23. 秘密
ジェーンの信者となり果てているリストでも、これには面食らった。ジェーンの言う会ってほしい人とは、彼女の三番目の娘のエミリ・ウォールデンであった。
「はじめまして、三女のエミリです」
「は…、リスト・レイクと申します」
なんとか言葉を返したものの、エミリが登場する理由が分からず、次の言葉が続かない。ジェーンからどんな反応を望まれているのだろうか? エミリからどんな話が出てくるのだろうか? 見当もつかない。途方に暮れるとはこのことである。
気の毒なリストに、ジェーンが声をかけた。
「驚くのももっともね。実は、先ほどの調査結果に加えて、もう一つ驚愕の事実があるの」
今回の調査結果ほどに驚くことなど、あるのだろうか? ジェーンの言葉に、エミリが続けた。
「現在確認されている能力以外に、特殊な能力が存在します。私は、火や水の能力はないのですが、ある能力が開花しました」
突然の説明に、リストの脳が言葉の意味を理解するのに多少の時間を要した。それも織り込み済みのエミリが、リストの理解を待ちながらゆっくりと続ける。それでもリストには戸惑うすきも与えられず、思考が停止したままである。
「私の能力は、オーラの可視です。人にも動物にも、生命力の輝きとも言えるオーラがあるのです。その証明のため、失礼を承知でレイク様のオーラをご説明しようと思うのですが…」
淀みなかったエミリの言葉が速度を落とした。
「レイク様ご自身でもご存知かどうか分からないのですが、少し…ここでは申し上げにくい感情をお持ちのようです」
エミリがリストの様子を見つつ言葉を濁す。
語られた内容のインパクトに、ハワードがリストをちらりと見、ジェーンが瞬き、リストがいぶかしんだ。
ここで言いにくい感情とは? 献身的に業務に従事しているリストに、よもや謀反の疑いでも……? 三者三様に、信じられないとの反応である。
三人の考えを察したエミリが、落ち着いて付け加える。
「負の感情ではありませんから、心配にはおよびません」
その言葉にジェーンとハワードはつめていた息を吐き出した。リストは、身に覚えがないのか、まだ疑わしげにエミリを見つめている。
リストの視線を戸惑いなく受け止めて、エミリはニコリとした。
「むしろ対人での最高の感情ですね。レイク様はお母様に好意「お嬢様、お嬢様のお力、疑うところではございません」
エミリの言葉を遮ってリストが宣言した。いつになく強い調子である。
リストはこの瞬間、唐突に知ってしまった。自らの感情を強制的に自覚させられたと言っていい。なんということか。領主相手に実らぬ想いを抱いてしまったとは。
「レイク様、仮にも私は娘ですので応援はできませんけれど……そのように想っていただいて嬉しく思います」
エミリがリストの手を取って目を合わせると、リストはもう降参するしかなかった。ジェーン本人に知られていないことが救いである。人妻に横恋慕、それも領主を相手にとは、自分でも不毛だと感じるしショックである。しかし、ジェーンを前にするとまるで自分が少年に戻ったかのようになってしまうのだ。
「お嬢様……お怒りになられてもおかしくないところを、そのように仰られては、本当になんと申し開きしてよいか…」
もはや、リストはエミリに逆らえなくなってしまった。最大の秘密を一目で見抜かれたのだ。自分は必ずやこの秘密を墓場まで持って行くとして、エミリにもどうか他言無用に願いたい。
リストのオーラがどういう類のものかとハラハラしていたジェーンとハワードだったが、エミリが許しているのだから問題ないのだろうと判断した。むしろリストがエミリの力をあっさりと認め、難関がさらりとクリアされたことに安堵した。
「エミリの力を信じてくれるのね? 何だか急に二人が打ち解けてくれて、良かったわ。ところで、さっき、最高の感情がどうとか言っていたけれど…」
「大丈夫ですわ、お母様。レイク様と私の理解は共通しています。絶対にお母様を害する感情ではありませんから、ご心配なく」
エミリが満足そうに頷いたのを見て、ジェーンも深く追及することをやめた。
すぐにエミリを含めた四人で今後の対策が話し合われた。実際にはエミリが自分の構想どおりに導いて、結論がまとまった形だ。5歳の少女が首脳陣の一角となっていることに疑問を挟む者は、現時点でのウォールデン領内には皆無となっていた。
話し合いの場で、エミリは新たな情報を得た。能力者はその能力ごとに組合となっており、不可侵状態だという。組合は割合の高さからほぼ貴族組合となっている。事務方とは出動前後に情報のやりとりが行われるのみで、実際の活動については不明とのことである。出動人数と能力者の内訳、活動期間等が若手能力者から報告される。事務方の帯同は安全面からも不可能であるとの長年の不文律だ。
もちろん、能力者たちは己を犠牲にして街の守備にあたってくれる善意の存在であるため、現状について不満などあろうはずがない。ただ、今回のように、ある方針を打ち出してそれに沿って行動してほしい場合には、組合側の反発が予想された。
そのため、能力者たちのレベルアップについては、急務ながらもある程度の時間を要する。まずは特殊能力者を拾うことが、余計な混乱なく取り組みやすいということになり、エミリも納得した。
能力再検査は2か月後に実施することとなった。明日から十日以内に地区内西部の対象者約五万一千人に通知書類を送付しなければならない。事務長リストがスケジュール帳を片手に慌ただしく屋敷を後にした。
評価してくださった方、お礼申し上げます!
これで良いのかしらと不安でしたが、励まされました^^
なかなかストーリーが進みませんが、お付き合いくださりありがとうございます。




