25. お招き2
「恐ろしいものではないので、安心してください。私が飼っているリスなんです」
そろそろ来ると思ってたわよ、メル。
クリス君に会いたがってるのね。
「安全は保証できます。中に入れてやろうと思いますが、クリス君に接触させても良いでしょうか?」
「は…失礼いたしました。そういうことでしたら問題ありません。ご随意に」
良かった。護衛さんのオーラが落ち着いた。せっかくだからメルをクリス君に見せたいもんね。
窓をあけてメルを部屋の中に招く。
部屋に入れてやると、早速テーブルに駆け寄ってきた。
メルが初対面の人の警戒を解くためによくやるお辞儀のポーズを披露する。
クリス君と護衛さんのオーラが驚きに揺らめいた。
強いファーストインパクトを与えることに成功したメルが駄目押しに握手を求める。
これには護衛さんもクスリときたみたい。完全に柔らかいオーラになってる。私も一安心。
「すごい! とっても賢いんだね! 可愛いなあ」
「メルっていうの。人懐っこいから、良かったら撫でてやってね」
クリス君がメルの差し出した手にチョンと指で触れた。
メルは嬉しそうに頭を寄せている。
クリス君が恐る恐る頭を撫でると、メルが幸せそうにくつろぎ始めた。
恍惚とした表情で、クリス君の腕にもたれかかった。
「わあ、本当に可愛いね! 良いなぁ、僕もペット飼ってみたいな」
「小さい動物ならどうかしら。メルは賢いから、自分の世話は自分でしてくれるからとっても楽なの。いつも屋敷内を自由にさせているのよ。好きなように遊びに出掛けて、疲れたら戻ってくるわ」
「へ~! 良いねぇ。そんなに賢い子、すぐには見つからないかなぁ」
メルがクリス君に撫でてもらいながらトローンと眠そうにし始めた。
いや、シェラにまとわりついていたときにも思ったけど、私といるときよりも幸せそうね?
とっても複雑だわ…。
「そろそろお庭に行きましょうか? お茶と軽食を用意して、軽いランチにしようか」
「行きたい!」
「じゃ準備させるわね。メルのナッツも持って行かなきゃね」
「わあ! 楽しみ」
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クリストファー・セシルの侍従は、主人に初めての友人ができたことを心から喜んだ。
クリストファーは、美男美女揃いのセシル家の中でも抜きん出た容姿である。そこに、子どもに特有の可愛らしさが加わり、護衛必須の様相であった。家族もみなこの末の弟を心配していた。
王都という都会においても、クリストファーの類い希な容姿はひときわ目立った。もともと内気な性格だったため、会う者会う者にうっとり見つめられる恐怖体験のせいで、引っ込み思案がひどくなった。それを控えめだ奥ゆかしいと好意的に解釈され、ますます注目される。ますます引っ込む、の悪循環に陥った。引っ込み思案をこじらせてしまったのだ。
内気な性格だっただけなのになんとも不憫である。あまりにも容姿に恵まれたために起こった悲劇だ。家族は何とかしてやりたいと気をもんでいた。赤ん坊の頃から仕えていた侍従にとっても、もちろん悩みの種であった。こんなに素直で可愛らしい主人を、人並みの内気に戻して差し上げたいと歯がゆく思っていた。
五歳の儀は母親の故郷の方に出ることになった。せめてクリストファーを知る者が少ない場所で、という家族の総意である。結局、注目は浴びたが、クリストファー並みの有名人が二人もいたので視線は三分された。稀代の天才と名高いシェラ・ストーナーと稀代の変わり者のエミリ・ウォールデンだ。エミリは本拠地なので当然だが、シェラがこちらに来ていたとは驚きであった。嬉しい誤算である。
さらに驚くべきことに、数日後にクリストファーがエミリと街ですれ違い、なんと自分から話しかけたのだ。それはセシル家
にとって驚天動地の大事件であった。祝砲を打とうケーキを焼こうと上から下への大騒ぎ。後日エミリから届いた手紙は額におさめて飾られた。セシル家の者はみな残らずエミリを拝み奉った。
今日、エミリと一日過ごす姿を見て、侍従はクリストファーの引っ込み思案が緩和したのを感じ取った。良い意味でただの5歳児らしく楽しそうに過ごしていた。本当にありがたいことである。エミリには今後とも是非にもクリストファーと仲良くしていただきたい。今日の様子は一挙手一投足漏らさず皆様に報告しなくては。
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