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クズと天使と現世と


「あなたはもう必要ありません。クビです。」


そう言い渡された俺―バーンソルトを見下ろす四人の少女。

ここは天界。そう、あの天界だ。天国とよく勘違いされる、あの天界。


空からは暖かい日差しが差し込んでいる。(うら)らかな春の日。 昼下がりの涼しい時間帯。その時間帯は俺の一番のお気に入りだった。何故なら寝心地がいいから。今頃は涼しい風に吹かれて気持ちよく昼寝している頃だろう……本来ならば。


今俺は通りすがりの警備員どもにいきなり取り押さえられ、ここ―ファルム大聖堂に拉致られている。俺はただ街をぶらぶらしてただけだぞ。俺は無実だ!……多分、おそらく、めいびー。


少女たちのいる方向に顔を向けると見えたのは、彼女達のなんとも険しい顔。

もしかして今俺の考えてることが分かったのか?なら分かるだろう。さっさと帰してくれ。絵……。早く帰りたがる理由?

それは俺には今現在の状況が全くもって理解できないから。……べ、別にやましいことなんてないんだからねっ!まあらとりあえず思いついた疑問をぶつけてみるとしようかな。


「今のこの状況は何ですか?それに……クビってどういうことですか?俺何かしましたっけ?」

「……あなた、本当に分からないの?」


彼女達はそう(たず)ねる俺の態度に呆れかえっていた。四人が冷たい目で俺を見下ろしてくる。

その様子を見て昨日の自分の行動を思い起こす。


「もしかして他の奴に『ミカエル様の今日のパンツは赤らしいぜ』ってことを適当に言いふらしてたことですか?」

「あなたそんなことまでしていたの!?地獄に落とすわよこのクズ!」


おっと違ったみたいだ。これじゃないのか……。というか墓穴を掘ってさらに状況が悪化してしまった。

俺を問い詰めている彼女―ミカエルはもうゴミを見るような冷たい目で俺を睨んでくる。それにつられるかのように、後の三人―ラファエル、ガブリエル、ウリエル達も(さげす)んだ目で俺を見る。


……やめて、そんな風に見られたら……俺、何かに目覚めちゃいそう。


ちなみにこの4人は四大天使というかなり高位の存在だ。会社で例えるならば筆頭株主(ひっとうかぶぬし)といったところだ。

そんな彼女達は四大属性なるものを司っているらしく、ミカエルは火、ラファエルは水、ガブリエルは風、ウリエルは雷をそれぞれ司っている……らしい。まあ俺はあんま興味ないしよく知らないけどね。


ああ、神はいないよ?三百年前までは唯一神はいたけど。セクハラが酷いと女性天使達に訴えられて……そのままショック死しちゃったんだよね……。……格好がつかないし何よりもいたたまれないから病気で死んだことにしてるけど。


そんな四大天使様々が何故拉致(らち)ってまで俺を問い詰めているのかというと。それは俺がミカエルの直属の部下だからだ。それもまあまあ上位の。


「で、俺が何をしたのかそろそろ教えてくれないっすか?」


分からないものはしょうがない。ここは素直に尋ねるのが最善策だろう。すると彼女の口からは予想外の答えが返ってきた。


「何もしないから怒ってるのよ!あなた、本当に自分の立場分かってるの?仮にもあなた、天界最強の四天王でしょ!?仕事くらいちゃんとしなさいよ!」


仕事?そんなのあったっけ?……あ、忘れてたわ。でも部下に全部押し付け……任せてたはずなんだけどなー。


「あんたの部下は逃げたわ。『こんなのやってられるか!俺は故郷に帰る!』って息巻いてね」


わー大変なことになってるねー。さて、新しい部下でも(やと)うかな!

そんな現実逃避(げんじつとうひ)に走る俺をジト目で見るミカエル。え?他の三人?飽きたとか言ってどっか行っちゃった。

逆にここまで付き合ってくれているミカエルにうっかり()れそうになる。よし、なんかよく分かんないけど今ならいける気がする。


「ミカエル様…俺を……」

「え、何?まさか、この状況で……?ちょ…ちょっと待ってよ…心の準備が…」


何故か顔を赤く染めるミカエル。何かモジモジしている。背中から生える翼が落ち着きなさそうにぴょこぴょこしている。そんな姿も可愛い。これはやはりかなりの優良物件(ゆうりょうぶっけん)だ。早めに手を打たねば。


「俺を…養って下さい!」

「ちょっとそんないきなり困……え?今なんて?養ってって言った?」


頰を赤らめていた顔が途端(とたん)に無表情になっていく。……本当にさっきの可愛らしい少女と同一人物なのだろうか?

というか今時主夫というものが存在するのだ。養ってほしいと言っても何らおかしくはないだろう。……俺の場合、家事なんて死んでもゴメンだが。


「へー。そんなことしか考えてないんだ。へー。ふーん」


ジト目を向けてくるミカエル。何だろう。すごく嫌な予感が……。


「あなたは()()では何もしたがらないのよね?()()では」


天界という言葉をものすごく強調してくる。彼女の顔を(うかが)う。そして彼女の顔を見て俺は確信した。分かってしまった。これはヤバいと。


「そんなに天界で働きたくないのなら……。」


ちょっと待って。こっちこそ心の準備がまだ……。マズいマズいマズいマズい……。


「現世で働いてきなさい!本日をもって四天王の位を剥奪(はくだつ)!あなたはもうここにいる意味がなくなったわ。ああ一人じゃないから安心して。心置きなく働けるように監視役をつけるから!さあ!行きなさい!」


……これは詰んだな。今までありがとうございました。

足元に複雑な魔方陣が浮かび上がる。これほどの魔方陣は俺には破壊できない。主に精神的な理由で。

ミカエルの勝ち誇ったような顔。その顔が俺の天界での最後の記憶だった。

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