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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第五部 鳴神

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七七話 襲われる仔猫

 大きな岩の上には、腹を見せて寝そべっている仔猫がいた。


「――うん。あれは神持ち、神獣だね。魔力の質からするとフェニィに近いし〔魔術系の神持ち〕だと思うよ」

「相変わらずアイス君は便利だね~。……さて、それじゃあボクが退治するよ」

「……私がやろう」

「ここは私が片付けましょう」


 なぜだろう、皆の戦意が非常に高い……!

 僕らを見ても逃げ出そうともせず、のんびりとお腹を舐めている仔猫に苛立ちを感じたのだろうか?

 これは神持ちとして他者を舐めきっているからなのか、ただの猫の習性からくるものなのかは分からないが、こちらを小馬鹿にしているように見受けられるのは確かだ。


 純粋な見た目だけなら神獣とは思えない。

 どこにでもいそうな、綺麗な白い毛並みの仔猫である。

 ……だが、魔力の質がフェニィに近いだけあって、じくじくとした圧迫感のある魔力を小さな身体から放出している。

 まだ幼い仔猫ではあるが、幼いこの段階であっても常人にとって脅威となることだろう。


 ――しかし、僕の仲間は勘違いしている。

 当初の計画を失念してしまったのだろうか?


「皆、待ってよ。まだこの仔猫は何もしていないだろ? まずは話し合いを――」

「――えいっ」


 ジーレが可愛らしい掛け声とともに、仔猫に手を(かざ)した。


「ぶみゃぁっ……!」


 まるで重い物を上に乗せられたかのように、仔猫が押し潰される。

 …………というか、なんでジーレはいきなり攻撃しているんだ!


「こらっ! 駄目だろジーレ。まずは話し合いから、って言ったじゃないか」


 僕はジーレを叱った。

 ジーレは、なぜ自分が怒られたのか分からない様子で弁明する。


「だ、だって、よく分からない相手はまずこちらから攻撃しないと……」


 なんなのだ、その攻撃的な思考は……テングレイ家の教育方針なのか?

 ――おっと、こんなことをしている場合ではない。


 僕は小さな身体をぴくぴくさせている仔猫に駆け寄る。

 ふむ、骨が何本か折れているようだが……命には別状なさそうだ。

 僕は治癒術を行使して仔猫の治療を行い、通じるかどうか分からないままに仔猫に謝る。


「ごめん、ごめんね……酷いことをするつもりはなかったんだ」

「ふしゃーーっ!!」


 それはそれは警戒していた。

 治療を終えて動けるようになった瞬間、僕から距離を取り、尻尾を逆立てて威嚇している。

 ……自己満足にしかならないのでやらないが、土下座して謝りたい気分だ。


 ――この状況を打開する為には、切り札を出すしかない。

 僕は懐から秘密兵器を取り出した。

 封を開けた途端に広がる、濃密な魚の香り――そう、〔カマボコ〕だ!

 それも今朝水揚げされたばかりのタイを使用して作った、僕自慢の逸品なのだ!


 神獣が〔猫〕と聞いて、持参していたタイをカマボコに仕立てた判断は正解だったはずだ。

 カマボコなら柔らかくて仔猫にも食べやすいだろうし、なにより猫は魚が好きと聞く。この魚の旨味が凝縮されたカマボコなら、仔猫も病みつきになること請け合いだ。


「お詫びと言ってはなんだけど、これをあげるよ」


 僕はそう言いながら、特製のカマボコを近くの石の上に置いた。

 仔猫は鼻をひくひくと動かし、カマボコに興味を持ったようだが、警戒して近付いてこない。 


 僕は毒が入ってないことをアピールする為に、カマボコをもぐもぐと食べる。

 うん、プリプリした食感でとても美味しい。

 ……なぜかフェニィも、カマボコをもぐもぐ食べている。

 僕が食べているのを見て、触発されたのだろうか……?


 猫は少しだけ距離を詰めたが、まだその距離は遠い。

 そこで僕は皆に合図して、全員で数メートル後ろに下がる。

 猫は更に距離を詰めて……僕の眼を探るようにじっと見詰める。

 僕は敵意が無いことを知らせる為に、ゆっくりと目を瞑った。


 …………しばらくして眼を開けると、石の上のカマボコは姿を消しており、遠く離れたところで仔猫がむしゃむしゃとカマボコを食べていた。


 ――よし。

 ファーストコンタクトは成功だ……僕の中でジーレの蛮行は無かった事になっていた。

 ここからが交渉の開始だ――


「良かったら、これから僕らと一緒に行かないかな? 毎日美味しい食事を約束するよ。ここにずっといると悪い人間に襲われたりするし、悪い話ではないと思うんだけど……」


 ここでは寝ていただけで全身の骨を折られる事だってあるのだ!

 ――仔猫は潜考しているかのように動きを止めている。

 もしや、と思っていたが、やはり僕の言葉を理解しているようだ。

 旅人が会話をしているのを聞いて、言葉を覚えたのだろうか?

 問答無用で襲ってきた神獣〔サケ〕とは違い、この仔猫の瞳には理知的な輝きがある。

 だが――野生動物より理性がないのが僕の仲間たちだ。


「もう面倒だし、退治しちゃっていいんじゃないかな~?」

「畜生の分際で、にぃさまに無礼な態度ですね……私が殺しましょう」

「ダメだよー! ジーレがやっつける約束だも~ん」 


 あぁ……なぜ僕の仲間たちは、これほど好戦的なのだろう。

 これほど愛らしい仔猫を愛でようという気持ちが、微塵も感じられない……女性は可愛い物が好きだというのは、ただの俗説だったようだ。

 ……フェニィだけは、神獣よりカマボコに興味が移ったらしく、マイペースにもごもごしているが。

 こんなことなら気絶しているレットを覚醒させて臨むべきだった……。


明日も20:30頃に投稿予定。

次回、七八話〔脅される仔猫〕

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