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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第五部 鳴神

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七五話 朗報

「――アイス、本当に俺がこんな高い物もらっていいのか?」

「全く問題無いよレット。僕のお金じゃなくて、ナスルさんのお金だしね」

「それ、余計に問題じゃねぇか……」


 そう、僕はレットの分の魔昌石も購入していた。

 ナスルさん受けのいいレットを巻き込む事によって、ナスルさんからの非難を緩和しようという思惑もある……。


「そのネックレスには、もう僕の魔力も込めてあるからね」


 僕がルピィ君に苛烈な折檻を受けたあの日、フェニィがおもむろに魔昌石の指輪を僕に渡し、「アイスの魔力を入れてくれ」と言い出したのを皮切りに、ボクも私もジーレもと、結局、全員分の魔昌石に僕が魔力を込めることになったのだ。

 さながら複数の卵を温める親鳥のようになってしまったので、ついでにレットの分も魔力を込めておいたという訳である。


「それに、そのネックレスは僕とお揃いなんだよ、ほら」


 僕は胸元からネックレスを取り出して、レットに見せてあげた。

 ――そう、僕の分もしっかり購入したのだ。

 これは仲間との結束を高める為であって、仲間外れが嫌だったわけではない。


「ますます貰いづらくなったぞ……セレンちゃんたちに恨まれそうだしよ」

「なんで? それにセレンも皆も、指輪が良いって言ってたよ。そんなことより、これからナスルさんの部屋に行くんだから、もっと魔昌石をよく見えるようにアピールしてよ。……あ、でも魔昌石の件でお礼言ったりしちゃ駄目だよ?」


「魔昌石をアピールしておいてお礼を言ったら駄目って、どういうことだよ!?」

「レットが魔昌石をアピールしてくれないと、僕が私欲でナスルさんに大金を貰ったと思われるだろ? そして、レットだけがお礼を言ったら、絶対にお礼を言わないセレンたちの評判が相対的に下がるだろ? ……ふぅ、レットももう少し気を使ってよ」


「……何かすげぇ間違ってる気がするな。それだと俺が礼儀知らずだと思われそうだしよ」

「大丈夫大丈夫。レットの評判は高過ぎるくらいなんだから、この機会に下げちゃいなよ!」

「『下げちゃいなよ』じゃねぇよ! むしろお前は、俺とナスルさんにもっと気を使えよ!」


 我儘(わがまま)なレットと言い合いをしているうちに、僕らはナスルさんの部屋の前へとやって来た。


「それでアイス、ナスルさんに何の用なんだ? 俺が付き添う必要があるのか?」

「ああ、うん。ちょっとナスルさんにお願い事があってね。ほら、先日大金をおねだりしたばかりだから頼みづらくてね。レットを緩衝材に使おうというわけだよ」

「もう清々しいくらい俺のことを利用してるな……正直に言えば良いってもんじゃねぇぞ……」


 文句を言いながらも立ち去ろうとしないのが、レットの人が良いところだ。


「――すみません、ナスルさん。今、少しお時間よろしいですか?」


 ドアをノックして、室内にいるナスルさんに声を掛ける。

 中に一人でいるのは気配で察知済みだ。


「ア、アイス君か。入りたまえ」


 僕の来訪を警戒していたナスルさんだったが、同行者のレットを見て、明らかにホッとしている。

 やはりレットを連れてきて正解だった。

 極端な話、その場にいるだけで部屋の空気を清涼なものに変える男なのだ。


「いやぁ……大したお願いではないんですが、僕らは温泉旅行に行こうと思っていまして、先日お借りした馬車をまたお借り出来ますか?」

「それは構わないが……軍を動かすまで二週間もないが、間に合うのかね?」

「もちろんですよ! 遊び呆けて大義を忘れるなんてことはありませんとも。

 あとついでに、〔神獣〕が出没しているという噂も聞いたので、寄り道がてら接触する予定です」


「神獣がついでか……私の元には神獣の一報は入っていないが、ここから近いのかね?」

「ポトから温泉地〔ビズ〕へ行くまでの途中で、神獣の目撃情報があったらしいです。厳密に言えば、ルピィが幾つかの小さい情報を統合して判断したことですが、間違いないはずです」

「ルピィさん――盗神の彼女がそう言うのなら、たしかに間違いはあるまい」


 ルピィはナスル城の人間全般と良好な関係を築いているが、ナスルさんとだけは一定の距離を保っている。権力者にまだ不信感でもあるのか、あくまでもルピィは、ナスルさんの部下ではなく〔僕の仲間〕というスタンスを崩さないのだ。

 フェニィに至っては、ナスルさんと距離を置いているどころか、僕ら仲間たち以外の全員と距離を置いている――いや、置かれているが……。


「ルピィによると神獣はまだ幼体らしいので、話が通じそうなら城に連れて帰ろうと思います。この大きな城なら、放し飼いが出来そうですからね。敵対的な神獣であれば、ジーレの生け贄になってもらうつもりです。そうなんです――ジーレも遂に神獣デビューというわけですよ! これはどちらに転んでもお得ですね!」

「……神獣を放し飼い……ジーレを生け贄」


 中々聞けないグッドニュースに、ナスルさんも顔色を変えて喜んでいる……!

 ナスルさんは感涙の涙に溺れているように、藁をも掴むようにレットの方へ手を伸ばす――


「待てアイス。ジーレちゃんに神獣はまだ早いだろう」


 ナスルさんの手に応えるように、レットが否定的な意見を出した。


「いやいや、ジーレは大したものだよ。特筆すべきは境遇のせいもあって〔痛み耐性〕が強いことだね。神獣に腕一本もがれたって集中を切らさないはずだよ!」

「き、君はジーレの腕を……?」

「いやぁ、お恥ずかしい話なんですが、僕の治癒術では接合に自信が無いですからね。僕の母さんぐらいに治癒術が上手ければ試してみたいところなんですが……残念無念ですよ」


 ナスルさんは娘の秘められた実力を耳にして興奮している。

 そう、ジーレだったら四肢をもがれた状態でも重術を行使出来ることだろう。

 惜しむらくは僕の治癒術が未熟なことだ……ナスルさんに娘の勇姿を見せてあげたかったなぁ。


「アイス……お前はもういいから、部屋に戻るんだ」


 感情が高ぶりすぎたのか、よろめいているナスルさんを支えながら、レットが僕に告げた。

 レットめ……僕のいないところで、またナスルさんと親交を深めようというのだな。

 しかし話も終わったことだし、ここは言う事を聞いておこう。


明日も夜に投稿予定。

次回、七六話〔プロポーズ〕

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