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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第四部 刻の支配者

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六五話 怪物との遭遇

 それを聞いたのは、わしが部下のニトを連れてアジトの外へ出ていた時だ。

 反軍国を掲げる小規模な組織が〔指無し盗賊団〕への加入を希望していると聞いて、わしたちが面談に来ていた。

 面倒だが、アジトの所在を外部に教えるわけにはいかないから仕方ねぇ。

 しかし団員がどんどん増えてるのはいいが、わしはいつまで副長をやらなきゃいけねぇんだ……。


 それに〔指無し盗賊団〕ってなんなんだ……わしの団みたいじゃねぇか、冗談じゃねぇぞまったく。

 どんどん辞めづらくなってる上に、いざとなったら、わしが首謀者として処刑されちまうぞ。 

 ……まぁ、あの団長が負けることなんか想像も出来ねぇが。


 わしらが反軍国組織との話し合いを終えて帰ろうとしていた時、それを聞かされた――聞かされちまった。


「それじゃあ指無しの旦那、団長さんにくれぐれもよろしくお願いしやす。

 ……そいや、聞いてますか? ナスル王の軍が戦争の準備をしてるらしいですが――あの〔武神〕の息子もナスル軍にいるらしいですよ」


 ――()()()()()! 

 間違いねぇ、わしたちが探してる怪物兄貴じゃねぇか……なんで、よりにもよってそんな話をわしに聞かせやがるんだ……わし以外の誰かにしてくれよ。


「副長! それって団長が探してる――」


 ニトが小躍りしそうなくらい喜んで食らいつく。

 こいつは団長に心服してるから、団長の役に立てるのが嬉しいんだろう。

 行かないわけにはいかなぇな……それに団員から〔始まりの三人〕と呼ばれている、わしら幹部三人はよく知ってる。

 元々わしらは、アイス=クーデルンを捜すついでに、軍国施設を襲ったりしてたんだ。

 今となっちゃあ、反軍国の急先鋒みたいに言われてるが、団長にとっちゃあ、あくまでもそれは『ついで』だ。


「しかもナスル王の街ポトって、ここからすぐ近くじゃないっスか!?」

「落ち着けニト。まずは、わしらで確認に行くぞ。団長に報告してガセネタだったら、とんでもねぇ目に遭わされるぞ」


 荒くれ者連中を〔指無し盗賊団〕という組織として成立させているのは、団長による徹底的な信賞必罰によるものだ。

 ほとんど団長ひとりで陥落させているような軍施設の戦利品だって、活動資金分だけ確保して、気前よく全員に分配してくれる。……その代わり、民間人に乱暴するようなバカ野郎は、生まれてきたことを後悔するような凄まじい罰を受ける。

 団長が執着してる兄貴のことで、ぬか喜びさせるような真似をすれば――


「そ、そうっスね。とりあえず行ってみやしょうか」


 ――――。


「――アイスちゃんのことかい? あんたらもナスル軍に加わりにきたクチかい?」


 ポトに着いて食堂で話を聞いたら、すぐに答えが返ってきた。

 本当にこの街にいるらしい……いや、まだ、名前を騙っているだけという可能性もある。


「そのアイスさんってのは、どんな人なんだい?」

「どんなって……う~ん、黒髪で綺麗な顔をした、礼儀正しい男の子だよ」


 捜してるやつと違うんじゃねぇか?

 そうわしは思ったが、一応居場所を聞いてみる。


「普段なら城にいるだろうけど……そうだ、この時間ならきっとあの店にいるよ!」


 そう言って教えてもらったのは、ポトでも人気の甘味処らしい。

 その『アイスちゃん』は、話しかけたら気さくに返事を返してくれるそうだ。

 ますます別人みてぇだな……わしの探してる男は、甘いものより人の生き血が好きって男だ。


 だが、わしらはその店に行くまでもなかった。

 教えられた店に向かう途中、一際目立つ集団が向かいから歩いてきたのだ。

 その中の一人が――

 ――似てる。団長にそっくりじゃねぇか……。


「副長……あの人じゃないっスか?」


 ニトもそう考えたみてぇだ。

 しかし、団長……セレン嬢に似てはいるが、セレン嬢が魂の無い人形なら、アイスの兄さんは魂のある人形と言える。

 二人ともよく似た整った顔立ちをしてるが、アイス兄さんの方は暖けぇ優しい感じがする。

 ニトも取っつきやすそうな相手に安心したのだろう、緊張することもなく気軽に声を掛けた。


「すいやせん。ちょっといいっスか? 俺たちは〔指無し盗賊団〕のものなんすが、妹さん……セレン――」


 ――瞬間。心臓を握り潰された。

 違う、錯覚だ……!

 存在ごと押し潰すような殺気が、アイス=クーデルンから叩きつけられてるんだ。

 っ……声が出ねぇっ、息ができねぇ…………。

 まさか……盗賊団を名乗ったあとに妹の名前を出したから、誤解されてんのか?

 やべぇ……このままじゃ、言い訳もできねぇまま死んじまうっ……!


「待て、アイス! 話が聞けなくなる!」


 彫の深い、彫刻みたいな顔した兄ちゃんが声を掛けて、ようやく殺気が収まった。

 わしは、息も絶え絶えに、慌てて弁明した。


「わしらはセレンさんの部下! 味方でさぁ!」

「部下……?」


 アイス=クーデルンは、わしらのことを奇妙なものを見るような目で観察しているが、ひとまず落ち着いてくれたみてぇだ。

 ……まったく冗談じゃねぇぞ。

 言葉選びを間違えただけで殺されそうになるなんて、妹と変らないじゃねぇか。

 見た目が無害そうだから余計にタチが悪い……羊の皮を被ったケモノだぜ、こいつぁ。


「これはすみません……急に妹――セレンの名前が出てきたので驚きまして。

 いやぁ……びっくりして心臓が止まるかと思いました」

「いやいや、心臓が止まりそうになったのはこっちですぜ! なぁ、ニト……ニ、ニトぉ!!」


 わしがニトの方を向いた瞬間、ニトが受け身も取らずに顔から地面に倒れた。

 ――この倒れ方はヤベぇ!


 わしが反応するより早く、アイスの兄さんが目にも留まらぬ速度でニトに駆け寄る。

 そして慣れたことのように、ニトの胸元に手を当てて「どんっ」と、軽く叩いただけでニトの意識を回復させた。


「……っごふ」


 アイスの兄さんは、見惚れてしまいそうな爽やかな笑顔でわしに言った。


「大丈夫です。ちょっと呼吸と心臓が止まっていただけでした」


 ――全然、大丈夫じゃねぇ! 死にかけてんじゃねぇか!

 知らねぇ間にニトの顔の怪我も治ってるが、治癒術なのか?

 ……わしは混乱の極致にいた。


「あれっ……俺、どうして……?」


 意識がはっきりしたニトは、記憶が混濁してるみてぇだ。

 すかさずアイスの兄さんが心配そうな声を掛ける。


「大丈夫ですか? きっと旅の疲れが出たんでしょう。あちらの店で少し休みましょうか」


 こいつ、何も無かったことにする気だっ……!

 わしは改めてアイスの兄さんが恐ろしくなった……。

 そして、その仲間の反応もおかしい。

 まるで「まったく仕方ないなぁ」みたいな雰囲気で、誰も気にしちゃいねぇ……!

 人が一人死にかけたのに、なんだこの反応は。日常茶飯事みてぇな空気だ……。


『なんだ、どうしたんだ?』

『アイス=クーデルンが怪我人を治療してたみたいだぞ』


 街の人間が何事かと集まってきてるが、アイスの兄さんが人助けをしたみたいな空気になってるのも引っ掛かる。

 どうやらこの街では、アイスの兄さんの顔と名前は売れてるみてぇだが――こいつぁ自作自演もいいところだ!


「あざぁっス、アイスさん!」

「いいんですよ。さぁ、行きましょう」


 ニト、騙されちゃあいけねぇ!

 そいつぁ、お前をそんなふうにした張本人だ!

 しかし、慈悲深い穏やかな笑みを浮かべてるアイスの兄さんを疑うようなやつは、その場に誰もいなかった――

別視点はここまでです。

明日も夜に投稿予定。

次回、六六話〔妹への旅立ち〕

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