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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 終焉への始まり

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九四話 知らしめる戦勝

 軍団長のあっけない最期に、兵士たちの反応は様々だ。

 目の前で起きた事が信じられないように呆然としているもの、腰を抜かして座りこんでいるものもいる。

 彼らにとって雲の上の存在である〔神持ち〕の軍団長が、何も出来ないままに火柱になったのだ。

 驚愕は押して知るべしである。

 そしてこのタイミング――今こそ、アレをやる絶好の機会だ!


「二人共やったね! ――よぉし、皆で二人を胴上げだ!」


 ――そう、胴上げだ……!

 派手に勝利を祝うことで、戦争は僕らの勝利で終わったと〔戦勝アピール〕をするのだ!

 これにより相手の戦意を挫き、これ以上の無駄な争いを避ける訳だ。


 さらには仲良く胴上げをすることによって、僕らの親しみやすさをアピールする狙いもある。

 これでナスル軍に加入しやすい空気を形成する――そう、ナスル軍は〔アットホームな職場〕です!


「おいおい、胴上げって――まさか、今やるのかよ!?」

「『おいおい』は、こちらの台詞だよレット。むしろ今やらずに、いつやるの? 二人は、今この時に戦果を挙げたんだよ!」


 僕の理路整然とした主張に唖然とするレット。

 ……まったく、レットは時々ズレた事を言うから困る。


「その通りだよレット君。活躍したら胴上げ――なにもオカシイ事は無いよ!」


 なにもおかしい事は無いという割には、満面の笑みを浮かべて可笑しそうな様相のルピィ。

 だが、これで決まりだ。


「まずはジーレからね。それ――わっしょい、わっしょい!」


 僕の掛け声に唱和してくれたのはルピィだけだったが、軽過ぎるほどに軽いジーレの体は、雲が掴めそうなくらいに舞い上がる……!


「すごぉぉぉぃ……!」


 ジーレの大興奮している声が空の彼方から聞こえる。

 胴上げを敢行した理由の一つには、ジーレが爽快なアクションを好みそうという理由もあったが、僕の予想は正しかったようだ。

 クールな顔で胴上げしているフェニィもきっと大好きだろう。

 その証拠に、期待故の興奮からくるものだろう、フェニィの手に力が込められ過ぎて、ジーレの胴上げに回転力が加わっている……!


 ――そう、ちょいちょいジーレが()()()()してるのだ!

 それでも明後日の方向にジーレが飛んでいかないのは、きっとジーレが重術を行使して調整しているのだろう。

 ジーレは破天荒ではあるが、小技に長けた子でもあるのだ。


 ……しかし胴上げ組の高さを揃える為に、フェニィには中腰になってもらっているのにこの有様である。

 フェニィが全力で胴上げをしようものなら、ジーレでも制御出来ないくらいに照準がズレてしまい、火柱にジーレが突っ込むリスクもあったことだろう。

 中腰になってもらって正解だった。

 我ながら――見事なリスクマネジメント!


 天高く伸びる火柱の横を、幼い少女が胴上げされている。

 この圧巻の光景に、兵士たちも目が離せない様子だ。

 雲まで届けとばかりのジーレを、兵士たちは絶句しながら目で追っているのだ。

 ……そんな兵士たちを見た僕は、この作戦の成功を確信した。

 牧歌的な胴上げの光景を見て心が洗われたのだろう――彼らには戦意が欠片も見えない……!


「……よし、っと。次はフェニィだ!」


 興奮冷めやらぬジーレを降ろし、フェニィの番へと移る。

 だが胴上げを開始した直後、大きな問題に気付いた。


 ――――重い! 

 フェニィの筋肉密度が高そうだから重いという事もあるだろうが、これは担ぎ手の問題だ。

 まずジーレ。こちらは単純に背丈が低いので手が届いていない。

 ……ジーレの高さに合わせると全体的に低くなりすぎてしまうので、ジーレには胴上げの雰囲気だけを味わってもらっているのだ。

 本人は楽しそうなので、これはこれで良いだろう。


 担ぎ手の戦力として期待していた渋々参加のレットは、フェニィに触れるのを遠慮しているのか〔エア胴上げ〕だ。

 そして……セレンに至ってはそもそもやる気ゼロだ。

 僕の顔を立てて胴上げに加ってくれているようだが、こちらもエア要員だ。


 つまり実質、僕とルピィだけで胴上げしている事になる……!

 胴上げとしてはかなり危ういと言えるだろう。

 対象がフェニィでなければ、身体にかかる負担を心配するレベルだ。

 そして僕とルピィだけでは悔しいかな、ジーレの時ほど高く上げる事が出来ない……。


 ――よし、ここはアレでいこう。

 公平にジーレと同じ回数分の胴上げを終えて、いざフェニィを受け止めるという段になった時、僕はルピィたちに「任せて!」と合図を送る。

 訝しそうにしながらも、距離を取る皆――落下してくるフェニィ。


 そして僕は、右腕でフェニィの両肩を、左腕で両膝を受けとめ、全身を使って落下の衝撃を吸収した。

 そう――この形は〔抱っこ〕だ!

 以前、遊び疲れて眠ったジーレを、僕が抱っこでベッドまで運んだ事があった。

 その時、ちらちらとフェニィが僕らを見ていた事を見逃してはいない。


 詰まるところ、不遇な幼少期を過ごしたフェニィにとっては〔抱っこ〕は憧れだったのだろう。

 仲間の希望に応えるのが僕のポリシーだ――この絶好の機会を見逃す訳がない。

 本人が何も言わずとも、その意思を汲み取ってあげるのは当然の事なのだ。

 そしてこれで、ジーレより胴上げが低かったことの埋め合わせにもなる。

 ――まさに一挙両得というわけだ……!


「…………」


 僕の腕の中で、フェニィはどうしたら良いのか分からないように慌てている……面白い反応だ。

 なんだか興味深いので、もう少し見てみようと思ったが――


「――アイス君、いつまでやってんの?」


 ルピィの鋭く突き刺すような言葉に、僕の方が慌ててフェニィを下ろした。


「ずるーい! フェニィちゃんだけお姫様抱っこしてる〜!!」


 ジーレも騒ぎ始めた。……たしかに、お姫様抱っことも言える形ではあった。

 無言のセレンも、言葉より雄弁な冷たい視線で僕を追い立てている。

 なぜかレットは、見ていられないとばかりに顔を背けている。

 ……気が付けば、あっという間に皆が敵対的になっているではないか。

 だが、こんな事はよくあることだ――僕は慌てない。


「皆、ルピィの言う通りだ。いつまでもこんな事をやってる場合じゃない。ここは戦場なんだ――気を引き締めよう!」

「お前がそれを言うのか……!」


 すかさずレットが突っ込んでくるが、もちろん無視だ。

 レットだけではなく全員を無視して僕は続ける。


「ちょうど炎術の火も消えたことだから、僕がまた交渉してみるよ!」


 今や軍勢から敵意を感じない。

 むしろ、仲間たちから僕に向ける敵意の方が強い……!




明日も夜に投稿予定。

次回、九五話〔戦勝記念〕

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