19. 感心
ウォールデン夫人退室の後は、ハワード・ストリートが具体的な話をした。
まずは時間外報酬について、次に業務達成に向けたスケジュール、最後に各業務チームのリーダーを指名しその統括をリスト・レイクに一任した。ウォールデン家は全体の監査をする旨も説明された。進捗状況把握のため、数日に一度、ハワードとレイクの間で打ち合わせをすること、半月に一度チーム毎にハワードが面談することとの取り決めもなされた。
レイクは屋敷を後にする際、見送りをつとめたハワードに、必ず期待に応えることを宣言して去った。
演説後、別室に移動したジェーン・ウォールデンは、深く息を吐いた。ソファに身を投げると、全身が疲労感で沈み込むような気がした。
うまく職員たちの心を動かせただろうか? とりあえず、視線はうろうろさせず、しかし全ての職員と一度は目を合わせるように配慮したつもりだが、成功したのだろうか?
ジェーンが放心したようにソファに寄りかかっていると、ドアが開く音が聞こえた。ジェーンには、ノックがあったかどうかも定かではない。
「お疲れ様でした」
ドアから顔をのぞかせたのは、エミリであった。エミリの顔を見た途端、ジェーンはその評価を合否を聞くような気持ちで待った。
「お母様、……完璧です」
エミリはニッコリした。
「これ以上ない素晴らしい演説でした」
その言葉を聞いて、ジェーンは安心したように目を閉じた。
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お母様って凄いわ。本当、別人のようだった。
あの場にいた全員が心酔していたわ。
やっぱり、お母様の演説の機会を設けたのは妙案だったわ。これで、今後事務方は母の意向に確実に従うはず。
とにかく、お母様、素晴らしかったわ!
それと、私の能力がまた少しレベルアップしたらしいの。
これまでは、個人個人のオーラが見えていたのだけど、集団の雰囲気が読めるようになったみたい。
母の演説を別室からうかがっていたら、部屋じゅう丸ごとの空気の色が見えたの。最初は緊張感で青かった空気が、最後には朱色になっていたし、全員やる気を漲らせていたのね。出だしは少しなじみが悪かった人がいたけど(多分統括者の壮年の男性)、途中から完全に他の人と同調していたし、問題はなさそう。むしろ最後はそこを中心として朱色になっていたし。
お母様の話の持って行き方が、もう満点だったわ。
人は目の前の仕事に没入するより、それがどれほど価値のある大仕事なのかを提示される方がやりがいを感じるもの。
よく使われる例だけど、大阪城築城の話そのものよね。石を積む仕事をしていると思っている人と、世界一の城を作っているのだと思っている人では、仕事ぶりや仕事の質が全然違うという。
彼らも、ただのデータ分析でなく、開国以来の大発見をするとか国の転機になるとか言われたら、やる気が出るんじゃないかしら。
しかも組織全体が理念を共有できている場合はさらに素晴らしい仕事になる。だから今回の件も、職員全員に対して意識付けをする事が重要だった。
これだけ舞台を整えて鼓舞したのが彼らの心に響いていると良いけど。もともと優秀な人たちらしいからなおのこと期待しちゃうわ。
とりあえず、一月後か二月後の分析結果が楽しみね。
おそらく、能力の使用頻度が高い者が手練れの能力者と一致することは間違いない。
能力使用頻度とレベルの相関の証明になるし、その関係は比例と出るはず。
その証明ができたら、取り急ぎ、火水風土の能力者のレベルアップをしなければ。
次の災害発生や魔獣の出現までに取り組めれば最高だけど。
随分前のことですが、評価を付けてくださった方、ありがとうございます。お礼を言いたいと思いつつうっかりしておりました。
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