38. 市場
「ごきげんようシェラ、偶然ですわね!」
あら、シェラのお友達かしら。にしてはシェラのオーラが凄く萎んだんだけど。
くるりと声の方を振り返ると、煌びやかな雰囲気の少女。
少し年上っぽい。9歳くらい? まだ入学してない子よね。
「偶然ですね、カデナ様」
「今日はお買い物? そちらの方は?」
「こちらはデヴォンスからおいでになったエミリ・ウォールデンさんです。エミリさん、こちらはカデナ・クラレンス様です」
あらまぁ。クラレンス公爵家とは。正真正銘のお嬢様ね。
「お初にお目にかかります、エミリ・ウォールデンと申します」
今後の付き合いがあるかも分からないし、言葉少なに挨拶しておく。お辞儀は深く、礼は尽くして。
「まぁ、デヴォンスからいらしたの? 遠路だったでしょう。王都は初めて?」
わお。気さくに話してくれている、と見せかけて、オーラが灰色と紫色のマーブル。あまりポジティブな色じゃないわよね。私、敵認定されてる?
ひとまず早々に立ち去った方が良さそう。シェラとカデナ様の関係も不明だし、お邪魔しないことにする。
「はい、初めてです。田舎とは違って見所が多く、目移りしております。せっかくお声掛けくださいましたのに恐縮ですが、少し立ち寄りたいところがあったのを思い出しました。御前を失礼いたします」
「あら、それは残念ね。でもせっかくの滞在だもの、ゆっくりご覧になってね」
「ありがとうございます」
お辞儀をしてから、シェラを見ると珍しく慌てている様子。
「それでは予定通り、後で」とシェラに小さく告げる。だいたい一刻後に、さっきの茶器の店に行くつもりだけど、伝わったかな。シェラのオーラが落ち着いた。相変わらず萎んでいるけど。
さて、市場観光ね!
王都の雰囲気は前世でいうと西アジアって感じ。東南アジアとはちょっと違うかな。歴史上一番勢いのあった時のイランみたいな雰囲気。楽しみでもあるけど、確かに治安的には注意が要る。
案内役と離れ離れになったのは残念だけど、市場には本当に用事があるの。
これから茶葉を見に行きます。
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なんだかこだわりの強そうな老舗に入ってみました。
なんていうか、日本でいうと頑固な店主の営むラーメン屋に入るときの気詰まり感というか気まずさを感じるけど。
でもお茶は絶対に買って帰りたいの!
お茶の名産地は王都よりさらに北西にあって、買い付けに行けるような気軽な距離じゃない。お茶商人の目利きで仕入れられている茶葉を買って帰れたらベストなの。
「こんにちは、少し見せていただけますか?」
癖の強そうなおばさんに声をかける。
「…気が済んだら出ておくれよ」
「ありがとう」
相手にさてれない感じね。でもめげないわよ。
良い茶葉を沢山買うわ! 今後のデヴォンスに必要になるものだからね。
「一番人気の茶葉を見せていただけますか?」
お願いすると、こっちをチラッと一瞥して、面倒そうに溜め息を吐いた。後ろの棚の方を向いたので、嫌々だけど出してくれるみたい。
「これさ」
見せてくれたのは、それなりに香りの良い茶葉。
だけど…。
小さな壺に入った茶葉をよく目を凝らして見る。ついでに香りも嗅いでみる。
うーん。これが一番人気か。
「都の方はこういう葉がお好みなんですね。私、田舎から出てきて今日初めてこちらに来たの。私は今年摘まれた新しい葉が好きだわ」
そう言って、微かなオーラを放つ手前の壺を指した。
さっき見せてくれた葉はオーラが全然見えなかったから鮮度がかなり落ちるはず。もしかしたら去年のものかも。この世界の人には新茶が良いわけじゃないのかもしれない。
私の好みはやっぱり新茶。
レベルアップして残りオーラが見えるようになったことが、お茶の目利きに役立つとは。思いがけず良い能力ね。
「お嬢さん…」
おばさんが驚いたように私の顔をまじまじと見た。
え? 私の好みって変なの?




