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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第五部 鳴神

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八三話 超平和的解決

 僕とレットは部屋でのんびりとしていた。

 女性陣は入浴中でここにはいない。


「ふふ……マカ、ちょっとこっちに来てごらん」


 僕の枕の上で(くつろ)いでいるマカに呼び掛けた。

 ……よりにもよって、なぜあんなところに座っているのだろうか?

 マカの白い毛が僕の髪に付くと〔白髪〕みたいになってしまうのに……。


「にゃん」


 特に疑問を持たずに僕のところにやってくるマカ。

 よしよし。僕がこっそり練習した成果をマカに披露して、びっくりさせてあげよう。


「いくよ……それっ!」

「にゃぁァヅヅ!」


 マカは僕の雷術を受けて痺れている!

 よし、使えそうな術だと思って僕も練習していたのだ……って、あれ? 

 なんでマカに雷術が効いているんだろう……?


「ご、ごめんね……マカには効かないかと思ってたよ」

「にゃあっ! にゃあっ!」


 マカは怒って僕の体をぽかぽか叩いている。

 爪は出していないので痛みは無いのだが、申し訳ないことをしてしまった。


「おいアイス、マカを虐めてんじゃねぇよ……」


〔マカを守る会〕の副会長であるレットに叱責されてしまった。

 会長の僕がこんなことを言われてしまうなんて……なんたる失態だ!


「まぁまぁ、落ち着いてよマカ。……そうだ。お詫びの印に明日の朝、魚市場に連れていってあげるから。朝ごはんはマカの好きなものを何でも作るよ?」

「にゃ? にゃにゃにゃああ、にゃ」


 マカの興味を引いたらしい。

 一生懸命に自分の希望を伝えているようだ。

 だが、僕らには――言葉の壁があるのだ!


 残念ながら、マカが何を伝えたいのかさっぱり分からない。

 ……かくなる上は、あの手でいこう。


「……よし、分かったよ。〔サバの味噌煮〕が食べたいんだね!」

「ニャーッ!!」

 

 知ったかぶりをして適当な事を言ったら、激しい怒りを買ってしまった。

 マカはガブガブと僕の腕に噛みついている。

 ……どうやら雷術を浴びせた時より怒っているようだ。

 自分の言葉が曲解されるというのは、かくも許しがたいことなのか。

 さりげなく――僕の食べたい物を選択したのが失敗だったかもしれない……!


「アイス……お前というやつは」


 レットは呆れた目で見てくるが、この噛みつき攻撃は意外と痛いので、マカを宥めるのに協力してほしい……。


 ――――。


「――にゃぁ〜〜」


 マカはご機嫌だ。

 日も昇らぬ早朝、僕は約束通り魚市場に来ていた。

 仲間の皆を起こさないように気配を殺して部屋を出てきたが、野生児のフェニィには察知されてしまったので、この場には僕とマカとフェニィがいる。


「おっ、アイスちゃんおはよう! 今日も早いね」

「おはようございます、今朝も冷えますねぇ」


 市場のおばさんに声を掛けられたので、愛想良く返事を返す。

 僕は普段からここの市場を利用しているので、すっかり顔馴染みなのだ。

 ……それというのも、ナスル城での仲間の食事は、二回に一回くらいは僕が作っている事が要因にある。


 ナスル城には専属の料理人がいるので、僕が厨房を借りて料理をするのは失礼にあたるのだが、仲間の要望とあらば止むかたなしだ。

 ルピィやフェニィは、旅の長い間、僕の料理を食べ続けてきたせいか、専属料理人の料理より僕の料理を好んでくれているのだ。


 もっとも、あちこちを旅してきた僕は――数多の有名な料理店の味付けを参考にして、自分の料理に研鑽を重ねてきている。

 だから、生半な料理人には負けない自信はあるのだ。


 ロブさんにご馳走した時には「ココノメシヨリ、ウメェジャネェカ!」と褒めてもらったりもしている。

 ……すぐそばに城の料理人がいたので、褒められて嬉しいよりは、気まずい気持ちの方が強かったのだが。


「アイスちゃん、その猫はどうしたの?」


 おばさんが(いぶか)しむのも当然だ。

 初めて訪れる市場に興奮しているのか、天敵である女性たちがいないせいなのかは分からないが、マカは――いても立ってもいられないように、僕の肩や頭をしきりに登り降りしているのだ……。

 ……頭の上に猫を乗せていれば、道行く人に奇異の目で見られることになるが、そんな事は僕には気にならなかった。

 なぜなら――そんな目で見られることは慣れているからだ!


 朝の市場には、フェニィと二人で行くことが度々あったが、なにせサザエの壺焼きを殻ごと食べるようなフェニィなのだ。

 常識を超越した行動の数々は人々の注目を集め、僕の精神力を鍛えている。

 だから今更、この程度のことで動じたりはしない。

 市場の人も僕とマカを見て「えっ?」と一瞬驚くが、僕の顔を確認して、何かを納得したような様子なのだ……!


「――この仔猫、マカは新しい仲間なんですよ。こう見えて神獣なんですから!」

「またまた、アイスちゃんは冗談ばっかりなんだから〜」


 むぅ、全く信じられていない。

 だが下手に警戒されるよりはこの方が良いのかもしれない。

 ……僕はおばさんに別れを告げ、市場探索へと移行した。


「んにゃ、にゃにゃ!」


 僕の耳元で騒いでいるマカを先導に、露店の浜焼きをあちこち買い巡る。

 ――もしかして、朝食の食材を買いに来たことを忘れているのだろうか?

 露店での買い食いにはフェニィも満足そうにしているが、ここでお腹いっぱいになると、城に戻った時にルピィたちから怒られてしまうので気をつけよう。

 間食はよいが、ちゃんとした食事は仲間全員で取るべきなのだ。


 それが起きた時、僕とフェニィはイカの串焼きを食べていた。

 マカは首を伸ばして僕のイカ焼きを齧っている。

 食べこぼしが僕のローブをイカ臭くするのではないか? と心配していると――遠くから怒声が聞こえてきたのだ。


「――国の為に戦おうっていう俺から、金を取ろうってのか!!」


 ならず者が露店のおじさんに絡んでいるようだ。

 ナスル軍決起の日が迫り、ポトには血の気の多い男たちが集まってきている。

 その中にはああしてトラブルを起こす者も少なくないのだ。

 もちろん――困っている人を見過ごす訳にはいかない!


「お待ち下さい。タダで商品を持っていこうとは不届き千万ですよ」

「ア、アイス君……」


 露店のおじさんは僕の顔を見て、ホッとしたような顔になる。

 僕の顔を見て安心されるなんて……こんなに嬉しいことはない。

 ナスル城の人たちではあり得ない反応なのだ。


「ガキが! 邪魔するんじゃねぇ、ブチ殺すぞっ!」


 盗っ人猛々しいとはこのことだ。

 これは殺害予告ということで、殺し返しても怒られないだろうか?

 いや、露店を血で汚すのは迷惑だ。……そして悩んでいる猶予は無い。


 なにせ男の怒気に反応して、マカがビリビリと電気を発し始めている――僕の身体も痺れ始めている!

 フェニィは今にも魔爪を抜き打ちしそうだ――衛生所の抜き打ち検査より大騒ぎになりそうだ!


「――――ぎぇ!」


 マカとフェニィに介入する間も与えずに、僕は無頼者を気絶せしめた。

 さて、ここまでは良いが……僕は気絶した男を前に考える。

 ここは狭い露店街だ。男を寝かせて置く場所は無い。

 だが、わざわざイージスの詰所まで運ぶのも面倒だ――僕らは買い物の途中なのだから!

 よし――ここはフェニィの新技の出番だろう。


「フェニィ、()()をお願いしていいかな?」

「……いいだろう」


 きらん、とフェニィの目が光る。

 ようやくこの時が来たとばかりにヤル気に燃えている。

 僕はフェニィが新技の使用機会を待っていたのを知っていたのだ。

 なんだなんだ、と市場の人たちが周囲に集まりだす。

 ……ギャラリーも揃ったことだ、刮目して見るといい!


 僕が指定した地面に、フェニィが手を(かざ)す――


 ――ボゴッ!


 くぐもった爆発音と共に、地面から蒸気がもうもうと沸き上がる。

 蒸気が少なくなってきた跡には、人間一人分くらいの縦穴が存在していた――そう、これは炎術による掘削だ。

 これは、成功しているのでは?

 そう思いながら……気絶した男の手を掴んで、縦に収納していく――


「――ピッタリ……ピッタリだよ、フェニィ!!」


 両腕を上げた姿勢の男が、ぴたりと縦穴に収まったのだ!

 まだモコモコと蒸気が出ていることもあり、まるで蒸し焼きにしているようではないか……!


「……当然だ」


 そう言いながらフェニィは得意げだ。……それにしても凄い。

 目視しただけの男の高さ、幅が、ぴたりとハマっているのだ。

 男は目を覚ましても、腕一つ動かせないことだろう。

 そして更に――男の指先が見える穴の上に露店のカゴを置いてみる。


「おじさん、バッチリですよ! これでイージスが駆け付けてくるまで営業に支障がないですよ!」


 地面に寝かせたままだったならば、著しい営業妨害となったことだろう。

 だが今はどうだろう……?

 男は視界から消え、何事も無かったようになっているではないか!


「あ、ああ……ありがとうアイス君。君は涼しい顔をして凄いことをするね……しかし、まるで私の店が死体を隠ぺいしているようだが」

「ご安心下さい。ちゃんと帰り際にイージスの詰所に寄って、説明していきますので」

「そうかい? ありがとう、助かるよ。信じがたい顛末だが、アイス君の言葉なら納得してくれることだろう」


 特に不思議な事は無かったはずだが……まぁ、いいだろう。

 こうした草の根運動で、僕らの評判をどんどん上げていきたいものだ。

 もうナスル城の無駄飯食らいなんて呼ばせないぞ……!


 だが気のせいか、市場の人たちが僕らから距離を広げているような……?

 ――いいや、気のせいだ。

 今回の僕らは一滴の血も流すこと無く〔超平和的解決〕を成し遂げたのだから!


明日の夜の投稿で、第五部は終了となります。

次回、八四話〔未来の展望〕

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