召喚された魔術師
「やった、成功です!」
そう声を出したのはドレスを着た少女だった。さらに、その周りではローブを着た人たち、多分魔法師たちが喜びを分かち合っていた。
「ここはどこだ?」
そして、俺と同じくこちらに召喚された男。確か、俺と同じクラスだったよな?名前は知らんがイケメンで文武両道なので学校でも人気があるやつだったよな。
「な、なあ、神谷ここはどこなんだ?どうして俺たちはここにいるんだ?」
「・・・ここは異世界で俺たちはここにいる人たちに召喚、たぶん勇者召喚だなそれでここに召喚された」
「そ、そうか」
あまり意味が分かっていないようだ。というかこいつ俺をかわいそうな目で見てきやがった。
「あの、よろしいでしょうか?」
「ん、ああ、大丈夫だ。話を聞こうか」
「は、はい」
金色の髪とエメラルドのようなきれいな瞳そして整った顔立ちにお姫様というのはこういう者をいうのだろうとこの少女を見てそう感じた。
「え~、まず自己紹介から私はアイリス・エルグライトといいます。あなたがたは勇者召喚によりこちらの世界、あなたがたの世界でいう異世界に召喚しました。理由はこの国、いえこの世界を滅ぼそうとする魔王を倒していただきたいからです」
アイリスと名乗った少女はこちらを安心させるように真っすぐこちらに目を向け話した。
「なるほど、大体事情は分かった」
まあ、勇者召喚を使う場合などそういう事情だろう。
「それとですね・・・」
アイリスは何か言いにくそうな顔をしている。
「実は勇者召喚は一人を召喚する魔法でして・・・」
「ああ、それならこっちが勇者で俺は巻き込まれた方だな」
「・・・え?」
俺は横にいるイケメンを指さしそう言うとアイリスは驚いた顔をした。
「どうしてわかるのですか?」
俺は足元に書かれた魔方陣を指さし説明した。
「この勇者召喚を解析したところ魂の質で召喚する人物を決めている。そして、アイリスは一人を召喚する魔法と言ったが正確じゃない。その場に見合った魂を持つものが一人しかいないから一人しか召喚しないんだ。今回は俺とそいつ二人がたまたま近くにいたから二人召喚されたというわけだ」
「・・・」
アイリスたちは唖然とし俺を見つめていた。
「解析?では、あなたはこの魔法、勇者召喚がどのようなものか解読したというのですか?神の奇跡と呼ばれる勇者召喚を・・・」
「奇跡か・・・」
奇跡という言葉を聞いた俺は苦笑する。
「自己紹介がまだだったな。俺の名前は神谷裕。魔術師だ」
「魔術師?それはいったい・・・」
「ちょ、ちょっと待った」
アイリスが魔術師という聞きなれない言葉について尋ねようとした瞬間イケメン君が待ったをかけた。
「いきなりいろいろと・・・異世界?勇者召喚?そんなこと突然言われても訳が分からない!」
「そうでした。まずはお部屋に案内いたします。そこで少し休憩なさってください。それからきちんとして説明をしましょう」
アイリスが手をあげるとメイドさんが近寄ってきた。本物のメイドさんを見れて少し感動だ。
「お二人を案内してください」
「はい。では、こちらに」
メイドさんの後ろをイケメン君がついて部屋を出た。
「・・・あの」
だが、俺はその場を動かないでいたのでメイドさんが戸惑っていた。
「俺に聞きたいことがあるだろ」
アイリスを見ながらそう言う。
「・・・確かにそうですが」
「俺は休まなくても大丈夫だから聞きたいことを聞いてくれ」
「分かりました。では、まず一つあなたは何者ですか?」
少し警戒しつつ聞いてきた。
「さっきも言ったが俺は魔術師だ」
「魔術師というのは?」
「そうだな・・・奇跡の体現者っていえばいいのだろうか」
そう言いつつ俺は師匠から教わったあの言葉を言った。
――我らは奇跡の体現者
――我らにとって奇跡とは必然である
――故に我らは奇跡を体現せし者である
――我らは奇跡の体現者、魔術師である
「まあ、簡単に言えば魔術を使う者だな」
「魔術というのは魔法とは違うのですか?」
「違う。魔法っていうのは『魔の法』、神によって定められた法に則って使用するもので魔術は『魔の術』、魔を使用するための術だ」
「???」
首をコテンっとするアイリスはあまり分かっていなさそうだった。
「簡単に言えば魔法は神が作り出したもので魔術は人が作り出したものってことだな」
「なるほど」
ポンっと手をたたくアイリスの姿は可愛らしかった。
「では次に勇者召喚についてですが先ほどの説明からはカミヤ様も勇者ということでは?」
「あ~ちょっと長くなるが・・・そもそもあの魔法は勇者となる器の持ち主を召喚しそいつに勇者としての力を与える魔法なんだが、あのイケメン君を対象として発動した勇者召喚に近くにいた俺の異常な力に反応して俺を巻き込んで召喚した。まあ、やろうと思えば魔法をキャンセルできたんだが俺を対象とした魔法じゃなかったからキャンセルすると対象だったイケメン君に何らかの障害が出る可能性があったからそのまま流れで召喚されたわけだ。だから正確に言うと巻き込まれたというより召喚されることを了承したになるのか?だからアイリスたちは俺に対して落ち目を感じる必要はない」
「それは・・・ありがとうございます」
俺の言葉に少し安堵したようで頭を下げた。
「ほかに聞きたいことは?」
「では、最後に・・・あなたのお力で魔王を倒すことは可能ですか?」
俺の話からかなりの力があると考えたアイリスは俺がどれだけの力があるのか、そして、その力で魔王を倒すことは可能かを聞いてきた。
アイリスは期待のこもった目でこちらを見ている。
「・・・可能だろうな」
「でしたら!」
「だが、今のところ魔王を倒すことは考えていない」
「な、なぜですか!」
アイリスは声を荒げ俺に迫ってきた。
「俺の力はかなり強力だ。それこそ魔王を楽に倒すこともできる。だから・・・」
「俺は誰のためでもなく自分のために力を振るう」
「っ!」
俺の答えを聞いたアイリスはビクッと怯えた表情をした後周りにいた魔法師たちがアイリスをかばうように前に出た。
「ああ、安心しろ。俺に敵対しないかぎりお前たちに力を振るうことはしない」
それを聞いて少し安心したのかアイリスたちはほっとした顔をする。
「それじゃあ、アイリスたちも話し合いとかあるだろうから俺も部屋に行くとする。メイドさんよろしく」
「は、はい。こちらです」
「じゃ、またあとで」
そうして俺は部屋を出てく。
閑話休題
「はぁ~、緊張しました」
「お疲れさまです、アイリス様」
裕が出て行った後にアイリスたちは強張っていた体から力を抜きほっと一息ついた。
実は魔法が使え魔力を感じ取れるアイリスたちは召喚された瞬間から裕が並々ならぬ力を持っているのは薄々感じていた。そのため裕を刺激しないように言葉を選び話していたのだ。
「・・・彼は大丈夫なのですか?」
フードで顔は見えないが声からして女性であろう彼女がアイリスに尋ねる。裕は危険ではないかと・・・
「今のところは大丈夫でしょう。彼は敵対しない限り力を振るわないと言っていたので・・・」
「しかし、その言葉は信じられるのですか?」
「わかりません。ただ、彼の言葉からは確固たる意志がありました。多分、力あるゆえに何かあるのでしょう」
アイリスは裕が出て行った扉を見つつそう言った。
「・・・わかりました。我々の方で彼を監視しましょう」
「ええ、お願いします。ただ、彼から監視の許可を取るように」
「なぜですか?」
アイリスの言うことに意味が分からないのか女性は首をかしげる。
「彼に隠れて監視などしてそれが敵対行動ととられる可能性があるからです。それに彼に隠れて監視などできる気がしません」
「なるほど、分かりました」
そして、女性は部屋を出て行った。
「彼と良き関係を築けるとよいのですが」
アイリスはこれからのことについて頭を悩ませるのだった。