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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 終焉への始まり

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九七話 届ける声

 第二軍団とナスル軍は、互いの顔が識別出来るほどの距離で向き合っていた。

 ナスルさんは数で勝るナスル軍をあえて分けるようなこともせず、全軍を正面から向き合わせている。

 戦力で勝る以上、伏兵などの小細工は必要ないのだ。

 正攻法で攻めるのが結果的に最も安定した勝利を得られる事だろう。


 そしてナスル軍から飛び出る形で立っているのが――僕たちだ。

 ナスル軍の最前面に立っているが、そもそも僕らには闘う意思が無い。

 というか元々士気の低そうな敵側は、ナスル軍側に第四軍団が混じっているのを目撃した事で、さらに戦意を失っているのだ。


 ――あとは僕が少しだけ背中を押してあげるだけである。

 問題の一つとしては、前回でも一万人近くいた軍勢が、今回は倍近くいるということだ。

 これでは、僕の姿を見せて声を届けるだけでも一苦労なのだ。

 だが……もちろん対策は検討済みだ。


 僕は事前の打ち合わせ通りにフェニィに合図をする。

 フェニィはそれと分からないくらいに小さく頷く――それを確認した僕はフェニィの肩に手を置いて飛び上がる!

 そして気が付いた時には、直立不動のフェニィの両肩に僕が立っているという訳だ……!


 そう。これで軍勢の奥からも僕の姿が見やすくなった。

 ……もちろん僕は靴を脱いでいる――土足で立つような非常識な人間では無いのだ!

 第二軍団も味方のナスル軍でさえも、僕の秀逸な作戦に驚いているようである。

 斬新な発想に度肝を抜かれているのだろう。


 仲間たちにも伝えてなかったので、ルピィたちも目を丸くしている。

 ――これは仕方が無い、敵を騙すには味方からなのだ!

 何を思ったのか、マカもフードから飛び出てきて僕の頭に飛び乗る――そしてそのまま二本足で立ち上がる! 

 ……どうやら常ならぬ高い視点に興味が湧いてしまったようだ。


「――畜生」


 セレンの強い殺意を照射されたマカはいそいそと僕のフードに舞い戻った――憎めない子である。

 だが仔猫まで頭の上に立っていたせいで、完全に芸をする為に最前線に出てきたようになってしまった……。


 ――いや、混乱しているこの状況は考えてみればそれほど悪くもない。

 この混乱に乗じてそのまま説得してしまおう。

 僕はフェニィの肩に立ったまま背筋を伸ばして、第二軍団に声を広げる。


「皆さんこんにちは。肌寒くなってきましたが、元気にしていますか? 僕は〔平和の伝道師〕のキャッチフレーズでお馴染みの、アイス=クーデルンです。……早速ですが皆さん、武器を捨てて投降しませんか? ご覧の通り、元第四軍団の方たちも今ではすっかり仲良しさんですから、皆さんも奮って参加しちゃいましょう!」


 よし、今回も完璧だ。

 時候の挨拶から始まって、同調意識に訴えるような降伏勧告。

 これで皆も安心して投降出来るというものである。

 耳慣れない〔平和の伝道師〕というキャッチフレーズに、ナスル軍の人たちも困惑しているようだが、それも当然だ。

 今この時――初めてお披露目したのだから……!

 これであたかも僕がそう呼ばれているかのように印象付けるのだ。

 僕の平和的立ち位置を分かりやすく伝えるのにも最適であろう。


 安心させるといえば、ルピィに元第四軍団の団長に変装してもらうという手もあったな……。

 焼失した団長に化けてもらって、「ナスル軍サイコォー! ウェーイ!!」とか叫んでもらえれば、後進の人たちも安心出来たかもしれない。


 ……いや、嘘は良くないな。

 嘘は露見した時に信用を失ってしまうのだ。

 バレない自信がある時以外は、嘘など吐くものではない……!

 なにより、さすがのルピィも引き受けてはくれまい。


 それに元第四軍団の人たちを驚愕させてしまう気がする。

 炎に消えたはずの軍団長が「ウェーイ!」などと言いながらナスル軍を賛辞している光景を目の当たりにしようものなら、自分の頭がおかしくなったと疑ってしまうことだろう……!



明日も夜に投稿予定。

次回、九八話〔輝く親友〕

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