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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第四部 刻の支配者

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六一話 親友との再会

 それは、最近行きつけの甘味処で、ひとときの安らぎを満喫していた時だった。

 いや、正直に言えば、ひとときどころではない。

 僕らは〔待ち〕の大義名分があるのをいいことに、毎日遊び歩いていたのだ。

 その時も、ジーレを街に連れ出して甘味休憩の最中だった。

 ……ナスル城の人たちは、未だに僕らを恐れているのかよそよそしいし、僕らはタチの悪い居候になりつつあるのでは? というのが、僕の悩みになりつつある。


「――あ、レット君だ」


 ただ寛いでいるようにしか見えないルピィが唐突に言った。

 それも僕の方を見ながらだ。……もちろんルピィが昼間から泥酔していて、僕とレットを誤認しているわけではない。

 お得意の〔聴覚による防諜網〕にレットの足音でも引っ掛かったのだろう。

 雑踏でも百メートル以内なら余裕と言っていたので、店外の音を拾ったと思われる。


 ――僕は慌てて大通りに飛び出す。

 甘味処では既に常連客となっていたので、食い逃げを心配される恐れはない。

 なにより、僕の仲間たちは変わらず食事を続けている……!

 ナスル軍の軍備を整えるのと並行して、セレンとレットを待っているのが僕らの目的だったはずなのだが……。


 しかし店外に出て辺りを見回しても、レットの姿は無い。

 内心焦りつつ、ルピィを呼んでくるべきか……と僕に迷いが生じ始めていた時、懐かしい顔が遠くに見えてきた。

 ――レットだ。

 今まさにポトに到着したといった風体で、旅の汚れを身に纏っているが間違いない……!


「レット! 待ってたよ!」

「お、おう。アイスか。どうしたんだ、こんな所で?」


 レットは戸惑っていた。

 僕がポトに行くことを伝えてはいたが、自分を待ち構えているとは思わなかったのだろう。


「詳しい話は店の中でしよう。仲間が待ってるんだ」


 久しぶりのレットに思わずテンションが上がってしまったが、路上で話すには話すことが多すぎる。

 フェニィあたりは僕がいなくなっている事に気付いているかも怪しいが、仲間が待っている店に戻るとしよう。


「仲間? ルピィさんだけじゃないのか?」


 僕の言い回しの違和感に気付いたようだ。

 レットと最後に会ったのは半年前なので、僕が〔排斥の森〕に行く前になる。

 今や僕の周りには、フェニィとジーレも加わっているのだ。

 ……厳密に言えば、ジーレはこの街限定の仲間のようなものだが、なし崩し的に僕らの一味に加わりつつある。


「その辺もまとめて話すよ。いやぁ、レットがポトに来るのを心待ちにしてたよ」


 戦力的な意味もあるが、最近の僕らは女子率が高いので、男の僕は少し肩身が狭かったのだ。

 レットが来たからには、もう好きにはやらせないぞ……!


「あ、レット君、おひさ~」


 半年振りに会うはずなのに軽いルピィ。

 出迎えに行く素振りも見せなかったし、僕の希望の星であるレットが傷付いたらどうするんだ……!


「紹介するよ。こっちがフェニィ、この子がジーレだよ」


 僕は女性グループに困惑するレットに手早く紹介した。


「お久しぶりです、ルピィさん。お二人は初めまして、俺はレット=ガータスです。……〔裁定神の加護〕を持っています」


 僕の知る〔神持ち〕の中では図抜けて常識人のレットが、そつなく丁寧に自己紹介をする。

 僕の仲間と伝えてあるので加護も明かしたようだ。

 ――そうだ、僕の求めていたのはこれなんだ。

 間違っても、初対面で高々と名乗りを上げたりしないんだ!


「……〔炎神〕フェニィ=ボロスだ。(もぐもぐ……)お前の事は聞いている」


 前回ナスルさんに名乗った時といい、冠に加護を付けるのが気に入ったのだろうか?

 ――というか、食べながら喋ったら駄目だっていつも言ってるのに……!

 まったくフェニィときたら……子供のせいで恥をかかされた親の気分だ。

 だが、いつもの無駄に威圧的な雰囲気が薄まっているので、これはこれでアリなのか?


「〔重神〕ジーレ=テングレイだよ! よろしくね!」


 ジーレが真似をしてしまっている……もしかして、僕らはジーレに良くない影響を与えているのだろうか……?

 今回は良いけど、加護は不用意に明かさない方がいいと教えておこう。

 ナスルさんに怒られてしまうではないか。


「よろしく。……ん、炎神? アイス、まさか三カ月前に()()()()の屋敷が燃えたのって……」


 鋭いレットは気付いてしまったようだ。

 あの領主は僕らにとって浅からぬ因縁がある相手だ。

 その領主が不自然すぎる最期を迎えて、僕らの仲間に〔炎神〕がいるとなれば疑われるのも仕方がない。


「うん。ちょっとした手違いで派手に燃えてしまったけど、あれはフェニィの仕業だよ」

「どんな手違いであんな事になるんだ……遠くにいたのに火柱が見えたぞ。

 ……いやそれより、あの領主のとこに復讐に行くんだったら俺にも声掛けろよな」


 そう、レットにとってもあの領主は憎い仇だったので、レットも誘うべきだったのだが――


「ごめんごめん。急に思いついちゃったんだよ。『――そうだ、襲撃に行こう』って」


 それに、フゥさんの命日に合わせて決行したかったので、時間的余裕が無かったのだ。


「旅行感覚かよ……相変わらずアイスは、とんでもない事を平気でやるよな……」

「それに、大丈夫だよレット。最初の一撃で全部終わっちゃったから。結局、僕も領主と一度も会わずに終わったんだよ」

「何が大丈夫なんだ……まぁ良いけどよ」


 ――しばらく近況を報告しあっていた時だ。


「……ちょっといいか、アイス」


 レットがなぜか戦々恐々といった様子で、こそこそと小声で聞いてくる。


「……もしかして、ルピィさんと付き合うことになったのか?」


 ……ふむ、これはあれだな。

 僕がルピィに敬語を使っていないのに気が付いて、勘違いをしたようだな。

 レットは小声で話しているが、ルピィとフェニィの気配が変わったのが感じられる。……そう、二人の前で内緒話をしても筒抜けになるだけだ。

 しかし、こんな誤解は解いておかなければ。

 ルピィを僕なんかの恋人扱いするなんて失礼ではないか。


「付き合うとかそんなんじゃないよ。ただ色々あって、ルピィに遠慮するのを止めただけだよ」

「そうか……というか、それだけじゃねぇ。セレンちゃんは、アイスが女の子に囲まれて旅をしているのを知っているのか?」

「誤解を招きかねない言い方はやめてよ……そんな浮ついたものは一切無いんだから。セレンへの手紙はなるべく控えてるから、僕の近況は知らないはずだよ」


 どんなところから軍国へセレンの情報が漏れないとも限らない。

 毎日でも手紙を書きたいところを我慢しているのだ。 


「それはまずいな……セレンちゃんがアイスの現状を知ったら危険だ。ルピィさんたちの命に関わるぞ」


 レットは深刻な顔をして考え込んでいる。


「――なになに? ボクたちに何かあるの?」


 ルピィが当たり前のように、僕たちの内緒話に介入してくる。

 そのことの違和感すら気にならないのか、レットは真面目に答えた。


「……アイスの妹、セレンちゃんと初めて会った時は注意してください。問答無用で攻撃を受ける恐れがあります。……まず、アイスに説明してもらって、場が落ち着いてから接触してください」


 まるでセレンのことを猛獣かなにかのように言うレット。

 セレンはたしかに〔やきもち焼き屋さん〕なところがあるが……あんまりな言い分じゃないか。


「大げさだよレット。セレンのことを誤解されちゃうだろ? いくらなんでもそんなこ――」

「――バカ野郎! ルピィさんたちの命がどうなってもいいのか!」


 僕の言葉は遮られ、一喝された。

 まるで、人質を取った強盗犯のような台詞だ……!

 しかしレットがあまりにも真剣な様子だったので、僕には茶化すことが出来なかった……。


「そ、そんなに危険な子なの、セレンちゃんって? アイス君はいつも、大人しくて優しい子だって言ってるんだけど……」


 レットの剣幕に、引き気味のルピィが問い掛ける。


「アイスの言葉は全て忘れてください。……俺たちの育った村では、同世代の女の子もいました。アイスは見た目だけなら落ち着いていて顔も悪くないし、女の子に言い寄られても不思議ではありません――ですが、アイスに近付く異性はいなかったんです」

「まさか……セレンちゃんが何かしてたの?」

「証拠は無いですが、まず間違いないと確信しています」


 ところどころ引っ掛かる話だ。

 そもそも僕が女性にモテるわけがないのだ。

 たしかに僕に話しかけてきた女性が、翌日には怯えたような顔をして僕から距離を取るなんてことはあった。

 ただそれは、僕という人間の本質を知って嫌悪感を抱いただけなのだろう。

 セレンのせいにするなどと、もってのほかだ。


「なるほどね……良い子みたいだね」

「ええっ!?」


 ルピィの出した結論にレットは驚いている。

 さすがはルピィだ。ちゃんとセレンの良さを分かってくれている……! 


「ルピィなら分かってくれると思ってたよ! やっぱりルピィは最高だ!」

「そ、そう? えへへ~」


 ……レットは諦めたように天を仰いでいた。


明日も夜に投稿予定。

次回、六二話〔つづく格差社会〕

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