七一話 家族紹介
――ようやく、僕はセレンと和解することが出来た。
そう、ようやくだ。些細なすれ違いから、ちょっとした諍いになってしまったが、大過なく丸く収まってよかったよかった。
おっと、気を失っているセレンの部下さんたちを回復させてあげなくては。
心停止している人も何人かいるようだが……まだ時間は十分も経過してないから大丈夫だろう、多分。
……僕はさくさくと倒れている人たちを現世に復帰させていき、ついでに指無しさんの怪我も直してあげて、無事全ての工程を終えた。
フェニィがちょいちょい誰かの心臓を止めてしまうおかげで、すっかり手際が良くなってしまっている。
罪無き人の心臓を止めてしまうなんて、僕の周りには心臓に悪い人間が多いなぁ……。
なにはともあれ場も落ち着いたことだし、ようやくセレンを仲間たちに紹介できるぞ。
才気溢れる僕の可愛い妹だ。皆も大歓迎してくれるに違いない……!
「…………」
「…………」
フェニィとセレンは、向かい合ったまま一言も発しない……。
ま、まぁ二人とも人間関係が受け身なところがあるからね。
黙して語らずな二人の為に、ここは僕が一肌脱ごうじゃないか……!
僕はおもむろにフェニィの手を掴んで、ぶんぶんと握手をする――フェニィは不思議そうな顔をしつつ、僕のなすがままだ。
次にはセレンの手を握り締め、同じようにガッチリ握手をする――これで〔間接握手〕の成立だ……!
「こちらはフェニィ。フェニィは『セレンちゃん、よろしくねっ』って、言ってるよ」
気が利く僕はフェニィの言葉を代弁しておいた。これで万事解決だ!
……フェニィの反応をあえて視界に入れないようにしつつ、ルピィに視線で合図を送る。
「次はボクだね。ボクは〔盗神〕ルピィ=ノベラーク。セレンちゃんのことはアイス君から『これでもか!』ってぐらい聞いてるよ」
「こんにちは、にぃさまがお世話になっています」
如才ないルピィが、今度は普通に自己紹介を交わしてくれる。
……だが笑顔のルピィは、なぜか僕に手を差し出している。
――ぎゅっ。
仕方がないので、よく分からないままにルピィとも握手をする……そして焼き直しのようにセレンとまた握手をする。
なぜルピィはセレンと直接握手をしないんだろう? と思ったが、なぜだか二人とも嬉しそうなので、良しとしよう。
そして次はいよいよ――僕の本命、ジーレだ。
なにせ、この二人は同い年の同性。さらに両者ともに〔神持ち〕な上に、二人とも友達が少ない。……いや、セレンには友達と呼べる人間はいない。
この共通項の多い二人なら、親友になれる素養があるはずだ。
ついにセレンにも友達が出来るかと思うと、思わず目頭が熱くなってしまう。
セレンには少し威圧的なところがあるが、物怖じしないジーレなら上手くやってくれるはず……僕はわくわくしながら、後ろに隠れていたジーレをセレンの前へと押し出す――
「よ、よろしくおねがいします……セレン、さん」
――敬語! なんで敬語なんだ!?
そもそもジーレが敬語を使っているところなんて、聞いたことがないのに!
ひょっとして、さっきセレンが冗談で脅していたのを真に受けているのだろうか?
しかし、このままではまずい。
僕が密かに温めていた〔セレン友達、百人計画〕が初手からつまづこうとしている。考えてもいなかった〔セレン部下、千人計画〕は達成してしまっているのに。
ここは、僕が全力でサポートするしかない……!
「ジーレ、セレンは同い年なんだから、『セレンちゃん』でいいよ」
「えっ……でも、おにぃちゃん――」
――くわっ!
「ひっ……おにぃちゃん……!」
『おにぃちゃん』の単語に反応して、セレンが目を見開いたような錯覚を受けた。
……いや、違う。器用に一瞬だけ殺気を放ったんだ。
なんてことを……ジーレとの距離がますます広がってしまうではないか。
「セレン、ジーレが僕を『おにぃちゃん』と呼ぶのは、身近な男を深い意味無く、気軽に呼んでいるだけだよ。……セレンだって小さい時は『レットおにぃちゃん』って呼んでただろ?」
「そのように呼んだことはありません」
スパッと切り捨てられた。
……幼少期の記憶なら改竄が可能かと思ったが、甘くは無かったようだ。
レットが「適当なこと言いやがって!」という憤慨した顔をしているが、気を回す余裕は無い。
かくなるうえは……よし、あれでいこう。
僕は、さりげなくセレンの後ろに回り込み――後ろから覆い被さるようにセレンの手を掴んだ。
――これぞ、〔二人羽織作戦〕だ!
僕はセレンの手を持ち上げ、ジーレに握手を求めるように掲げる。
『私セレン。ジーレちゃんよろしくね。もう私たちは――ベストフレンドだよ!』
――どうだ!
兄として、セレンの声帯を模写することなど朝飯前なのだ……!
素直になれないセレンの代わりに、文字通り、僕がセレンの心の声を代弁するという非の打ちどころが無い作戦だ。
「に、にぃさま……息が、くすぐったいです」
おっと……思わぬところに作戦の弊害があったぞ。
僕は「ごめんごめん」と、セレンから離れた。
よほどくすぐったかったのか、珍しくセレンは顔を赤くしている。
「……まぁ、いいでしょう。よろしくお願いしますね、ジーレさん」
「う、うん。よろしくね、セレンちゃん」
おおっ……あのセレンが、素直に握手をしている!
二人羽織作戦により、僕の心情が伝わったに違いない。
僕のセレンを想う暖かい気持ちが伝わったのか、うってかわって機嫌を良くしているではないか……!
これはなんて感動的な光景なんだろうか。
僕は二人が握手している姿を脳裏に焼き付けた。
後でこの光景を、大きなキャンバスを使って絵にしよう。
そして出来上がった絵を、ナスル城の広間に飾るんだ……。
ナスルさんも感激すること間違い無しの、超大作の予感がするぞ……!
――なぜか、とても冷たい冷え切った眼でフェニィたちが僕を見ているが、セレンの声音で代弁したことを非難しているのだろうか?
しかしこれは、やむを得ない処置だったのだ。
明日も夜に投稿予定。
次回、七二話〔お揃いへの道〕




