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39. 老舗

おばさんが驚きから復活して、ニヤリと唇を持ち上げた。

顔だけ見てると怖いけど、オーラがすごく好意的な色に変わったのよね。さっきまで白に近い灰色だったんだけど、今はオレンジ色。


「ちょっと試飲するかい?」


「あら、それは是非」


やった、試飲させてもらえるとは。

なんだかおばさんのオーラがやる気に満ち溢れてきてる! オーラの量がブワリと増した。

いつやる気スイッチを押したのか分からないけれどラッキーだわ。良い茶葉出してくれそう。


おばさんが手際良く三種類のお茶を淹れてくれた。

一つずついただいてみる。

一つ目は…ダージリンのファーストフラッシュという感じ。

二つ目、ダージリンの秋摘みのようなまろやかで良い香り。

三つ目、アッサムのセカンドフラッシュのような香りと深み。


「どれもそれぞれに美味しいです。品質の良いお茶ですね」


「今年は良い葉が穫れたんだよ。収穫期にちょうど雨も降らなかったからね。この中ならどれが好みだい?」


「二つ目か三つ目ですね。味と香りと色を総合的に評価すると三つ目かな」


「そうかい。どれくらい要る?」


「あるだけ全部、と言いたいところだけど、他の人の好みに合うか分からないから、さっきの三種類をそれぞれ十杯分ずつください。一度家の者に聞いて、みんなが好きそうなものを後日買いにくるわ」


おばさんは手早く三つの袋を用意してくれた。

やる気に満ちていたオーラにちょこちょこ爽やかな桃色が混じってきている。

えらく気に入ってくれたようだ。


「ありがとう。明日か明後日にまた来ますね。私はエミリ・ウォールデンといいます」


「そうかい、楽しみにしているよ。お代は豆銀1つね」



ーーーーーーーー



 シェラは焦りを押さえきれず早足でエミリを探していた。本当になんという日にカデナに鉢合わせてしまったのだろう。エミリと一緒に過ごせる時間は少ないというのに。

 半刻ほどカデナの相手をしたが解放されそうになく、外せない用事があると言って半ば置き去りにするような形で別れてきた。この埋め合わせは後日しなければならないだろう。

 エミリは去り際に、予定通りと言った。市場をぐるりと見てから茶器の店に行くつもりだったことから、約一刻後にその店で落ち合おうということだろう。カデナを振り切ってきたおかげで早めにエミリの方に戻れるので、エミリが入りそうな店を探すことにする。

 エミリの入りそうな店ーー珈琲豆屋か紅茶屋か雑貨屋か。目に付いた店を覗いて行く。通りに面した表店は半露店になっており、だいたいの店は軒先まで商品を迫り出させている。雨が少ない地域なので濡れる心配がなく半露店が常態化しているのだ。ただし珈琲豆や茶葉を扱う店は土埃をかぶらないよう建物の奥に商品を並べており、店内に足を踏み入れないと商品も客も見えない。

 シェラがめぼしい店を注意しながら足早に進んでいた時だった。茶葉の大店からエミリらしき声がかすかに聞こえた。その声は驚いているようであった。急いで店に入る。

 果たしてエミリはそこにいた。しかもかなり気難しい店主と売買交渉中である。よりによってこの店は一見の客はお断りの老舗問屋ではないか。さすがエミリ、お目が高い。が、気軽に入れる店ではない。


「そんなお値段、とんでもないですわ!」


 まずい。値段交渉で揉めているようだ。

 シェラはエミリに駆け寄った。シェラが声をかけようとしたまさにその時、エミリの侍女と目があった。侍女は落ち着いた様子でシェラに目礼した。

 問題ないということだろうか? それともウォールデン家ではよっぽど事態が深刻にならないと手を出さない主義なのか。声をかける寸前で思わず踏みとどまった。


「このお茶なら、その1.5倍は出さないと! そんな安値では買い叩くようで申し訳ないわ」


「そうかい? それじゃ、これをオマケしておこう」


「まあ! ありがとうございます。これは…」


「ここではあまり人気がないからね、商品にはならないんだ。だが私は好きでね。エミリちゃんなら気に入ると思うよ」


「これ、茎茶…? ありがとう、とっても嬉しいです。きっと大好きな味だと思います」


 シェラは大きく息を吐いた。予想外の円満さに言葉がない。

 エミリには脱帽だ。市場での買い物もお手のものとは、エミリには苦手なことはないのだろうか。慣れない市場をトラブルのないように案内しなければと心配していたのは杞憂だったようだ。

 支払いを終えて購入した商品をエマに渡していたエミリが、シェラの存在に気付いた。


「あら! 探してくれたの? 先に行ってごめんなさい。どうしてもお茶を買いたかったの」


「良い買い物ができたみたいだな」


「そうなの! 今日はもう大満足よ。おばさま、また来ますね!オマケしてくれてありがとう。お茶、本当に美味しかったです」


 店主は満足げに頷いて店先まで送り出してくれた。頑固な人だが、エミリをとても気に入ったらしい。


「さて、目的の半分は達成できたわ。あとは茶器ね! シェラのオススメのお店、楽しみだわ」

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