33. いざ王都
今日は王都への出発の日。
これって言ってみれば旅行よね。それも海外旅行って感じ!
もの凄く楽しみです。
目的はお父様への詳細な現状報告と今後の相談。
お父様は火の能力者らしい。
うちって夫婦揃って能力者なのよね。その娘も、私を含めて全員能力者。私は特殊だから置いておいて、領主一家全員が能力者ということで、お父様お母様に関しては領地の守備活動が通常能力者の六割くらいに抑えられてるんだって。
確かにお母様が出動するところって今年に入ってから見ていない。六割という取り決めだけど、実際にはもっと加減してもらっているのかも。守備活動に関する音頭は完全に組合が取っているらしいから真相は分からないけど。
旅行日程は、往路が馬車で4日、王都に5泊、復路が4日の予定。私、お母様、侍女2人、御者、世話役の6人に護衛を2人頼んで、計8人旅。
この王国は帝国と言っても良いような規模なの。小国がいくつか集まったくらいの国土がある。うちの領地から馬車で4日の距離ってかなり広いと思うの。車中泊無しの計画だから余裕を持っての4日とは言え。
肝心の王都には5泊しかできないけど、帰ってきたらやらなければならないことが山積してるから仕方ないのよね。
能力不明者の家庭訪問や、能力判明者への継続的ケアとレベル確認、東地区と北地区の再検査。
ただ、短い5泊のうちにシェラとは会えることになったので嬉しい。王都を案内してくれるんだって。ほとんど外国に行くみたいな感覚だし、地元の人の案内があるのはとても心強い。シェラとの街歩き、楽しみ!
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シェラ・ストーナーはいつになく落ち着かない心境であった。今日、五か月ぶりに友人と再会するのだ。
やはり王都に戻った当初は寂しさが蘇ったが、二日もすると積極的に領地経営について学び始めた。能力者と判明した後にやる気を出して取り組み始めたことに、両親を含め周囲は不思議そうな様子であった。だが、稀代の天才という称号が利いたのか、幸いにも深く理由を追及されず、やりたいようにやらせてもらえた。おそらく周りには理解されないだろう心情であるため詳しい説明をしなくて良いのはありがたかった。
両親や長兄に付いて様々なところへ顔を出し、行動範囲が広がっていくと、運の悪いことに王族系公爵家の令嬢・カデナの目にとまってしまった。カデナ嬢は利発で、話していて楽しくないことはない。だが、公爵令嬢のお気に入りとして周囲に気を使われることがあり正直に言えばかなり面倒なのだ。今日はエミリと一緒のところを見られてややこしいことにならなければ良いが。
そろそろエミリが来る時間である。久々の再会に胸躍る気持ちとは別に、実はエミリが心配でもあった。期待半分、不安半分である。
王都はエミリの一族が治めるデヴォンス地区と比べると、人口は三倍ほどである。デヴォンスは人口40万の立派な都会と見なされているが、肥沃な土地で農業従事者が多いためか、真面目で誠実な土地柄で有名である。軽犯罪がほとんどなく、治安の良い街なのだ。対する王都は、人口は三倍、軽犯罪は十倍の土地柄である。商人が多く、大人口を生かしたマーケットは充実しているが、スリや引ったくりなどの危険も多い。
シェラはエミリが王都に幻滅してしまわないかと少しの不安も覚えながらエミリを待った。手紙の文面からエミリが王都見物を大変楽しみにしていることが伺えただけに、意気消沈して帰ることになれば可哀想である。間違って悪徳な店に入ることなく、エミリが街歩きや買い物を楽しめるようにしたい。
「シェラ、お待たせ。久しぶりね」
「エミリ! 半年ぶりだな。元気だったか?」
エミリが待ち合わせ場所である市場入り口にある広場にやってきた。エマという名の侍女と護衛を1人連れている。一応警戒はしているようである。シェラは少しだけ肩の力を抜いた。
「長旅だっただろう? ここに来るまでに迷わなかったか?」
「迷わなかったけど、少し入り組んだ道の造りよね。さすが城下って感じ。異国情緒があって、とっても素敵! やっぱり王都は賑やかね」
「楽しんでいるようで良かった。ただ治安は良くないから気をつけて」
「そうね、ありがとう。私完全におのぼりさん状態だしね。一応気をつけているつもりだけど。まあ多少の事は醍醐味だと思って諦めるわ」
この調子なら、とシェラは心の中で頷いた。スリくらいでは落ち込まずに楽しい気分のまま帰れるだろう。何事もなければ一番だが。
「今日は案内をありがとう。少し見て回ったら、シェラのオススメのお店にも連れて行ってほしいわ」
「ああ、もちろん。エミリの気に入りそうな茶器の店があるんだ。ここの広場からすぐのところだから、ひと通り歩いて戻ってきたら入ろうか」
「良いわね! お茶碗のお店、楽しみだわ!」
「じゃあ行こう。カバンには気をつけるようにな」
市場歩きの注意を終えて歩き始めようとした時だった。シェラに呼びかける女の子の声が聞こえてきた。




