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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 終焉への始まり

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九二話 動き出す軍団

「――そうですか、軍団が動きましたか……規模は分かっていますか?」


 ナスルさんの元に顔を出したある日、王都に潜ませている間諜から連絡があったことを教えられた。

 ポトを発って一カ月、進軍前からポトに兵士が集結していた事を考えれば、むしろ軍国の対応は予想より遅いくらいだ。

 ポトに潜んでいた間諜を――ルピィがこまめに狩っていた成果だろうか?


「うむ。第四軍団が出てきているようだ」


 第四軍団。

 たしか二年前に、帝国との争いで軍団長を失って壊滅したと聞いている。

 さすがに二年も経っていれば、軍団も再編成しているという事だろう。


「第四軍団だけですか? 軍団長についての情報はありますか?」

「ああ、第四軍団のみで、兵数は一万と報告があった。……軍団長については、その加護も含めて詳細は不明だ」


 なるほど。どうやら本当に、軍国はナスル軍の情報に疎いようだ。

 なにせナスル軍は日々膨れ上がっていって、今では兵数三万を超えているのだ。……第四軍団単独でどうにかなるものではない。

 なにより僕の仲間の存在――神持ちが複数名いるという事実を知られていないらしいのは大きい。

 仮に軍団長、副団長が神持ちとしても、戦局を決定付ける神持ちの数でこちらが圧倒しているのだ。


「それは実に幸先が良いですね。最悪、軍団長が総出でやって来るケースも想定していたので」


 ――そう、序戦においての最初のハードルは超えた。

 父さんも含む軍団長が一斉に攻めてくるような展開が、最も危惧していたことだったのだ。

 もっともそんな事をすれば、対帝国への備えに問題が生じるので可能性は低いと考えていたが……愚王と名高い将軍のことだから、後先考えずに行動する可能性は捨てきれなかったのである。


「たったそれだけで打って出てくるなんて、こちらの戦力を全く把握してないようですね。……これもルピィがポトの間諜を潰してくれていたおかげですよ!」


 評価されにくいルピィの功績をしっかりとアピールする僕。

 光が当たらない仲間の活躍を知らしめるのは僕の役目なのだ。


「いやぁ……そんなことあるよ〜〜〜」


 いつも通りながら、謙遜をしないルピィが溶けそうな笑顔で反応する。

 だがこれはお世辞では無い。

 軍国の警戒の表れなのか、かつてジーレにちょっかいをかけていたような連中が、あのポトの街には驚くほど潜伏していたのだ。


 驚くべきはルピィの探知能力なのだが…………僕を驚かす為に、突然お店の店主を縛り上げたりするのは止めてほしかった。

 ……僕が慌ててルピィに注意をすると、店主が間諜だと聞かされるのだ。

 ルピィは、素でそんな行動を取りかねないところがあるので心臓に悪い……。

 実際、お店の従業員がバックヤードで、ルピィの事を「男みたいだ」と言っていたとかで、制裁を加えたこともあるのだ……!


「うむ。ルピィさんには随分助けられた、礼を言う」

「ナスル王の為じゃないよ」


 ルピィは素っ気なく冷たい声でナスルさんに返す。

 過去、雇い主であった領主に裏切られた経験があるせいか、ナスルさんにとても冷淡な態度なのだ。


 ――しかしこれはいけない。

 ナスルさんが困った顔をしている。……ついでに護衛のレットも胃が痛そうな顔をしている。

 ここは僕の出番だろう。


「すみませんナスルさん。ルピィは照れ屋なんです」


 僕はそう言いながら、マカにやるようにルピィの顎の下を撫でてみた。

 ――ボゴッ! 殴られた。


「な、な、何すんの、アイス君!」


 マカの機嫌を取るようにやってみたが、ルピィは顔を真っ赤にして怒っている。

 ルピィは気まぐれな猫のようなところがあるので、ひょっとしたら機嫌が良くなるかと思ったのだが……逆効果だったようだ。


「……ホントに、アイス君の行動はボクの予想を超えてくるよ……」


 おお、あのルピィの予想を超えるとは最大級の賛辞ではないか……!


「いや、褒めてないからね……」


 僕の胸中を見透かしたようにルピィが指摘してきた。

 ……相変わらず恐ろしい人である。


 だが僕の犠牲のおかげだろうか、少し重かった空気が弛緩したものに変わった気がする。

 フェニィやセレンが凍えるような目で僕を見ているのは、視界に入れないようにしよう……。


「……とにかく、僕らが一当てしてみます。軍団長が魔術系の神持ちだったりしたら、こちらに甚大な被害が出ちゃいますしね」


〔魔術系の神持ち〕は集団戦との相性が凶悪なまでに良いのだ。

 炎術のような術を敵側に使われたら大惨事になってしまう。

 魔術系の神持ちは珍しいので杞憂に過ぎないとは思うが……珍しいはずの魔術系が、こちらには三人と一匹もいるのだから油断はならない。


 はっきり言ってしまうと、父さんを救う事を無視してしまうなら――王城に炎術を一撃撃ち込めば全部終わってしまうくらいに、魔術系は反則的な代物なのだ。


「うむ……すまないが頼む、アイス君」


 僕らだけを最前線に送り込む事に抵抗を感じているようだが、ナスルさん自身もこれがベストな選択だと理解しているのだろう。

 ナスルさんは苦々しい顔をしながら僕に頼んできた。

 ……ここは僕が気遣いを見せるべきところだ。

 ナスルさんの後ろめたい気持ちを、僕がなんとかしてあげようではないか……!


「お任せ下さい! ジーレも借りていきますね!」


 ナスルさんの娘も一緒に最前線へと連れて行くことで、ナスルさんの気まずい気持ちを解消してあげようという心憎い演出だ!


「えっ!? あ……あ、ああ、分かっ、た……」


 ナスルさんは葛藤の末に、絞り出したような声で了承した。

 僕らの斥候にジーレが同行する時も猛反対していたのだ。……さぞ心配なことだろう。

 だが、今は心配だろうとも、長期的に見れば僕らだけを戦地に送り出す心苦しさから解放されるわけなのだから、将来的にはむしろお得……!

 ジーレが一緒に来るのが嬉しいのだろう、怒っていたルピィもニマニマしながら僕らを観察している。

 ……うむ、我ながら見事な好判断だった。


明日も夜に投稿予定。

次回、九三話〔開戦〕

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