってお父様とお母様を見る。


「100人分の給付金が今の条件で続いたとしても、あと10年は切り崩して出せるわ。ただ未曽有の災害や歴代最大クラスの魔獣が出れば難しい」


とお母様。

かなり巨額の貯蓄みたいね。なるほど、この世界には保険制度がないから災害魔獣対策費込みで考えないといけないわよね。政治的には一部中央集権化されてるけど、おそらく各領地の復興には予算を組んでくれるわけじゃない。近世的な感覚でいないとダメね。


「そうなの、良かった。思ったよりは余裕がありそうだわ。でもそういうことなら貯蓄はなるべく残すべきよね。そこで、今回の提案なんだけど」


みんな真剣な、というか最早すがるような目で続きを聞いてくれる。お父様だけは落ち着いたオーラ。我が父ながら読ませない人ね。


「治癒能力者たちの日常業務を設けて、本当にうちで雇用するの」


「うちで、雇用…?」


「そう。治癒院を常設するの。治癒院は、最初は医院の下部的位置付けとするのが良いかと思う」


「なるほど、治癒院か。…うん、続けてくれ」


「はい。業務はご想像のとおり、体調不良者の治癒です。負傷者も多少は対応可能だと思うわ。この新機関が眉唾物のぼったくりではないと証明するために、うちの家紋を付けてウォールデン家のお墨付きであることを全面的に押し出す」


「良いんじゃないかしら! もちろん治癒能力は本物だし、うちが保証しても問題ないわ」


「それで、全体的な構想は今言ったとおりなんだけど、一つ心配な点がある。私は実際に治癒を体験したことがあるんだけど、少し疲れている程度ならほんの数秒で終わるの。とても高い治癒力なんだけど、治癒の実感が得にくいかも知れない」


「それは…確かに困るわね」


「そこで、その緩和策として、治癒後に儀式的に喫茶をさせるの。治癒がすぐに終了してしまって呆気ない印象を持つ人も出るだろうから、施術後に美味しいお茶を出してリラックスして帰ってもらうの。それに加えて、薬代わりに数回分の茶葉も渡す。もちろんこの茶葉には治癒能力者たちに治癒効果をつけてもらう。治癒の即効性が実感できない人も、お茶を飲んだり茶葉をもらって帰れたりすれば満足感があると思う。能力者たちのレベルアップも図れるし」


アロマテラピーのハーブティー的な位置付けね。

お父様が少し思案顔になった。もう一押し。


「うまく運営できれば、治癒能力者たちの給付金だけでも治癒院の収入で賄えるんじゃないかしら」


「よし。その案、実施しよう。具体的にもう少し計画を揉んでくれ。施設や広報、配置人員、勤務体制についてな。あとは実施しながら適宜改善で良い。この件については、エミリに任せる」


「分かりました。ありがとうございます」


よし。明日、お茶をたくさん仕入れに行こう。

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