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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第五部 鳴神

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七六話 プロポーズ

「――ちょっと~、ナスル王のとこに交渉に行くんだったら、ボクにも声掛けてよね。アイス君がナスル王を困らせるところ見たかったのに~」

「僕はナスルさんを困らせた事なんか無いよ。……それにルピィはナスルさんに失礼だから、あんまり連れて行きたくないんだよね」

「いやぁ……ボクはアイス君ほど失礼じゃないと思うよ」


 僕らは温泉地〔ビズ〕に向かう途上の馬車にいた。

 馬車を借りる為の交渉に赴いた件で、なぜかルピィにクレームを入れられている最中である。


「ねぇレット君。どうせまた、アイス君がナスル王を追い詰めてたでしょ?」

「…………」


 レットは無言だ。

 レットは嘘を吐くことが嫌いなので、都合の悪いことは沈黙を答えとすることが多いのだ。

 なぜルピィに正直に説明してくれないのだろうか?


「――ルピィさん。途中の街道で神獣が出没する、とのことでしたが……どういった神獣か分かっていますか?」


 拮抗した空気を変えるように質問したのはセレンだ。

 そういえば神獣については僕も詳しく聞いていなかった。


「ナスル軍に加入する為にやって来た人たちから聞いたんだけど、どうも〔猫〕らしいね。それも、生後半年経過してないような仔猫らしいよ」

「仔猫……? よく神獣って判断できたね?」


 神獣の判別は一般的には難しくない。

 極端に大きな魔獣がいれば、ほぼ神獣と考えて間違いないからだ。

 だが、生後間もない動物となると話は別だ。

 神獣として大柄な肉体を持っているとしても、元が幼体ではたかが知れている。


「ふふ……ボクを誰だと思ってるの? 最初に、旅人の食糧が見えないくらいの速さで奪われた、って聞いた時は、速度特化の魔獣かと思ったけどさ。情報を集めれば集めるほど……それだけじゃ腑に落ちない所が増えていったんだよ」


 新しい情報になればなるほど、仔猫の行動は大胆になっていってるらしい。

 このペースでは、人間を(くみ)(やす)いとみて直接襲い出すのも時間の問題だろう。


「人間をエサにしてないだけ、まだこちらに引き込める余地はありそうだね。

 あくまでも僕らに敵対するようなら、ジーレに討伐してもらおう」

「うんっ!」


 ジーレの重術は、物体ではなく座標指定の術なので、素早い相手とは相性が悪いのだが……僕が鍛えたジーレならやってくれるはずだ。

 これでジーレが将来〔お見合い〕なんかをする時には、輝かしいアピールポイントが出来るわけだ――経歴書に堂々と記載出来てしまう!

 神獣ハンターともなれば、結婚相手は引く手あまたのはずだ……!


「――うんうん。これでジーレの結婚も安心だね」

「ち、ち、ちょっと!! なんでそこで、唐突にジーレちゃんの結婚が出てくるの!?」


 焚き火にガソリンを投げ入れたような激反応を示したのはルピィだ。

 ……いや、よく見ればフェニィやセレンの目も据わっている。


「何言ってるんだよ? 神獣狩りの経験が有れば、誰だって放っておかないだろ? 神獣ハンターって、もう響きが格好良いじゃないか」

「いやアイス、お前が何を言ってるんだ……放っておかないのはハンター協会ぐらいだろ」


 ズレたところがあるレットが的外れな意見を述べる。

 レットは常識人だが、恋愛観が変わっているのだ。


「……ア、アイス君は、神獣が狩れるような女の子が好きなの?」

「それはそうだけど……僕はそんな贅沢が言えるような人間じゃないからね。

 むしろ『毎日神獣を狩ってくるので結婚してください!』ってお願いする立場だよ」

「なんだそのプロポーズは……そんなの誰が受けるんだよ。すげぇ血生臭そうだしよ……」


 やはり感性がおかしいレットが異を唱える。

 神獣を狩れるということは――強い女性であるという事だ。

 結婚した相手に先立たれるのは耐えられない。

 僕より先に死なない〔強い女性〕というのは必須条件である。

 そして、相手も同様にそう考えるはずなので、先のプロポーズは最高の殺し文句なはずなのに、レットときたら……


「まったく、レットのセンスはどうかしてるよ。……なんだったら、皆にも意見を聞いてみようか? 結婚の誘い文句として、皆はどう思う?」


『い、良いんじゃないかな』『……悪くない』『嬉しいよ~』『許容できますね』


 やはり女性陣の意見は肯定的だ。

 これでレットは――ぐぅの音も出まい!


「いやいやいや、それはアイスが相手だからだろ。皆、アイスのこと――」


 ――ゴンッ! 


 何かを言いかけたレットは眉間に攻撃を受けて倒れる!

 ……これは小石? 指弾で飛ばしたのか? 

 油断していたとはいえ、レット相手にこんな事が出来そうなのは……ジーレ以外の全員だ!

 皆はそっぽを向いているが、犯人はこの中にいる……!


 会話をしていただけなのに、なぜこんな事に……。

 自分と意見が異なっているというだけで、こんな文字通りの意味で言論の〔弾圧〕が行われるなんて、許されて良いのだろうか?

 民主主義とは何処にあるのだろうか……?


明日も夜に投稿予定。

次回、七七話〔襲われる仔猫〕

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