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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 終焉への始まり

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九三話 開戦

 ナスル軍がポトの街を発ってニカ月。

 ついに僕らの眼前には軍国の軍団が現れていた。

 僕らは先行しているので、この場にいるのは僕の他に、ルピィ、フェニィ、ジーレ、セレン、レット、そしてマカだけだ。

 たった六人と一匹だけで、総勢一万もの第四軍団を前にしている訳だが、僕らの間に緊張は無かった。

 ……ちなみにレットは護衛として残ってもらう予定だったが、娘を心配するナスルさんの強い希望でこちらに参加している。


「こうして見ると凄い人の数だね……まずは僕が呼び掛けてみるから、今度こそ誰も邪魔しちゃ駄目だからね」


 僕が交渉を試みると、かなりの確率で仲間たちが横槍を入れるのだ。

 経験でそれが分かっている僕は、皆にしっかりと釘を刺す。


「ふふっ〜、ムダだと思うけどね。アイス君がやりたいならやってみなよ」


 第四軍団の進路に立ちはだかっている僕らの存在には、軍団側も気付いている。

 僕の耳にも、軍国兵士たちのざわめく声が聞こえてきているのだ。


『お、おい、あれアイス=クーデルンじゃねぇか?』

『あのバケモンが生きてたって噂は本当だったのか……?』


 王都の軍団だけあって、僕の顔を見知っている人間も多いらしい。 

 僕の悪いイメージが抑止力になっているのか――たった六人を前にして、軍団は足を止めている。

 僕の顔を見ただけで兵士が臆病風に吹かれている事実には傷付いてしまうが、この場合は好都合だ。

 ――そもそも一般兵士の戦意は高くないのだ。


 全ての富が王都に集中している将軍のやり方は、王都こそ豊かだが地方都市では重税に苦しんでいる。

 地方出身の兵士ほどナスル王に共感する人間が多い――そして、軍団の半数は貧しい地方出身なのだ。

 王都生まれ王都育ちの人間は、生活こそ不満が無いかもしれないが、武神の息子である僕の評判を知っている。

 結果として軍団では、僕らへと積極的に敵対したい人間は少ないという訳だ。


 そんな事情から軍団が逡巡している今こそ、絶好の対話のチャンスなのだ!

 僕は〔風術〕を使って、軍団全体に声を届ける。

 風術は滅多に使うことが無いが、こうした機会にはとても便利なのだ。


「――お久しぶりの方も初めましての方も、こんにちは。僕はアイス=クーデルンです。僕らは無益な争いを望んでいません、皆さんもナスル軍に加入しませんか? そして僕らと一緒に、将軍を打倒しましょう……!」


 よし、完璧だ。

 これで僕の悪評も収まって、明日からは〔平和の伝道師〕アイス=クーデルンと呼ばれるようになるはずだ……!

 第四軍団内には、動揺が波紋のように広がっている。

 この流れなら、もしかして……と思っていたが、野太い男の声に冷水を浴びせかけられた。


「――オタオタしてんじゃねぇぞ腰抜け共がっ! カルドのガキが来てんならちょうど良い。莫大な懸賞金が掛かっていたはずだ。軍団長の俺様が独り占めにしてやんよ!」


 そう言い放って一人で前に出て来たのは、神持ち――軍団長のようだ。

 ……というか、僕には莫大な懸賞金が掛かっていたのか。

 武神の息子が反乱軍にいるのは、将軍にとって面白くない事実だからだろうか?

 巷では僕は〔神持ち〕という事になっているらしいし、その辺りも懸賞金が高い一因なのだろう。

 ナスルさんからも「アイス君も神持ちという事にしておいてくれたまえ」と言われているので、強いて否定はしていないのだが……まるで僕が嘘吐きのようだ。


 ――しかし第四軍団の軍団長だが、見たところ戦闘系の神持ちではない。

 戦闘系でなくても、僕やレットのように研鑽を重ねて強くなるケースもあるが、そのように鍛えられた雰囲気も無い。

 これが軍団長とは、軍国は人材不足なのだろうか……?


「お前らジャマすんじゃねぇぞ! アイス=クーデルンは俺様一人で殺るからよ!」


 わざわざ投降を呼び掛けたというのに残念な事だ。

 まったく、なんて暴力的な人なんだろう……こうなれば仕方が無い。

 僕は声を掛ける――


「――ジーレ、フェニィ、よろしくね」

「うんっ。任せて。――――えいっ!」


「おぶぅぉっ……!」


 軍団長は無様に地面へと叩き付けられた。

 ……ふむ、さすがは神持ちだけあって、重術で即死とはいかないようだ。

 だが、重術に捕まった時点で命運は尽きている。

 まだ、フェニィが残っているのだ――


 ――ドゴォーン!


 無言で手を(かざ)すフェニィから炎術が放たれた。

 軍団長が倒れていた場所には、雲まで届く火柱がそびえ立っている。

 ……疑うまでもなく、即死だろう。


 この連携は、以前から二人に練習してもらっていたものだ。

 発動は速いが威力に欠ける重術と、発動は遅いが絶大な威力を持つ炎術の組み合わせである。

 僕が発案しておいてなんだが――これは、相当エゲつない……!


 軍団長が為すすべなく瞬殺されるのも無理は無い。

 単体でも強力な、神持ちの魔術なのだ。

 これらの長所を組み合わせ、短所をカバーした、神持ち同士の合わせ技が相手では……ただただ火葬されるしかないだろう。


 ちなみに軍団長は僕と一対一で闘うような空気を(かも)し出していたが、もちろん無視だ。

 わざわざ相手に合わせてあげる義理は無いのだ……!


明日も夜に投稿予定。

次回、九四話〔知らしめる戦勝〕

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