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15. 鍛練

 ジェーン・ウォールデンは、根負けしてしかたなく頷いた。娘のエミリが珍しくお願いがあるというので聞いてみると、庭にいたリスを飼いたいのだという。滅多に我が儘を言わない物分かりの良いエミリにしては珍しく、頑として譲らない。小動物を飼いたがるのは年少の子どもにはありがちなことで、エミリもそうだとは意外であったが、なにせ飼いたい熱意が強いらしい。


「しようがないわね。もともと庭にいたリスだから、危険性も低いし…許可します」


「ありがとうございます! お母様」


「ただし、危険な兆候があらわれたらすぐに報告すること」


「もちろん、心得ています」


 年少の子は、魔獣の危険性について認識が浅い。ペットとして飼っている動物が魔獣化の兆候をあらわしても、情がわいてなかなか手放せないものだ。そのため、普通はもう少し自制できる年齢になるまでは飼育を許可しない。

 ペットが魔獣化する可能性は極めて低く、十数年前に一度あっただけだということと、小動物の魔獣化の例がかなり少ないことから、ジェーンはエミリの願いを叶えることにした。ただし、エマや他の使用人にも観察・報告を命じることにする。


「あなたは魔獣化の兆候を見たことがないから、念のためエマにも観察をしてもらいますからね」


「わかりました」


 エミリは神妙に頷いた。この子は、こういう時に笑顔ではなく真顔で返事をした方が信用度が上がることを知っている。エミリに関しては、兆候の観察も報告も抜かりないだろう。情に流されて報告を怠るということはないはずだ。


「よろしい。それで、名前は付けたの?」


 ジェーンが早速リスをペット扱いしたのが嬉しかったらしいエミリが、珍しく満面の笑顔で答えた。


「メルにするわ」



ーーーーーーーー



メルは屋敷の中を探検しに行ってしまいました。

メル。言うまでもなくメルヘンのメル。分かってるわ、私のネーミングセンスの残念さについては。

私とメルの関係は、つかず離れずという感じ。いつも一緒というわけじゃないの。いつでも肩に乗ってるリスっていうの、憧れだったんだけど。

もの凄く好奇心旺盛な子なので、すぐにどこかへ行ってしまうの。いつも夕方には迷わず部屋に戻ってくるんだけど。


そうそう、今朝、シェラから手紙が届いてたのよね。もうすぐ王都に帰っちゃうんだって。

初めての友達だから、しばらく会えないとわかって残念だわ。シェラも残念に思ってくれたみたいで、帰る前にもう一度遊びに来ないかと書いてある。

是非、と返事を書いて、家の者にストーナー家まで走ってもらった。


さて、手紙の返事も出せたことだし、今日はまた街にお出掛けします。

オーラ鑑定の精度が少し上がってきたので、さらなる訓練のためにたくさんの人のオーラを見に行くの。



ーーーーーーーー



シェラと出会った例の喫茶店に着いた。今日のお供はまたまたエマにお願いしている。

今は能力をオフにしているから、まだ人酔いしていない。

訓練が終わったら休憩に喫茶店に寄ってご褒美の珈琲を一服いただくの!

さあ、鑑定しまくるわよ。


まずは能力をオンにして区画を5条ほど歩いてみる。

色とりどりで、見方によっては灯籠祭りみたいで綺麗かも。午前中だけど。

こうやって歩いている限りでは、やっぱり一般の人はそもそもオーラ量が少ないのね。

オーラって、生命力なのかしら。バイタリティというやつ。能力者のオーラ量が多めで、輝いているのはたくさん食べてたくさん燃やしているってことなのかな。

能力者の平均寿命は百歳だっていうし(平均よ?)、身体も頑丈にできてるのかも。ちなみに、百歳は前世換算で百二十歳ね。しかも若々しいまま年だけ重ねるっていう特典有り。母もかなり若く見えるし。


よし、とりあえず小一時間歩いたわ。順調にレベルが上がっていたら良いけど。


ん? 向かいから、もの凄く大きなオーラがやってくる。

美しいエメラルドだわ。しかも、すごくキラキラしてる。シェラと同等の能力者ね。キラキラしたエメラルドで、本物の宝石みたい。


エメラルドが徐々に近づいてきた。

…あら、五歳の儀で見かけためちゃくちゃ可愛い男の子じゃない。能力者だったのね。

それにしても、神の傑作とも言うべき可愛らしさね。将来はアイドル系ハンサムになるかも知れないけど、今は天使そのものだわ。絹糸を栗色に染めたような美しい髪に白磁のような肌、髪より少し濃い栗色の大きな瞳。唇は小さめで、薄い桃色。

誘拐されない方がおかしいわね、この子。うちの領地の治安が試されているわ。おっと、いけない、ジロジロ見過ぎちゃった。

すれ違う時に目礼しておこう。

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