21. 二度目の訪問2
「これって魔獣化の兆候だと思う?」
「いや、魔獣化ではない。魔獣化する動物は、やはり人間と同じように食事量が明らかに増えるんだ。それにともなって身体も巨大化していく。その巨大化に数週間から数ヶ月かかると言われている。それで、完全に大きくなりきる前に処分するんだ。野生の場合は巨大化に気付かずに、こちらに攻撃が開始されてから対応することになって苦戦を強いられる」
「なるほど。それ以外に兆候は無いのかしら?」
「今のところ報告されていないな。魔獣化する動物の種類が様々なせいで、共通項が食事量と巨大化しか発見されていないんだろう」
「ありがとう、よく分かったわ」
やっぱり説明が上手。
結局魔獣化についても、過去のデータの分析が必要なのね。
「本来は、動物を全て飼育するか、どこかの機関の管理下にあるべきよね。野生のままにしておくから発見が遅れて被害が出るわけだし。現状のように、何となく動物を忌避する傾向にあって飼育にも及び腰なのは合理的とは言えないわね」
野良犬と同じなのよね。
目の前に野良があらわれたら対処できる人は少ないけど、行政で完璧に管理しきれていたら安心だもの。
今は民衆も行政も揃って忌避的だけど。
「……そうだな。本来はそう考えるべきだ」
シェラのオーラが少し白っぽくなり揺らいだ。驚きと困惑というところかしら。
まあ、この程度でおさまっているのは、シェラだからなんだろうけど。普通の人にこんなこと言ったら、気でもふれたかと思われるでしょうね。
「全てを管理できれば物凄く安全な世界になるわ。ただ、野生から管理までの過渡期が大変でしょうね。完全に管理しきれるまでは能力者にかなりの負担をさせることになるかも知れないし、その時に怪我人が出すぎて災害対応ができなくなればマイナスにしかならない。どれほどの負担でどれだけの利益があるかという全体図が見えないと、いざ取り組もうとはならないわね」
「その通りだな。その上、その発想が受け入れられるかという問題もある。合理的だが、あまりにも革新的すぎる。データで示して、やっと半数の支持を得られるかどうかじゃないか?」
「そうね。ただ…」
一呼吸置いてさらに続ける。
「幸いなことに、おそらくほとんどの地域が全員の同意がなければ動けないシステムではないのよね。組織のトップがリーダーシップを発揮して能力者の疲弊と野生動物管理のバランスを取りながら導いていけば、魔獣がほとんどいなくなる。世界観が変わるわね」
シェラの目がわずかに見開かれた。
「…壮大な計画だが………取り組む価値がある」
「シェラは組織を動かしてみたいって言ってたものね。将来シェラがどこかの組織を指揮するの、見てみたいわ」
そう言ったら、シェラのオーラがボッと音がしそうなほど膨れ上がった。ものすごーくやってみたいらしい。
でも本当に、夢物語じゃなくて、シェラが大人になって実現できたら素晴らしいことよね。
なんかシェラならできそうだしね。自分から先頭切って戦うリーダーって感じで、上杉謙信みたいにやってみたらどうかしら。シェラのオーラ量から見ると能力者としても超上級だから、能力者の働きもしなきゃならないし。
「今の話、実現にはもう一つクリアしないといけない条件があるわ。それは近いうちに解決されるかもしれない」
力を使いまくるのはいけないという固定観念が払拭できれば、ね。
これに関しては、うちの領地がこの数年のうちに証明するかもしれないし望みは有るわよ。
「ともかく、メルが魔獣化してるわけじゃなくて良かった! もしシェラが嫌じゃなければこの部屋にいさせても良い?」
「ああ、大丈夫。賢くて可愛いヤツだな」
そう言って、シェラがメルの小さな頭を撫でてくれた。
……メルったら、私に撫でられるよりうっとりしちゃって。
なんか、恍惚とした表情ね…。
メルとシェラが戯れているのをじーっと見ていると、メルが酔ったように目をトロンとさせた。
シェラの腕にもたれかかって幸せそうにくつろいでいる。
シェラも柔らかい表情になってきた。
「リスって思った以上に可愛いな」
「それは良かったわ…。飼い主の私より懐かれてるわね」
……なんか釈然としないわ。




