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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 終焉への始まり

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八七話 死人に口無し

 (くだん)の男たちがいるという簡易食堂の天幕に近付いていくと、野卑な笑い声が天幕の外まで聞こえてきた。


『げひゃひゃ、なにが指無し盗賊団だ。生意気な口聞きやがるからハッ倒してやったぜ!』


 むむっ。指無しさんたちに暴力を振るったことを武勇伝のように語っている。

 なんてやつだ、これはお灸を据えてやらないと…………いや、いけないいけない。

 僕は口頭で注意しにきたのだ。感情的になってはいけない。

 問答無用で暴力を振るうようではケダモノではないか……!


 念の為、仲間たちにも平和的解決の素晴らしさを説いてから、僕は中へと入る。

 ――僕らが天幕に入った途端、場の空気が緊張に包まれた。


『アイスさんだ……!』『アイスさんを敵に回すとはバカな野郎だ』『あいつ……死んだな』


 食堂内で不穏な(ささや)きが飛び交っている。

 ……ナスル軍での僕のイメージはどうなっているんだろう。

 僕がなにかと指無しさんをサポートしているのは周知の事実なので、報復に来たとでも思われているのだろうか?

 いや、この機会に悪いイメージを払拭すればいいんだ。

 ここは怒りの気持ちを抑えて丁重にいこう。


「こんにちは。……指無しさんたちの件でお話しがあります」


 食堂の緊迫した空気を感じ取っているのか、男には先ほどまでの威勢が消えかけている。

 だが弱そうな僕を見てなんとかなると考えたのか、男は自分を鼓舞するかのように吠えた。


「へ、へっ! なにが武神の息子だ。俺はなぁ――」


 ――ひゅひゅっ。


 男の言葉はそこで終わった。

 突然、フェニィが爪を振るったのだ。

 縦横の十字に切り裂かれた身体が、ぼとぼとと床に散らばる……。

 …………というか、なんでいきなり殺しているんだ!? 

 ちゃんと平和的解決の重要性について語ったばかりなのに!


 そしてなぜ、二回も爪を振るったのだろう?

 縦の一爪だけで即死していたのは明らかなのだ。

 ……ま、まさか、僕が前回の件で〔分割したから運びやすい〕などと言ったから気を利かせてしまったのか……?

 二分割より四分割という具合に……!

 きっと虎視眈々と〔四分割〕を披露する機会を窺っていたに違いない!


 ――しかし仲間の不始末は僕の責任だ。

 僕の発言に原因の一端があるなら尚更である。

 ナスルさんと指無しさんに大見得を切ったばかりなのに、この体たらく……これはまずい。

 二人が危惧していたように、僕らが一般兵を殺すことなどあってはならない事なのだ。


 ……考えろ、考えるんだ。

 何とかして上手くまとめるんだ。

 前回の時と違って、ナスル軍内でもフェニィの凶暴性は有名だ。

 しらを切って素知らぬ顔をするという同じ手は打てないだろう。

 ――よし、こんな時はあの手だ。


「いやぁ、まさかナスル軍に軍国のスパイがいるとは……早く気付いて良かったよ、危ないところだったね!」


 僕はさり気なく大声でこちらの正当性を主張した。

 そう、味方の兵士を殺害するのは問題だが、軍国のスパイならばどうか?

 むしろ「良い仕事をした」という事になる訳だ……!

 この際、真偽は問題ではない。なにせ男はもう死んでいるのだ。

 そういう事にしてしまおう――そう、死人に口無しだ!


『えっ!?』と、困惑したような場の空気を感じるが、ここは押し通すしかない。

 そういえば――指無しさんたちに暴力を働いたのはもう一人いたはずだ。

 よし、気持ちを切り替えて、今度こそ平和的に解決してみせるぞ。

 理想としては、こんこんと暴力の恐ろしさを説くことで悔い改めてもらい、自主的に指無しさんたちに謝罪してもらうのが良い。


 ……そうだ、〔四分割さん〕の死はその為の布石だったんだ。

 四分割さんはその身を持って、暴力の恐ろしさを知らしめてくれたのだ……!

 指無しさんは、自分を殴った相手が素直に謝罪してきたら驚くことだろう。

 これで僕らの平和的解決能力を分かってもらえるはずだ。


「ルピィ、もう一人の人は誰か分かるかな?」

「うんっ。アイツだよ!」


 楽しくて楽しくて仕方がないような顔のルピィが僕に教えてくれる。

 ……まったく不謹慎な人だなぁ。

 四分割さんは亡くなっているというのに、死者を悼む気持ちは無いのだろうか?

 まぁ、良い。今度こそ上手くやってみせる……!


 フェニィが凶行に及ばないように厳重に警戒しながら、ルピィが示した男を見る――ルピィに指を指されたその男は、歯の根も合わないぐらいにガタガタと震えていた。

 そんなに脅えずとも良いのに……僕らは話し合いに来たのだから。


「あ、ああ……ち、ちがう! 俺は、スパイなんかじゃ――」

「――えいっ!」


 ぐしゃっと、男の体が原型を失った。

 ジーレが男を肉片へと変換したのだ……。

 ……会話すら出来なかった。問答無用とはこの事である。

 それにしても酷い、暴虐が過ぎる。もう、有無を言わせずではないか……!


 フェニィといいジーレといい、会話のキャッチボールという概念が無いのだろうか?

 仮にも味方の兵士だという事を忘れているとしか思えない。

 ……だが、やってしまったものは仕方がない。


「やったね! 二人のおかげでスパイは全員やっつけたね!」


 ミンチさんもスパイだったという事にするしかない……!

 僕は勢いのままにフェニィとジーレの頭をよしよしと撫でる――フェニィの頭には手が届かなかったので――背中を撫でる!


 こうして背中を撫でていると、嘔吐している人の介抱をしているみたいだ。

 ミンチさんの凄惨な姿を見て、食堂内ではそこかしこで嘔吐している人がいる――介抱が必要な人は他に沢山いるのだ……!

 だがフェニィもジーレも満足そうな顔をしているので、これはこれで正解なのだろう。


 食堂のざわめきに起こされたのか、マカがひょっこり顔を見せる。

 四分割さんとミンチさんの悲惨な姿を目の当たりにして「ゃぁぁ……」と怯えているような小さな鳴き声をあげてフードに戻る……見なかった事にするらしい。

 賢明な判断だ。

 触らぬ神に祟りなし――フェニィやジーレに至っては、触らなくてもこんな目に遭ってしまうのだから……! 


明日も夜に投稿予定。

次回、八八話〔改造計画〕

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