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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 終焉への始まり

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八八話 改造計画

 さて、僕はこれから証拠隠滅――いや、スパイたちの遺体を片付けなくては。

 食堂内は酷い有様なので、天幕ごと移動した方が早いかもしれないな。

 ここが屋外で良かった、まったく僕らは運が良い……!

 だが、僕らが天幕移動を食堂のおじさんに提案すると――


「と、とんでもない! 私たちが片付けておきますので……どうか、どうか、もうお引き取り下さい……!」


 なんて遠慮深い人なんだろう。

 だがここで「はい分かりました」と承諾する訳にはいかない。


「いえいえ、そんな訳にはいきませんよ。僕らがここを汚してしまったのですから。自分たちで汚しておいて、人に後始末を任せるなんて――そんな非常識な真似は出来ません!」


 そう。良識人である僕が、そのようなことを出来るはずもないのだ。


「それにしてもこのスパイたちは……死んでからも人に迷惑をかけるなんて、とんでもない人たちですね!」


 ついでに男たちがスパイであった事を強調して――既成事実化を図る!


「そ、そうですね……」


 食堂のおじさんの顔は引き攣っているが、今はこれでいい。

 既成事実とは小さな積み重ねが大事なのだ。

『なんとなく事実かもしれない』が多くの人々に広まっていけば、ナスルさんの耳に届く頃には純粋な事実となっているに違いない……!

 ――僕らがさくさく天幕を移動しようと動き出した時だった。


「こ、こいつぁ、いったい何が……」


 指無しさんが来てしまった!

 食堂の騒ぎを聞きつけてやって来たのだろう。

 予想よりずっと早い――まだ遺体を処分していないのに。

 なにしろ僕は『殺しません!』と豪語していたのだ。

 あんなに大きな口をきいておいてこの惨状だ……恥ずかしすぎる!


 指無しさんに見られる前に片付けておきたかったが、見られてしまったからには気持ちを切り替えよう。

 何を隠そう、切り替えの速さは僕の長所である。

 ルピィにも『開き直らせたらアイス君の右に出る者はいないよ……』と褒められた事があるのだ。

 指無しさんは来てしまったのだ、計画を次の段階に移行するしかないだろう。


「これはこれは指無しさん、お疲れ様です。ご覧の通り、軍国のスパイたちをガツンとやってやりましたよ!」


 堂々と大声で報告することにより、まるで指無しさんの指示でスパイを処断したかのように周囲に思わせる僕。


「やっぱり、やっちまったんですかい……」


 指無しさんは〔軍国のスパイ〕という単語に一瞬ハッとして、僕の発言の意図を察したようだ。

 そして、どこか後悔しているような、沈んだ声で呻いた。


 ――いけない。

 指無しさんはきっと、自分のせいで人が死んだと落ち込んでいるのだ。

 指無しさんは何も悪くない……ここは僕が小粋なジョークで場を和まそう。

 僕のジョークはいつもルピィに大好評なのだ……!


「ええ、指無しさんに暴力を振るった借りはキッチリ返してもらいましたよ。

 ほら、あちらの人は四分割の〔分割払い〕、こっちの人はぐちゃっと〔一括払い〕というわけですよ!」


 僕の軽快なジョークに、指無しさんはますます沈み込んでいる!

 なぜだろう? ルピィは笑いすぎなくらい笑っているのに……。


 ……そういえばニトさんは、と周囲を見渡して見ると、食堂の隅で嘔吐グループに加入していた。

 相変わらず、ジーレの生産する凄惨な死体が苦手なようだ。


 ――しかし、このままではいけない。

 悲劇を繰り返さない為にも、ニトさんには虚弱体質を克服してもらって、しっかりと指無しさんを守護してもらわねばならないのだ。


「ニトさん、ちょっとよろしいですか?」

「ア、アイスさん、どうしたんっスか……?」


 まだ具合が悪そうなニトさんに、僕は非才の身でありながらも提案をする。


「その、ちょっとしたご提案なんですが、微力ながらこの僕めが、ニトさんの体質改善のお手伝いをしたいと思います」

「――ふふっ、にぃさま。醜態を晒した部下の教育は、私の役目ですよ?」


 僕の提案に言葉を挟んだのはセレンだ。

 厳しいことを言っているように聞こえるが、きっとセレンもニトさんが心配なのだろう。


「うん。じゃあ、僕ら二人でニトさんの力になろうよ!」

「えっ!? いや、俺は……」


 ニトさんが、遠慮しているのか戸惑った声を上げかけるが――


「そういう事ならボクも手伝うよ。面白そうだしね!」

「ジーレもぐちゃっとするよ!」


 続々と僕の仲間たちも協力を表明してくれる。

 唯我独尊な皆がニトさんの為に骨を折ってくれるなんて……ジーレからは殺意しか感じないので遠ざけておこう。


「皆、ありがとう。……うん。皆でニトさんを、軍団長を倒せるぐらいの逞しい人にしてみせようじゃないか!」


 この場の意見は一致した。皆が同じ方向を向いている……!

 だが〔ニトさん改造計画〕の間、指無しさんの護衛が不在となってしまう。


「じゃあ、フェニィには指無しさんの護衛を――」


 ――カッ!

 フェニィの鋭い眼光が僕を貫く!


「い、いや、やっぱりフェニィも一緒にいてほしいな」

「……ん」


 危ない危ない。

 僕としたことが、流れでフェニィに護衛を任せようとするなんて。

 ……皆の気持ちが嬉しくて浮かれていたようだ。

 護衛どころか最も危険人物ではないか……。


「指無しさん、そういう訳なのでニトさんをしばらくお借りしますね。……おっと、心配ご無用。護衛がいなくなるのを心配されてるんですね? 大丈夫です、僕に抜かりはありません!」


 僕はフードから秘密兵器を取り出す。


「マカ。悪いんだけど、指無しさんの護衛をお願いしていいかな?」

「にゃー」


 マカは身体をだらりと伸ばして、やる気が無さそうだ……。

 しかし、最近魔力操作も上手くなってきているし、能力的にも適任なのだ。


「ま、待ってくだせぇアイスさん。わしは別に護衛がいなくても大丈夫でさぁ」


 慌てたように指無しさんが訴える。

 ニトさんを連れていくことには文字通り〔目を瞑って〕同意してくれたが、マカが護衛に付くことには不安を感じているようだ。

 マカとの初対面時、不幸にもニトさんの心臓を止めてしまったイメージが根強く残っているのかもしれない。


「何を言っているんですか指無しさん! あなたは大事な体なんですよ? ちっぽけな存在である僕でさえ、仲間が護衛してくれてるぐらいなんですから。指無しさんに護衛がいないなんてあり得ません!」


 僕ら兄妹は、ナスル軍の広告塔のような扱いなのだ。

 それをルピィやジーレが面白がって僕らの護衛を自称しているのである。

 これを指無しさんの説得に利用させてもらおう。

 だが指無しさんは、ダラけているマカを不安そうに見ながら、あくまでも護衛を否定する。


「ほ、ほら、その子もやりたくなさそうでさぁ」

「大丈夫です。僕には『指無しさんは任せるニャン!』と言っているのが聞こえています! それにこの子は無闇矢鱈と人に危害を加えたりしませんし、傍にいるとピリピリして健康にも良さそうなんですよ!」


 うちのメンバーの中ではトップクラスに安全な存在なのだ。

 ……理由無く人を殺傷するフェニィとジーレが、僕らの平均を大幅に下げているのは否めないが。


「その……アイスさんの手に噛みついてますぜ? それにピリピリって、攻撃されてるのでは……?」


 マカの言葉を代弁した際に、多少の齟齬(そご)があったようだ。

 怒りを主張するように僕の手をガジガジ噛んでいる。

 ――マカは鳴き声を都合良く解釈されるのが嫌いなのだ……!


 まずはこちらの説得が先のようだ。

 ……僕はあの手この手で、マカを宥めがら交渉を行う。

 …………そして、晩御飯をマグロのステーキと約束することで、ようやくマカの合意を得ることに成功した。


「――んにゃん!」


 ふふ……物に釣られるとは、いやしんぼなヤツよ。


「それじゃあよろしくねマカ。指無しさんに敵対するやつは容赦しなくていいからね」

「…………よろしくお願いしやす」


 指無しさんも諦観したようにマカの護衛を認めてくれた。

 これで万事解決……!


「それでは行きましょうかニトさん。……あ、その前に〔指無し盗賊団〕の神官さんに声を掛けていきましょう。なんでも教国の元上級神官だとかで、優秀な治癒士らしいですね。――これで腕の一本や二本切り落としてもへっちゃらですね!」

「アイス君。せっかくだから、首を落としても蘇生出来るか試してみようよ!」


 ルピィが笑顔で非道な提案をする。

 なんて剣呑な人なんだろう……ニトさんの顔が蒼白になっているではないか。

 そんな蛮行はやらせないぞ……!


明日も夜に投稿予定。

次回、八九話〔被害報告〕

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