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11. 前世

 見事な黒髪の少女に向かって、声がかけられた。


「エリ!」


 エリと呼ばれた少女が振り向く。名を宮束英理という。


「おはよう」


「おはよー。エリ、また朝の小テスト、持ってってあげるのー?」


「ええ、ついでだしね」


「ついでってさぁ…、ちょっと遠回りしてんじゃん」


「ちょっとくらい遠回りにもならないわよ。受験学年になってクラブも引退しちゃったし、朝練ないと時間に余裕があるからね」


「それでも普通はやらないよー。みんな、自分の受験勉強で手一杯って感じだし。エリみたいに他人のために動いてる人って他にいないじゃん?」


「そこまで根詰めてないだけよ。二学期になったら私もなりふり構わずやるわよ」


 宮束英理は、毎朝職員室に寄り、教室の鍵を借りて一番に教室に向かう。ついでに少し遠回りをして、教科準備室に寄り、英数国いずれかの小テストを教科担当教員から受け取る。毎朝各教科のローテーションで行われる小テストだ。

 教室についたら、窓を少しあけて空気の入れ替えをし、エアコンのスイッチを押して適温に調整する。今日は珍しく早く登校した友人も手伝ってくれた。最後に小テストを教卓に置いて朝の日課は完了だ。あとは登校したクラスメイトが各自小テストを取って自席で取り組む。教員は勤務時間の問題で配布に来られないため、希望者のみが取り組むことになっているが、実質全員必須の様相を呈している小テストなのである。


「やっぱ優しいねーエリは」


「優しいって言われたことないわよ」


「みんな思ってても言わないだけだって!」


誰も思ってないと思う、という台詞は目の前の友人のために飲み込んだ。そもそも誰にどう思われているかなど気にしたこともない。


「あなたの方が良い子だと思うわよ」


「それはないない。私だったら頼まれても毎朝できないし」


「いえ、教室の準備のことだけじゃなくて…あなたは朝が苦手なんだから別にやらなくていいのよ」


「だってさ、他のクラスは誰もやりたくないからって、日直の仕事にして全員でローテーションしてんだよ?」


「合理的で良いじゃない」


 同じ話題について話しているにもかかわらず根本的にかみ合っていない会話だが、英理はこの友人が好きである。彼女は、「女は愛嬌」を体現したような、可愛らしい女性だと思うのだ。自分には全くない「可愛らしい」という要素に、羨ましくも好ましくも感じる。自分にも少しでも可愛いところがあれば良いのに、と我ながら存外「可愛さ」に憧れがあることに驚く。長所はと聞かれたら答えることができるが、チャームポイントと呼べるものが思いつかない。

 ぱらぱらとクラスメイトが登校してきたので二人も席について小テストに取りかかった。問題に回答しながら、チャームポイントはないが自分のテキパキしているところは嫌いじゃないけど、と己の性格に思いを巡らせる。決して男勝りではないし冷酷でもないが、柔らかさや女性らしさに乏しいのだろう、などと考える。考えながらも、手はスラスラと隙なく回答を作成している。



ーーーーーーーーーー



 始業前の教科準備室で、若手教員数名が授業準備をしていた。この学校ではホームルームは二限と三限の間に行われるため、朝一番は授業から始まる。今は一限の前の「希望者用」小テストの真っ最中だ。


「2組と3組、まだ小テスト取りにきてないわ」


「始業まであと10分だって。絶対解ききれないね、最低15分はかかるし」


「マジどれだけ苦労してテスト作成してると思ってるんだよ。今日の日直吊し上げたる」


「これに関しては5組は苦労しないよな」


「ああ、宮束がいると助かるな」


「あいつは第一志望も余裕だろうな。最後はああいうタイプが合格するんだよなぁ」


「個人的にも宮束には受かってほしいし」


「え、先生、宮束に何か思い入れあったっけ?」


「いや、あの子みたいなコツコツ頑張る子の努力が報われなかったら悲しいじゃん」


「まぁでも宮束さんはがむしゃら系じゃなくて計画的にやるタイプだからね。さらっと受かるんじゃない」


「宮束が卒業したら寂しいわー。たまに遊びに来いよって言っとこ」


「絶対社交辞令だと思うだろうな。あいつ、場の空気読むのはめっちゃうまいし勝負感もあるのに、自分に対しての評価にはめちゃくちゃ疎いのよ」


「分かる。あの子、自分がどう思われてるか分かってないよね。まぁそもそも、高校生の年齢では彼女の良さに気付いてないヤツが多いだろうしね。モテ期の体験もないだろうし」


「俺が高校生だったら絶対好きになると思うんだけど」


「いやー、先生が高校生だったらもっと分かりやすく可愛い子ぶってる子に引っかかってると思うわ」


「言うねー、高校生の俺を知っているかのように。てか、マジで2組と3組しばく」


「あーらら、もう1限が始まる時間ね。ドンマイ」


「激ギレしながら教室入るしかないわ。そんで5組の授業で宮束当てよ」


「なんのペナルティ?」


「俺への慰労と報酬。喋りたい」


 不憫だ。その場の全員がそう思った。

 宮束英理はこういう役回りが多い。どこまでも許容してくれるはずだと思われがちなのだ。本人も特に悩んでいる様子はない。能力的にも割りと何でもこなせてしまう器用貧乏とも言える。

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