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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第五部 鳴神

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七八話 脅される仔猫

 友好的な雰囲気になりつつあった仔猫が、女性陣の発言を受けて「ぐるる……」と唸り声を出す――その身体からはバチバチと火花が散っている。

 これは……()()

 もしかして、〔雷神の加護持ち〕なのだろうか?

 戦闘寄りの強力そうな加護だが――まずい。


 彼女たちに攻撃する口実を与えてはいけない。

 餌を前にした飢えた獣より危険なのだ。 

 待ってました、とばかりに瞬殺されてしまう……!

 案の定――仔猫に敵意を向けられた女性陣は、不敵な笑みを浮かべ、歴戦の猛者をも震えがらせるような殺気を仔猫に照射する。


「ぅゃ……」


 仔猫は激烈な殺気を浴びて、消え入りそうな鳴き声を上げている。

 この世に生を受けて、これほどの命の危機を感じたのは初めてなのだろう。

 仔猫はすっかり戦意を消失したように固まっている。

 ……だが、弱っている相手にも容赦しないのが、僕の仲間たちだ。

 仔猫に向けて、追い詰めるようにゆっくりと歩を進めていく……。


「――待って! この子の命は……命だけは助けてください」


 僕はすかさず仔猫の前に立ち、両手を広げて仲間を制止する。

 まるで盗賊に襲われた親子が、子供の助命嘆願をするように必死で懇願した。

 少し芝居がかっているぐらいでちょうどいいのだ。

 とにかく、この殺害ムードを払拭しなければならない……!


「まるでボクらが悪者みたいだね……。でもアイス君、その神獣はよくない魔力も垂れ流しにしてるし、街中に連れてなんかいけないよ?」


 これはちょっと痛いところを突かれてしまった。

 そうなのだ。フェニィやセレンに近い魔力を有しているこの神獣は、このまま街に連れて行けば、多くの人々に迷惑をかける存在となるだろう……。


「……僕が責任持って魔力操作を教えるから。……魔力操作、覚えてくれるよね?」


 仔猫に向かって語りかけると――仔猫は固まった身体を強引に動かすように、小さな首を縦に何度も振った。


「ほら、ちゃんと覚えるって言ってるよ」


 僕は仔猫の弁護士になったかのように、正当性を主張して断罪回避に努めた。


「にぃさま。魔力操作を一朝一夕で会得出来るとは思いません。温泉はどうするのですか? その畜生一匹の為に、諦めるのですか?」


 セレンが冷たい指摘をする。

 しかし畜生って……セレンは猫が嫌いなのだろうか?

 いや、セレンも温泉を楽しみにしているが故の厳しい指摘なのだろう。

 ……だが、これに関してはちゃんと考えがある。


「それなら心配無いよ。……ほら、おいで」


 仔猫をひょいと持ち上げ、僕のローブのフードに入れる。

 小さな仔猫は抵抗することもなく、大人しくすっぽりとフードに収まった。


「僕と身体が接触していれば、僕の魔力でこの子を包むことが出来るからね。魔力操作に慣れるまでは、僕と一緒にいれば良いんだよ」


 僕の機転に反論の声は止んだが、まだ名残り惜しそうに、なんとか討伐の流れに持っていけないか、と考えているように見える……。

 なぜこの人たちは、これほど殺害にこだわるのだろう。

 血も涙も無いとはこの事だ。

 ――不意に、ルピィがぼそりと呟く。


「神獣か……以前に食べた神獣って、美味しかったよね」

「……」


 ルピィの言葉に、フェニィが測るような瞳で仔猫を見ている!

 完全に食糧を見る目だ……!

 仔猫は、びくっと体を固くして視線から逃れるようにフードの中で丸くなる。

 ――なんて連中だ。

 こんなに可愛い仔猫を見て、愛でるどころか、食べる事を考えるなんて……。


「ふふっ……冗談だってば、アイス君焦りすぎだよ」


 いや、少なくともフェニィの猫を観察する瞳は本気だった。

 僕には分かる……!


「……まったく、アイス君はワガママだなぁ~。じゃあ、退治するのは保留ってことにしとくよ」


 なぜか僕が我儘を言っていることになってるが、この際それでも構わない。


「うん。僕が責任を持って、この子を立派な神獣に育てるよ。戦闘向きの加護を持っているし、泣く子も黙る武闘派の猫にしてみせるよ……!」


 僕は高々と仲間たちに宣言した。

 フードの中から「にゃっっ!??」と、戸惑ったような鳴き声が聞こえてきたが、きっと気のせいだろう。

 むしろ「やってみせるニャ!」という、決意表明の声だったはずだ!


「そうなると、名前を付けてあげないとね……よし、君は女の子だから『マカ』にしよう」


 先ほど腹を見せて寝ていた時に、オスメスは判別済みだ。

 野良猫に勝手に名前を付けるのは無礼なことだが、この子はもう仲間なのだから遠慮はいらない。

 名付け親として、あらゆる外敵から守ってあげるとしよう……具体的には、目の前にいる女性たちからだ。


「マカね。どっちかと言うとオスっぽい名前だけど、アイス君にしては、まともな名前だね」


 ルピィが失礼なことを言う。

 まるで僕の感性がおかしいみたいな言い草だが、この面子では間違いなく僕だけが正常な感性を所有しているはずだ。


「君はどうかな? 『マカ』で良いかな?」

「にゃぁ~~」


 よし、この子も満足そうだ。

 マカは行動でも同意を示すように、僕の肩に飛び移って座り込む。

 顎の下を撫でてあげると、心地良さそうに目を細めている……可愛い。


「……やはりその畜生は、殺すべきでは?」


 穏やかな空気をぶち壊すように、セレンが物騒な発言をする……!

 マカはぶるりと身体を震わせると、慌てたように僕のフードに飛び込んだ。

 すっかりセーフティスポットのようになっている……。


「駄目だよセレン。この子はもう僕らの仲間だからね。……もしかして、嫉妬してるのかな?」


 僕はよしよしとセレンの頭を撫でてあげる。


「……違います」


 セレンは否定しながらも、僕の手を払い除けようとはしない。

 なんだかセレンも猫みたいで可愛いな、と撫で回していたら……他のメンバーの視線に圧力を感じ始めた。


「そ、それじゃあ、マカも仲間になったことだし、予定通り温泉に向かおうか」


 僕は逃げるように馬車に乗り込んだ。

 静けさに包まれた馬車にはレットが寝ているだけである。

 ……うん、レットのこともマカに紹介しておくべきだろう。


「この気絶しているように寝ているのがレットだよ。きっと僕と同じようにマカを守ってくれるはずだからね。さっきの人たちに襲われたら、僕かレットのところに逃げるといいよ」


 僕と同様に、レットも頼もしい庇護者となってくれるはずだ。


「にゃぁ……」


 マカは不安そうな鳴き声で返事を返した。

 ふむ。庇護者と言いつつ、レットがやられて気絶しているような様子なのが、マカを不安にさせてしまったのかもしれない……これはタイミングが悪かった。


明日も夜に投稿予定。

次回、七九話〔危機一髪温泉〕

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