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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 終焉への始まり

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九六話 平和の象徴

 第四軍団を併合した僕らは、また斥候に出るようなこともなくナスル軍内に留まっていた。……というのも、元敵である軍団を取り込んだ事により、ナスル軍内で兵士間のトラブルが頻発していたからだ。

 僕らが連れてきた人たちである以上、ちゃんと僕らが最後までお世話をしなくてはならない。

 そう考えた僕らは、ルピィの圧倒的聴力を活かして、揉め事が起きる度に現場へと急行していたのである。


 当該現場に僕らが現れるだけで、その場の(いさか)いの空気は一気に沈静化する。

 ――これも僕が平和の伝道師たる所以だろう。

 ある時などは、仲裁に訪れてもまだ興奮している兵士さんがいたので、「そんなに頭に血を上らせていると、頭が爆発してしまいますよ……?」と、かつての副団長さんになぞらえた忠告をしてあげたら、赤かった顔があっという間に冷静な青色に変わったのだ。


 そう――僕はウィットの利いた説得もこなしてしまう……!

 いつもいつでも僕らが揉め事の現場にいるので、一時期は僕らがトラブルを起こしているかのように誤解されていた事もあったが、今ではそんな事もない。

 それどころか現在に至っては、ナスル軍内で『アイス=クーデルンはどこにでもいる』と噂されているのだ。

 いつも皆の安寧の中にいる……つまり僕は〔平和の象徴〕というわけだ!


 平和を愛する僕の気持ちが皆に伝わったおかげか、いつしかナスル軍内での揉め事は激減していた。

 なにしろ食堂で「スープの量が少ない」という不満にすら駆け付けていたのだ。

 僕らの努力はここに報われた……!


 落ち着いてきたからまた斥候にでも出掛けようかな、と考えていた時だ――また軍国が動いたと知らされたのは。

 その時はナスルさんの天幕内で、僕が作ったシチューを皆で食べていた。

 ちなみに料理も同じ天幕内でやっている。

 ……配膳の手間を省く為なので仕方がない!


 そう、僕らは本陣に滞留している時も食堂を利用していない。

 ……僕らが近くにいると、兵士さんたちが萎縮してしまうからだ。

 親しげに兵士さんに話し掛けてみても、食事の味も分からないような顔で対応されてしまうので、諦めざるを得なかったのだ……。


 ナスルさんが仕事をしている天幕内で料理をする事には、堅物ボーイであるレットからの反対もあった。

 だが仲間たちの後押しや、ロブさんの「ソイツァイイナ!」という口添えもあったおかげで、今や皆で仲良く食事することが叶っているのである。

 ナスルさんが打ち合わせをしている横で〔野菜を切ったり〕している訳なので、ナスルさんも最初は少し渋っていたが、今ではご機嫌でジーレの世話をしながら食事をしている。

 ……うむ、やっぱり家族は一緒に食事をするべきなのだ。


「――それで、次はどの軍団が動いたのですか?」

「うむ、第二軍団だ。幸いなことに、また単独での出撃だ」


 それは良い情報だ。

 第一から第三軍団は他の軍団に比べて兵員数が多いのだが、こちらは飛ぶ鳥を落とす勢いのナスル軍だ。

 第四軍団を併合後も、どんどん入軍希望者を受け入れているので、全兵力を比較しても軍国側に引けを取らない。

 そんなところに第二軍団の単独出撃だ。これは吉報という他ない。


 唯一、気掛かりと言えば――僕はレットを盗み見る。

 第二軍団はレットの父、バズル=ガータスさんが軍団長を務めていたのだ。

 父親の古巣と矛を交えることになるので、レットとしては複雑な心境かもしれないと慮った訳だ。


 だがレットの方は特に感慨が無いようで、普段と変わらぬ様相でシチューを口に運んでいる。

 感情が顔に出やすいレットがこの調子ということは、本当に気にしてないのだろう。

 それにしても、ナスルさんも食事中にこんな重要な話題を持ち出してくるとは――僕らのことがよく分かっている……!


 僕の仲間たちは軍国の動向に全然気を払っていないのだ。

 重要な話であっても、大人しく聞くとは思えない。

 だが食事中なら邪魔されることも無く、自然に伝えることが出来るという訳だ。

 なにせ僕とナスルさんが大事な話をしていても、どこ吹く風とばかりに仲間内での会話を続ける人たちなのだ……。


「……たしか第二の軍団長ってレットと面識があるんだっけ? どんな人なの?」

「直接話した事はねぇよ。練兵場でよく親父に怒られてた若い男、って事ぐらいしか覚えてないな」


 若い男だったと言っても、もう十二年前の話だ。

 今や押しも押されぬ団長ということだろう。

 レットと仲が良かった人なら説得が出来たかもしれないが仕方がない。

 ……レットの口ぶりからすると、その男にあまり良い印象を持っていなかったようでもあるし。

 十二年前の時点で、神持ちでありながら副団長に指名されてなかったということは、人品よろしくない人なのだろうか……?


「〔斧神持ち〕だったよね? 魔術系の神持ちもいないようだし、僕らが先行してぶつかる必要も無さそうだね」


 第二の軍団長は剣神や短剣神のような、〔武器系の神持ち〕と聞いている。

 第四軍団の兵士さんたちに聞く限りでは、軍国側に魔術系はいないようであるし、今度は大きく構えて迎え討つとしよう。

 なにより、既に第四軍団がナスル軍に合流しているのだ。

 元仲間の離反した姿を見せる事により、第二軍団をこちら側に引き込む交渉がしやすくなるというものである。


 ……我ながら素晴らしい交渉術だ。

 しかも駄目押しに、こちらには前軍団長そっくりの息子、レットもいるのだ。

 もはや無血での和解は約束されていると言っても過言ではない……!


「……ああ、斧使いの人だ。今の腕は知らないが……アイスたちなら、もし闘いになったとしても大丈夫だと思うぞ」

「うん。こちらが危なくなるとしたら、武神の父さんと剣神のネイズさんが同時に攻めてくる時ぐらいじゃないかな?」


 今のところ、軍団を各個ごとに対応出来ているので実に理想的だ。

 ――やはりルピィの働きは大きい!


「今に至っても軍国が悠長にやってくれるのは、本当にルピィのおかげだよ。第四軍団と対峙していた時も、こっそり偵察していたヤツを退治してくれたしね!」


 そう。第四軍団の顛末は密かに遠くから観察されていた。

 隠れ潜む諜報系の加護持ちを、相変わらずのルピィが存在を看破してくれたのだ。

 そして僕らに見つかって逃げようとする諜報員を、猟犬のようなフェニィがまたたく間に追い詰めて〔成敗〕と相成った訳である。

 獲物を狩る獣のようなフェニィを見て、第四軍団の人たちは恐れおののいていたが、こればかりは仕方がない……。


 もうまるで趣味の一つであるかのように、毎日毎日ルピィが諜報員を狩り続けているので、軍国とナスル軍にはかなりの情報格差が生まれているはずだ。

 その証左となるのが――この期に及んでの軍団単独出撃というわけだろう。


「褒め過ぎだよアイス君〜。ボクにとっては褒められるまでもない当然の事なんだからね〜〜」


 そう言うルピィは「にへら〜」っとした顔をしている。

 ……なんだか最近、謙遜をしないルピィが可愛く見えてきた。

 いや、元々可愛い人ではあるのだが、普段の言動が酷いのでマイナス補正著しいのだ……。


 そしてこんな時にはいつも機嫌を悪くするフェニィだが――今日は年老いた猟犬のように落ち着いている。

 先の大活躍での胴上げ以降、フェニィの機嫌はとても良好なのだ。

 どうやら胴上げがすこぶるお気に召したらしい。


 もしかしたら密かな夢だったであろう〔抱っこ〕をしてあげたおかげかもしれないが、いずれにせよ精神状態が穏やかなのは良い事である。

 セレンとジーレはルピィが褒められて面白くなさそうな様子だが、この二人はこれぐらいの事で爆発しないので問題は無い。

 というより、平素のフェニィの沸点が低すぎるのが問題なのだ……。


明日も夜に投稿予定。

九七話〔届ける声〕

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