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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第四部 刻の支配者

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六二話 つづく格差社会

「――冗談みたいにデカい風呂だったな」

「うん、まぁ、普段は兵士さんたちも大勢使ってる大浴場だからね。女風呂の方なんかは、今日はジーレも一緒に入るって言ってたから、それこそ貸切りになってると思うよ」


 僕とレットはナスル城の大浴場でひと風呂浴びて、部屋で寛いでいた。

 ナスルさんにレットを紹介した結果、レットも城に滞在することになったのだ。

 ――レットを紹介し始めた時は、なぜかナスルさんは警戒心を剥き出しにしていたが、敬語を崩さず礼儀正しいレットのことを大層気に入ったらしく、別れ際にはレットの手を取り「いつまでもここにいてくれ!」と熱く語っていた。


 ルピィやフェニィには敬意という感情が欠片も無いので、礼儀正しいレットの態度が余計に胸を打ったのかもしれない……あの二人にはレットと僕を見習ってほしいものだ。

 先日、僕がジーレと海に行った話をした時だって、ナスルさんは感激して喜んでいたのだ――


「――いやぁ、ジーレも乗った舟が沈んだ時はどうなるかと思いましたよ……周囲は魔獣だらけでしたし。でも、色々ありましたが、ジーレも泳げるようになりましたし、これも怪我の功名というやつですね。今じゃジーレはバタフライだって出来るんですよ!」


 それを聞いたナスルさんは感動のあまり言葉を出せず、口をぱくぱく、体をぷるぷる震えさせながら歓喜に震えていたのだ。……気持ちはよく分かる。

 ずっと寝たきりだった娘が、今やいっぱしの〔バタフライ泳者〕なのだ。

 感動もひとしおだろう……!


「そういえば、大浴場のわりにやけに人が少なかったな……。っていうか、入ってくる人間がお前の顔を見て出ていってなかったか? アイス……お前、また何かしたのか?」


 失礼な、僕は何も(やま)しいことなどしていない! 

『ソノトオリダゼ』――僕の心にいるロブさんもそう言っている。

 僕の心に住んでいるロブさんは、いつも僕を肯定してくれるのだ!


「それにアイス、なんか体に生傷が増えてないか? そんなに危険な事してんのか?」


 幼少期の訓練による傷は、母さんの治癒術が優れていたので残っていない。

 だが、最近のルピィたちとの戦闘訓練で負った傷は……どうしても僕の治癒術では痕が残ってしまうのだ。

 基本、僕はほとんどの攻撃を回避するのだが、めきめき腕を上げてきている二人を相手にすると、時々怪我を負わされてしまう。

 そんな時、滅多に攻撃が当たらないせいなのか、攻撃を受け、血を流している僕を見て――二人は会心の笑みを浮かべて喜んでいるのだ。

 ……仲間に怪我を負わせて喜ぶ仲間。

 彼女たちは本当に僕の仲間なのだろうか……?


「……ルピィたちとの模擬戦でよく怪我をするんだよ。二人ともかなりの腕前になってるから、レットも危ないと思うよ。この城には練兵場もあることだし、今度一緒に行ってみようか」


 僕らはロブさんの一件以降も、気にすることなく練兵場を利用し続けている。

 直接〔出入り禁止〕を言い渡されたわけではないので、問題は何も無いのだ……!


 そうこうしているうちに、同じく風呂上りのルピィが帰ってきた。

 僕ら四人は同じ客室なのだ。

 当初、レットは遠慮して別の部屋に行こうとしていたが、もちろん僕は逃がさなかった。

 ルピィとフェニィも当然のように気にしていなかったので問題はない。


 だが、戻ってきたルピィの様子が平素とは異なっていた。

 風呂に行く前より、明らかに意気消沈している――既視感。

 これと同じ光景を僕は見たことがある。……フェニィが仲間になったばかりの頃、フェニィと一緒に風呂に入って戻ってきた時だ。

 今になって、何故また? 


 ――そうか、ジーレだ!

 今日はジーレと初めて一緒に風呂に入ったはずだ。

 ここから導き出される結論は一つ。

 ジーレにすら、負けてしまったのだろう……。


 ジーレは年齢のわりに発育が遅れているので、おそらくは八歳くらいの体型のはずなのだが、〔絶壁のルピィ〕と異なり、ジーレにはわずかなりとも胸部の膨らみが存在したのだろう。

 なんてことだ……僕には掛ける言葉が見つからない。

 こんなことがあっていいのか? 仮にもルピィは二十歳の女性なのに……。


 ――その時、僕の脳裏に閃きが走った。

 逆転の発想――そもそもルピィは本当に女性なのか?

 よくよく考えれば、本人の自己申告のみで僕が自分で確認したことはない。

 実は彼女――いや、『彼』は男性なのではあるまいか?

 しかしたとえルピィが男であったとしても、僕の態度が変わることはない。

 あるいは身体は男で、心は女、という複雑な事情を抱え込んでいるのかもしれない。

 どちらであったとしても、僕はこのまま何も気付かなかった体で、普段通りに接してあげよう……!


 僕がルピィのことを考えていた時間は、刹那の間に満たなかっただろう。

 だが……ルピィにとっては充分な時間だった。

 僕からの、同情でも憐れみでもない疑惑と猜疑の視線。

 そして、納得して心の折り合いをつけることで、憐憫や慈愛へと変化した気の緩み。

 僕の心の動きはルピィによって――丸裸にされていたのだ。


「――アイス君? 今、考えてたこと、教えてほしいな?」


 地の底から響いてくるような、絶望を感じさせる声だった。


「な、なにも……なにも考えてないんです。本当なんです……」


 僕の声は震えていた。

 失礼な事を考えていた後ろめたさと、ルピィの怨嗟を含んだ声に怯えて、平静さを失っていたのだ。

 ……だが、惚けきってみせる!


 僕には勝算があった。疑わしきは罰せず、が法の原則だ。

 怪しいだけで断罪される事など許されないのだ。

 ――しかし、ルピィは切り札を使った。


「レット君?」


 レットはルピィに声を掛けられて、ぴくりと震え……やがて無言の圧力に屈した。


「……アイスは、嘘を吐いています……」


 レットっ、お前!?

 まさかの友人の裏切り。大きな力を持つものには相応の責任が伴うのに。

 レット、お前の能力はこんなところで使う為のものじゃないはずだ!


「アイス君、嘘はよくないよ……傷付いちゃうよ?」


 ルピィは笑顔で言った。

 無邪気どころか邪気しかない笑みを見て、僕は直感した。

 きっとこれから、僕は物理的に傷付くことになるだろう……。


明日も夜に投稿予定。

ありがたいことに読者さんも増えてきたので、なるべく20:30前後での投稿に統一したいとは考えていますが、帰宅時間によって遅れる事が多々あると思います。遅くとも当日中には投稿しますのでご容赦願います。。

次回、六三話〔セレン=クーデルン〕

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